樹林のダンジョン
「さてと……ここが樹林のダンジョンか……」
剛拳のダンジョンへ黒鉄の皆さんの探索の見学へ行ってから五日後。
俺は今、家からかなり離れた場所にある樹林のダンジョンの入り口前に立っていた。
「ステータス」
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天宮楓
レベル4088
HP:40900/40900 MP:22460/22460
攻撃力:4160(+52)
防御力:4110(+12)
俊 敏:13680(+9577)
器 用:4265(+152)
精神力:13740(+7417)
幸 運:50
BP:0
SP:130
スキル:【魔法矢Lv.20】【弓術Lv.30】【鷹の目Lv.10】【アイテムボックスLv.20】【捕捉Lv.20】【鑑定Lv.10】【MP増加Lv.20】【MP回復速度上昇Lv.20】【短剣術Lv.20】【索敵Lv.30】【隠密Lv.20】【状態異常耐性Lv.20】【予測Lv.30】【回避Lv.30】【金剛身Lv.20】【神風Lv.20】
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とりあえず
本当はもう少し上げたいところだけど、これ以上は流石に時間的に厳しいかな。
まぁ、それでも十分なレベルアップは出来たと思う。
「さてと……じゃあ行くか」
樹林のダンジョンの入り口は、魔犬のダンジョンの入り口と同じように木々に囲まれていて、パッと見ただけではわからない作りになっている。
けど、魔犬のダンジョンの時とは違って今は警備員がいるからわかりやすい。
例のごとく、樹林のダンジョンの入り口の前にいる二人の警備員さんに挨拶をしてからダンジョンの中に入る。
「ここが樹林のダンジョンか」
樹林のダンジョンの中は、まるで熱帯雨林のような場所だった。気温自体ははそこまで高くないけど、湿度が高いのか肌に服が張り付くような感覚がある。
それだけでなく、木々は生い茂ってるし、ツタも木の枝から垂れるように伸びているせいで視界はかなり悪くなっているけど、まあ、問題はない。
「そのためにレベルアップして手に入れたSPは全部このダンジョンの対策に使ったからな」
今回、樹林のダンジョンに潜るために上げたレベル分のSPは、全てハードキャタピラーのために使っていた。
振り分けた内容としては、【弓術】と【索敵】、【予測】、【回避】。
この四つのスキルレベルを20から30に上げている。
その理由としては、やはり視界の悪さだ。
樹林のダンジョンでは、木々が生い茂っているだけでなく、ツタも地面を這うように伸びて、さらに木の上にも絡みついている。
そのため、普通なら目視できるはずのモンスターの姿が全く見えないのだ。
しかも相手はBランクモンスターのハードキャタピラー。
下手をすれば、俺の防御力を考えみれば防具込みでも一撃で死ぬ可能性すらある。
だからこそ、俺は【索敵】を上げ、少しでも早く見つけるための準備をしたってわけだ。
それだけでなく、【予測】や【回避】は、ハードキャタピラーの攻撃を完璧に避けるために必要なものでもある。
そして、ハードキャタピラーの糸を回収し終えたら倒すために、今回は安定性を優先して【魔法矢】ではなく、【弓術】のスキルを磨くことに集中した。
「さてと……それじゃあ見つかる前にさっさと準備をするか」
今回の目的である、ハードキャタピラーを倒すための準備を進めるため、まずは【アイテムボックス】からあるものを取り出す。
「よっこいせっと」
【アイテムボックス】から取り出したのは、柄は普通の木材で取っ手は金属製だけど持ちやすくなっている。
そして、取っ手の反対側は金属製で足掛けは広く、その先は土に差しやすいように尖って作られた物。
そう。俺が取り出したのはスコップ。
ただし、探索者の力にも耐えられるようにできてる特別製の一品だ。
これはなにに使うのかというと……
「せーの!」
