異常事態発生

「ふぅ……これで十四匹目っと」


 ハードキャタピラーの糸を集めはじめてから約三時間。

 あれからは、ずっとハードキャタピラーを連れて糸を集めて、その間に再生した木々をまた掘り起こして、またハードキャタピラーの糸を集めるといったことをしていた。


「あと一匹だけど……どこだ?」


 とりあえず残り一匹というところまでは順調だったんだけど、最後の一体がどうしても見つからない。


「おっ?」


 とか考えていたら普通に【索敵】に引っかかった。

 けど……


「おかしいな?なんでこんなに移動が早いんだ?」


 俺の【索敵】では、確かにそのハードキャタピラーの反応がある。


 それに、今いる場所からもそう遠くはない。

 なのに、何故かそのハードキャタピラーの動きが妙に早かった。


「人っぽい気配の反応もハードキャタピラー周辺にはないしなぁ」


 普通だったら倒すのに失敗したパーティーか個人が逃げているのかと思うだろうけど、人の気配の反応はしないからそれも違う。


 あとは他のハードキャタピラーの気配を感じないのと、そもそも同じ種族のモンスターどうしでは戦わないからこれも違う。


「う~ん……」


 わからない。

 何か見落としているのかと思ったけど、そんなこともない。

 実際、現在も【索敵】にもひっかかってるのは移動速度が異常に早くなってるハードキャタピラーだけだ。


「まっ、考えてても仕方がない」


 だからと言ってここで考えていても答えが出るとも思えないし……


「行動あるのみだな!」


 そう結論付けて、俺はハードキャタピラーを木々の間を抜けるように追いかけるのだった。




 ハードキャタピラーを追いかけることしばらく。


 とうとう、目的のハードキャタピラーに追いついた。

 いや、追いつきそうになったと言う方が正しいのかもしれない。


 視界に納めたハードキャタピラーは、なぜか敵がいない限りしないはずの回転での移動していた。

 そのせいで、もう少しで追いつくと言ったところで、ハードキャタピラーは急に速度を変えずに方向転換をして、この樹林のダンジョンの奥の方へ向かって行ってしまったのだ。


「だけど、これはどこに向かってるんだ?こっちの方にはなにもないはずだよな……?」


 おかしいのはそこだ。

 これがまだ下の階層へと繋がっている階段へ向かっているということだったら……まあ、納得はしたくないけど一応納得はできる。


 けど、ここら辺には下への階段なんてないから、そういうわけでもない。


「……行ってみるしかないか」


 俺は少し悩んだ末に、結局はおかしな行動をしているハードキャタピラーの後を追うことにした。


 もし、このまま放置しても面倒なことにしかならない。なら、追って仕留めてしまった方が楽だし安全だ。


 なんせ今日中にもう一体分ハードキャタピラーの糸を集めなければいけない。

 それに、未だに周囲には今追っているハードキャタピラー以外の気配が感じられないんだからどのみち追うしかないし。


「それにしても、こいつはいったいどこまで行くんだ?」


 俺がそう呟いた瞬間、目の前のハードキャタピラーは今まで以上の速さで木々の間を抜けていき、突然止まった。


「なんだ?」


 不思議に思いながら俺も木の影に隠れながら止まる。

 そのまましばらくハードキャタピラーの様子を伺っていたけど、モソモソと腹脚が動き出した。


 そして、ある程度進んだところで──


「なっ!?」


 ──ハードキャタピラーが突然その姿を消して、思わず声を上げてしまう。


 そしてす、ぐに【索敵】を確認すると、さっきまで確かにそこにいたはずのハードキャタピラーを示す反応も消えてしまっていた。


「どういうことだ……?」


 さっきまで確かにそこにいたし反応もあったはずだよな……?


 まさか幽霊って訳じゃないだろうし。


 ……じゃないよな?


「……考えるよりも先に確認するか」


 こんなことは俺は心当たりは一切ないし、考えてもわからないと思う。だったら変に時間を無駄にするよりは、まずは今の状況を確認した方がいい。


 そう判断した俺は、もう一度【索敵】で周囲の状況を確認してから木陰から出て、先程ハードキャタピラーがいた場所へと向かう。


「さてさて、どうなってるんだ?これは」


 たどり着いたその場所を見て、俺が真っ先に思った感想はこれだ。


 見た感じ、変わったような所は一切ない。ただそれだけ。


「ハードキャタピラーがここで消えたんだから何かしらここにあるはずなんだけどなぁ……」


 でも、周りを見渡してみてもそれらしいものは見当たらない。


 そう考えながら一歩先に進んだその時だった。


 突如ある場所を境に、踏み出した右足が突然景色に同化するようになくなったのだ。

 その事に俺が驚いて動けなくなった瞬間──


「うおっ!?」


 ──足がとてつもない力で引っ張られ、吸い込まれるようにズブズブと空中に消えていく。


 というかこれはとてつもなく不味い!


「うぉぉぉおおおおお!!!」


 俺は咄嵯の判断で地面に倒れ込み、近くにあった埋まっている石を掴んで全身の力を使って全力で踏ん張る。

 けど、吸い込む力が強すぎるからこのままだと……


「あっ……」


 とか考えていたら、埋まっていた石が俺の手によって握りつぶされた。


 あ~そうだよな。


 俺って探索者だし、レベルも結構上がってるから力に関係する攻撃力が結構高くなってるもんな。


 そらただの石ならこうなるわ。


 そんな現実逃避に近いことを考えている内に、俺の体は完全に吸い込まれてその場から消えるのだった。

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