待ち合わせ
「ここがBランクダンジョンの剛鬼のダンジョンか……」
翌日、朝早くに起きてシャワーを浴びてからダンジョン探索の用意を整えた俺は、約束の時間三十分前に着くように家を出て、Bランクダンジョンの一つである剛鬼のダンジョンに訪れていた。
「えっと……アストラルの探索者がいるっていう話だけど……」
そう呟きながら周囲をキョロキョロ見渡してみるけど、それらしい団体はいない。
いるのはごく普通の探索者達だけで、その人達もまだ時間が早いからなのか、そこまでダンジョンの前に集まってはいなかった。
「……ちょっと早く来すぎたかな?」
まあ、時間までここでボーッとしているのももったいないし……適当に時間を潰すかな。
「……よし」
そう決めた俺は、ダンジョンの入り口付近にあるベンチに俺である目印の龍樹の弓を斜めに立て掛けてから、座ってスマホを取り出す。
そして、取り出したスマホを操作しながら、昨日のうちに調べていたBランクモンスターの情報を頭の中で整理していく。
「まず、剛拳のダンジョンに出現するモンスターはオーガだったよな?」
俺はスマホを見ながら、Bランクモンスターの中でもトップクラスに強いと言われているモンスターの名前を口ずさむ。
ダンジョンによって強さや出現モンスターの種類は違うけど、Bランクモンスターとしてはトップクラスの強さを誇るのがこのオーガだ。
鬼系統のモンスターの中では最弱とも言われているゴブリンとは違い、攻撃力が高く、防御力も高いモンスター。
ただ、魔法は使えないし、知能もそこまで高くないから戦闘方法は近接戦闘がメインとなる。
「しっかし……やっぱりBランクダンジョンともなると、戦闘中の動画の投稿数が少なくなってるな」
これまでは、モンスターと戦う時の参考にする為に、今までモンスターとの戦闘中の動画を見てきていた。
だけど、Bランクダンジョンにもなると、潜れる探索者の頭数が減ってくるからか、投稿されている動画の数も減ってきている。
「まぁ、そればっかりは仕方ないか。俺だってこうやってアストラルに着いていくことになってなかったら、今日来ることも無かっただろうし」
そう呟いた後、俺はスマホをポケットにしまってから、スマホを見るために下に向いていた顔を上に向けて周囲を見渡す。
「ん~~!さて、そろそろ来てもおかしくはないはずなんだけど……」
時間的には指定された集合時間の十分前。
だからアストラルの探索者が来ていてもおかしくは無いはず……
「あっ!」
そんなことを考えていると、遠くの方から先頭の人が大きく手を振りながら近づいてくる集団が見えた。
その集団の先頭に立つのは、茶髪の男性と金髪の女性。
手を振っているのは男性の方で、女性はその男性の後ろを歩きながら、俺に向かって軽く会釈をしてくる。
「……あの人達が、神坂社長が言っていたアストラルの探索者か……」
二人は後ろに続いてきていた俺が立っている場所まで近づくと、そこで足を止めた。
そんな二人に着いてきていた集団は、俺達のことをチラホラと見ながらも特に気にすることなく、少し離れたところで待機している。
「天宮楓さんでよろしいですよね?」
俺に声をかけてきたのは、先頭を歩いてきた女性。
「はい。あなたは?」
「申し遅れました。私はアストラル所属で、今回Bランクパーティー『
そう言って丁寧にお辞儀をしてきた女性は、見た目は二十代前半くらいだろうか?
身長は高く、モデルのようにスラッとした体型をしている。
「そして、こっちの男が……」
「初めまして。俺の名前は
今回は楓くんの護衛役を担当することになったぜ。よろしくな!」
「そうなんですか。今回はよろしくお願いします」
「おう!」
そう言って俺に手を差し出してきた男性は、茶髪をワックスで逆立てた髪型をしており、体格はかなりガッチリとしている。
年齢は三十歳前後といったところかな?
そして、二人とも俺よりも明らかに強い。特に神崎さんはヤバそうだ。少なくとも今の俺は手も足も出ない。
「それじゃあ早速行きましょうか。案内は私達がするので、着いてきて下さい。哲也、しっかり天宮さんを護衛するんだぞ?」
「分かってるって。任せとけって」
「では、参りますか。
天宮さん、今回は我々についてきて頂けるとのことですが、本当に大丈夫ですか?」
「えぇ。もちろん問題ありません。むしろこちらから頼みたいほどなので、どんどん引っ張って行ってください」
そう答えると、篠宮さんはフッと笑ってから「分かりました」と言って、そのまま集団を引き連れてダンジョンの中へと進んでいく。
その後に続くように、神崎さんも歩き始めた。
「……俺も頑張らないとな」
俺は二人の背中を見ながら、そう呟くのだった。
「ここが、剛鬼のダンジョン……」
俺は目の前に広がる光景を見ながら、思わず感嘆の声を上げてしまう。
これまで俺が潜っていたCランクダンジョンとはまた違った雰囲気。
モンスターの気配も、どこかピリついており、ここが全てのダンジョンの中でも上位に入るランクのダンジョンなんだという実感が強く湧いてくる。
「うん?ビビッてんのか?」
「……いえ、そんなことはありませんよ。ただ、凄いなと思って見ていました」
「ハッ!そうかい。まあ、無理もないな。このダンジョンの雰囲気に飲まれた奴なんてたくさん見てきたからな。それにしても……楓くん、なかなか肝が据わってんな。
事前に聞いてた楓くんのレベルならもうちょっと緊張しててもおかしくないと思うけどよ」
「これでもそれなりに修羅場は乗り越えてますし、慣れてるだけですよ」
実際これまで、というか今年は去年までと比べてかなり危険な目にも遭ってきたし。
「ほぉ~それは頼もしいな」
「哲也!天宮さん!無駄話はそこまでにしてください!置いていきますよ!」
「へいへーい」
「すみません!すぐに行きます!」
そんな風に神崎さんと話していたら聞こえてきた篠宮さんの鋭い声に、俺と神崎さんは慌てて駆け出すのだった。
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