答えは単純で周囲のハードキャタピラーの糸を回収する時に邪魔になるであろう木をどかすため。
「ほっ!っと」
地面に突き刺し、そのままステータス任せに掘り起こす。
すると、根っこごと掘り起こした木がそのまま音を立てながら倒れていく。
それをまた同じように何度か周囲に別の木へと繰り返して【アイテムボックス】に放り込んでいく。
それが終われば、今度は掘り起こしたことで空いてしまった地面穴を掘り起こした土や盛り上がっている所から土を移動させて平らにしていく。
まぁ、なんにせよこれでようやく戦いの準備ができた。
少し面倒だし、ダンジョンの中だからまたすぐに元通りになってしまうだろうけど、それでも必要なことだから仕方がない。
「さてと、やりますか」
まずは、【索敵】スキルを使ってハードキャタピラーの居場所を探る。
「……いた」
【索敵】で反応をしっかりと探ると、まあまあ離れてはいるけど、一体のハードキャタピラーの反応を見つけられた。
「よし、じゃあ早速行きましょうかね」
一応、念には念を入れて疾走の短剣を取り出してから、【隠密】を使いつつ、反応の方に向けて一気に駆け出す。
走り出してから数分後。目的の場所にたどり着いた。
「……うん。あいつだな」
俺の視界の先にいるのは、全長3メートルはある巨大な芋虫型のモンスター。
その姿はまさに巨大という二文字が相応しい。
そんな普通では考えられないような巨体を持ったハードキャタピラーは、今は呑気に眠っているようで、大きな体を丸めて集めたであろう葉っぱの上で寝息を立てて眠っていた。
「ふぅ……」
思わず漏れ出てしまう安堵のため息。やっぱり初めて戦う相手と戦う時は緊張する。
それに、今回はこのダンジョンの環境もあって不人気なダンジョンなだけあって情報も少ないしな。
「さてと……とりあえず」
俺は疾走の短剣を構え直して、今回の狙いを定める。
今回の目的は、ハードキャタピラーの糸。
そのためには、当然だけど糸を一回出させる必要があるわけだ。
だけどハードキャタピラーは警戒心が強く、一度糸を出した後はある特殊な方法で糸を巻き付けてくる。
その方法は、俺もまだ体験したことはないからうまく行くかはわからないけど、とにかくまずは糸を吐き出させなきゃ始まらない。
「神風!」
疾走の短剣を構えてから、俊敏を上げる【神風】スキルを使ってハードキャタピラーに向かって全力で突っ込む。
相変わらず凄まじい速さで景色が流れて行く中、ハードキャタピラーの腹脚と呼ばれる部分を斬り落とす。
「キィ!?」
突然の攻撃に驚いたのか、ハードキャタピラーが大きな鳴き声を上げて目を覚ました。
それと同時に、ハードキャタピラーは俺を見つけるとすぐに攻撃態勢に入る。
「ほらほらこっちだ!」
起き上がったハードキャタピラーはすぐに俺を追いかけて糸を出してきた。
「お?意外に早いじゃん」
予想以上に早く糸を出してきてくれたおかげで、無駄に逃げ回らなくてすむからこれはありがたい。
だけど、これを避けるわけにはいかないから──
「ほっと」
──【アイテムボックス】から取り出した、キラースパイダーの時にも使った木の棒を使って糸を絡め取る。
「よっ……とぉ!」
そして、そのまま糸を引っ張り、ハードキャタピラーをこちらに引き寄せた。ハードキャタピラーの糸はハードとつくだけあって、強度がとんでもないことになってる。
その辺の普通の武器では全くと言っていいほど切れないぐらいの硬度を誇っているのだ。
だからこんな風に扱っても切れることはないし、問題はない。
「キーーーッ!!!」
糸を掴んで引き寄せたことで、さすがに耐え切れなくなったのか、ハードキャタピラーが俺目掛けて勢いよく飛んでくる。
俺はそれを待ち構えるようにタイミングを見計らってから迎撃したり、受け止めたりせずに回避に徹して一定の距離をとるように離れる。
すると、飛んできたハードキャタピラーは空中で丸まり、その体を器用に回転させ始めた。
「おっと」
