見学
「グォォオオオオ!!!」
「回避!」
指示を出した杖を持った男性の指示に従って、オーガと近接戦闘をしていた槍使いの女性と大剣使いの男性が横に跳ぶ。
すると、さっきまで女性と男性がいた場所に拳が振り下ろされ、地面を大きく揺らした。
「ナイス!よし!今だ!」
オーガの攻撃を回避したことで、一瞬生まれた隙。
そこを逃さず、指示を出していた男性が魔法で作り出した水の槍を、もう一人の杖を構えた女性が風の槍をオーガに向かって放つ。
放たれた二つの魔法の槍は、それぞれオーガの首元と腹部に命中し、血が吹き出す。
「ギャァア!」
攻撃を受けたことで、苦悶の表情を浮かべながら、攻撃が命中したところを押さえるオーガ。
「これでトドメ!」
そのタイミングを待っていたかのように、最後の一人。
先程までは短刀を持って、遊撃のような役割を担っていた小柄な女性が、手に持っていたナイフを首に突き刺す。
そして、同時に槍使いの女性は胸を突き刺して大剣使いの男性は脳天に大剣を叩きつけた。
「グゥオ……」
そしてその一撃が決定打になったようで、断末魔を上げると同時に、オーガは地面に倒れて動かなくなった。
「本当に連携がすっごいなー……」
篠宮さん達のあとを付いていって、剛拳のダンジョンに入ってからおよそ三十分。
最初の方は初のBランクダンジョンってことで少し黙っておとなしくしてたけど、そんな心配は無用だった。
これまで数回、黒鉄がオーガと戦っている場面に遭遇したのだが、全員が全員、見事なまでに息のあった戦いを披露してくれている。
それこそ、連携は俺が元々所属していたパーティーや凛達の指導をしていた時に見ていたものとは全く練度が違う。
「ん~?そうか?結構普通だと思うぜ?」
「そうですね。うちのメンバーは皆、実力はそこそこありますし、連携には自信があるんですよ」
「あ、そうなんですか……」
あれで普通ってマジで?
オーガの速さにも大分目が慣れてきて、最初は見るのが精一杯だったが、今ではなんとか軌道が見えるようにはなった。
だけど、その速さはCランクモンスターの中でも最高クラスに高いマッハブルよりも速い。
それを難なく倒している時点で、黒鉄の皆さんの技量の高さは明らかだろう。
そんな黒鉄の練度が普通?
「上位のダンジョンに潜ってる探索者は化物かよ」
とか言ってみるけど、その化物の領域に足を踏み入れようとしてる俺が言うことじゃないな。
「まぁ、なんにせよ俺も負けていられないから頑張ろう……」
今はとにかくBランクモンスターの速度に慣れないと……
「次、この先に二体いる」
オーガとの戦闘を終えた後、再びしばらく進むと、斥候役の短剣使いの女性がそう報告してくる。
それから進むと、少し先の方にオーガの姿が見えてきた。
更に、俺が目を凝らさなきゃ見えない距離だけど、その先にももう一体オーガがいる。
「これは……どうするんですか?」
俺は隣にいる神崎さんに小声で話しかけると、神崎さんは顎に手を当てて考え込むような仕草をする。
「そうだな、今回は黒鉄のレベル上げのために来てるから出来れば倒したいけど今回は楓くんがいるからな。
楓くんが良ければ、戦っても良いんだけど……」
「はい! もちろん大丈夫ですよ」
「そうか? それじゃあ、お言葉に甘えて……明梨、良いとよ」
「分かった」
神崎さんの言葉に、短く返事を返した篠原さんは黒鉄の皆さんに話しかけると、前衛の二人はその場で待機し、それ以外のメンバーは俺と神崎さんから少し離れたところで、陣形を組んでいく。
ちなみに、俺と神崎さんの周囲には、篠宮さんと神崎さんが立ってくれていて、俺達にオーガの攻撃が届かないようになっている。
「さてと、そろそろいっか。楓くん。君から見て、あのオーガ達はどの程度の強さだ?」
「え? えっと、そうですね……倒せはしますね。どれだけ時間がかかるかは検討もつかないですけど」
オーガの攻撃は目が慣れてきたのもあって、【予測】や【回避】といったスキルを持っている俺は避けれはするだろう。
だけど、問題は俺の攻撃がどれだけ通じるか。
【魔法矢】が通じるかによって俺があいつを仕留められるかどうかが変わってくるな。
「そっかー……ちょっと楓くんに戦って貰おうかと思ったけど、それなら止めとくか」
「おい、あんた今なんつった?」
なんか今、護衛とは思えないようなとんでもない発言が聞こえたんけど!?
「ん? いや、なんにも言ってないけど?」
「嘘つけぇ!」
はぐらかすんじゃないよ!
「まぁ、冗談は置いといて……」
冗談だったのかよ……いや、冗談で良いんだけどさ。
「しっかり楓くんは複数のモンスターを相手にどうやって戦うのかを見ておくんだ。
ま、楓くんはソロらしいから参考になるかはわからないけどな」
「はい……」
確かに、今までの戦いを見ていても、黒鉄の皆さんの動きはかなり洗練されていて、めちゃくちゃ参考になる。
これもしっかりと糧にしないとな。
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