牛狩りと新しい防具
「シッ!」
視界に広がる限り緑一色の草原。
そこを凄まじい速度で土煙を上げながら駆け回っている白色の牛──マッハブルの頭を【弱点捕捉】して狙う。
そして、そのまま続けて【魔法矢】で作り出した透明な矢を龍樹の弓につがえて射ち出す。
射ち出した透明な矢は、凄まじい速度で草原を駆けるマッハブルの後を追うように飛んでいって距離を詰めていく。
【弱点捕捉】によって遠距離攻撃が必中になっているので、このまま行けば確実にマッハブルを捉えるはず。
そんな俺の狙い通り、透明な矢はマッハブルと熱いデッドヒートを繰り広げていたが、やがて徐々に距離が縮まっていき……
「ブモォッ!?」
透明の矢がマッハブルの頭に突き刺さってズガァン!!と大きな音を立ててた。
そして、そのまま地面に倒れ込んだマッハブル。
一応また動き出さないかしばらく観察していたけれど、動く気配は全くない。
『レベルが5上がりました』
レベルアップの通知音も聞こえてきて、完全に動かなくなったことを確認した俺は、疾走の短剣を使って、まだ少し血が滴っている頭頂部に矢が突き刺さっているマッハブルの首を血抜きのために素早く切り落とした。
「ふぅ……これでよしっと」
倒したばかりのマッハブルの処理をしつつ思わず呟く。
現在俺がいるのはCランクダンジョンである闘牛のダンジョン。
なぜ俺がここにいるのかと言うと、防具の制作を頼んだ時、雅さんに
「えっと……矢を射つ時も邪魔はなかったし、移動の時も短剣を振った時も動きを邪魔はされなかったっと」
そして、今回の戦闘でわかったことは、やはり雅さんの作った防具は素晴らしいということだけだった。
雅さんが作ってくれた防具は、俺の膝ぐらいまで丈のある黒に染めたロングコート。
今まで使っていた革鎧とは比べ物にならないくらいに軽く、しかも、防具としての性能はかなり高い。
具体的に言うと、Aランクモンスターのシルクシープというモンスターの毛を使って作られている。
シルクシープの毛は、シルクのような質感ながらも羊のような毛の柔らかさも兼ね備えている高級品だ。
だから、そのおかげで衝撃吸収性、伸縮性も高いし、革鎧よりもはるかに頑丈だ。
それに、全身守れるのに加えて急所も守れるから安心感もあるし、俺が【隠密】する時に目立たないように黒く染めてくれたしな。
「……まあ、その分値段はしたけどな」
雅さんの話によると、俺の注文した防具を作るにあたって、素材となるシルクシープがAランクモンスターなだけあってかなりコストがかかったらしい。
その値段はなんと1150万円。
それを聞いた時は流石に目が飛び出るかと思った。
灯火のダンジョンで鬼火や双鬼炎、七鬼炎を倒した時に手に入れた灰を売ってなかったらって思うと……考えるだけで恐ろしい。
「だけど、それだけの価値はあったな」
まだ防御力は試してないけど、オーダーメイドなだけあって、革鎧の時に少しあった動きを阻害する違和感が全くないし、何より軽い!
これなら素早さを生かす戦い方をしている俺にとっては最高の装備だ。
「依頼もそこまで難易度は高くはないし、さっさと終わらせるか」
今回、雅さんに頼まれた依頼……というか頼みごとは二つ。
一つは、この広大な草原がどの階層も広がっている、草原型のダンジョンであるCランクダンジョン。闘牛のダンジョンに出現するモンスター、マッハブルの革を十体分の納品。
もう一つは同じくCランクダンジョンである、新緑のダンジョンと同じ木々が生い茂っているBランクダンジョン。樹林のダンジョンに出現するハードキャタピラーの糸十五体分の納品だ。
どっちもしっかりと協会から依頼をしてもらったし、しっかりとやらせてもらおう。
まあ、とりあえず今はマッハブルだな。
マッハブルは、その名の通り凄まじい速さで突進してくる牛型モンスターで、その速度は新幹線と同等の速さだといわれている。
決してマッハじゃないじゃんというツッコミはしてはいけない。
ただ、その代わりなのかわからないけれど、動きは単調で直線的な攻撃しかしてこないので、慣れれば避けるのはそれほど難しくはない。
「まあ、それでも油断は禁物なんだけどな」
マッハブルの走る速度は時速200キロを超える。
Cランクダンジョンに潜れるような探索者なら、気づかずに轢かれて即死なんてことはないだろうけど、普通に危ない。
特に、マッハブルは転んでも怪我をしないように、革も角もかなり頑丈にできているからな。
「それじゃあ、さっさと残りの九体を倒しに行きますか!」
一応依頼の期間はどちらも一週間ある。
まだまだ時間はあるけど、できるだけ早く依頼は片づけたい。
そう思いながら、俺は倒したマッハブルを【アイテムボックス】に入れてから次のマッハブルを探しに走り出すのだった。
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