そして、その回転を利用して地面に着地した瞬間に土煙を舞い上げながら木々を薙ぎ倒しながら少し離れた場所にいる俺の方に突撃してきた。
「よしよしよし。いいぞ。そのまま来い!」
それを見て、自分でもわかるぐらい笑みを深める。
そのまま、土煙の中から飛び出してくるハードキャタピラーの突進を一定の距離を保つように事前に準備した、木を掘り起こしておいた場所に向かう。
これが、寝ているハードキャタピラーの腹脚を優先して狙った理由だ。
腹脚を切断してしまえば、必然的に移動するための足が無くなるからこうやって回転しながら移動させることが出来る。
それだけで移動速度が変わらなくなるから、ずっと一定の距離を保つことが出きるのだ。
そのまましばらく移動すれば目的地の開けた場所にたどり着く。
「はい!到着っと」
「ギィーーーーーーーーーー!!!」
その場所に着くと同時に、さっきまでとは比べ物にならないほどの土煙を上げながらハードキャタピラーが近づいてくる。
「せーのっ!」
それを確認してから、ハードキャタピラーの回転を利用するように糸が巻き付いている棒を丸を描くように振り回す。
すると、俺の力+遠心力によって糸が引っ張られて、糸をどんどん吐き出させる。
「ふははははは!ここまで来たらもう逃がさないぞ!」
そう言って笑いながらも、さらにスピードをあげて糸を振り回していく。
これがこの樹林のダンジョンを不人気なダンジョンにしている原因である、ハードキャタピラーの移動方法兼戦闘方法だ。
このハードキャタピラーの戦闘方法は、この回転した状態での突進と糸を使った拘束。
特に糸を使った拘束はエグイ。
単純に糸をつけられるだけなら、そこまでダメージもないけど、回転している状態が厄介なのだ。
回転しながらこの樹林のダンジョンに生えまくっている木や岩などの障害物に糸を巻き付けて、完全に身動きが取れなくなるまで雁字がらめにしてから、ゆっくりと確実に仕留めに来る。
そんなことをされたら、自分を火達磨にでもしない限り手も塞がってしまうから完全に詰んでしまう。
「だからこそこうしてわざわざお前を引き寄せる必要があったんだよ!」
糸を大量に吐かせて、ようやく糸を出さなくなった瞬間、俺は【アイテムボックス】から龍樹の弓を取り出して、【魔法矢】で作った透明な矢をつがえる。
片手に糸を巻き取った棒と透明な矢の両方を持っているからかなり持ちづらいけど、【弓術】のスキルを上げておいたおかげで何とか構えることができた。
そして、もう片方の手でしっかりと弦を握りしめ、限界まで引き絞る。
「捕捉」
正直、糸もこれ以上出せないからその場から動けないハードキャタピラーには必要ないかもだけど、まあ一応ってやつだ。
「シッ!」
小さく息を吐き出すと共に、透明の矢を放つ。
まあ、当然ながら【捕捉】して必中になっている俺の矢が外れるはずもなく、放たれた矢は一直線にハードキャタピラーの眉間に向かって飛ぶ。
そのまま、俺の放った矢はそのままハードキャタピラーの眉間へ突き刺さる。
『レベルが20上がりました』
そして、しばらくのたうち回ってだんだんと力が抜けていくハードキャタピラーを見ていたら、レベルアップしたというアナウンスが流れてきた。
「これで一丁あがり……かな?」
俺は、手に持っていた糸を巻き取った棒と倒れ込んだハードキャタピラーを【アイテムボックス】の中へと仕舞っていく。
「よしっ!うまくいった!」
そして、収納を終えた俺はガッツポーズをしながら喜びの声を上げる。
正直、ここまでうまく行くとは思ってなかった。
最初の何匹かは失敗すると思ってたし……
でも、結果的に成功したんだから問題なし!
素人目だけど糸にはほつれてるところも、変なものがついていた様子もなかったしな。
「それじゃあこの調子で残り十四体もサクッとやりますか」
……とりあえず反応がめちゃくちゃ遠いからここまで連れてきてからだな。
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