防具
雅さんに連絡をしてから一時間。
防具制作依頼を雅さんが受けてくれることになって、今すぐ採寸してくれるらしいからトランスのエントランスまでやってきた。
そして、そのまま前回来た時と同じように受付の人に雅さんを呼び出してもらってから待っていると、相変わらず強烈な人が両手を頬に当ててクネクネしながらこちらに向かってくる。
「いらっしゃ~い楓く~ん」
「み、雅さんどうも。今日はよろしくお願いします」
「んも~う。だ・か・ら~雅ちゃんでしょ~
まあ、いいわ。それじゃあ早速オフィスにいくわよ~楓くんついてらっしゃ~い」
雅さんは、そう言ってまたあの独特な歩き方でエレベーターに向かっていくから、おいてかれないように俺もそのあとに続いてエレベーターに乗り込む。
「そういえば、楓くん。前ここに来た時にシルバー試験を受けるっていっていたけど、どう?合格できた?」
雅さんが以前来た時に話したシルバー試験を受けるという話を覚えていてくれたみたいで、その話に触れてきた。
「はい。なんとか無事に合格しました」
【アイテムボックス】からシルバー試験を合格したことで銀色になった探索者資格を雅さんに見せながら答える。
「あら~本当ね。これで楓くんもシルバー探索者を名乗れるようになったのねぇ。おめでとう~」
「ははは。ありがとうございます……」
いや~本当にありがとうございます。
だから、そのクネクネしながら近づいてくるのはやめてください!お願いします!
そんな身の危機を感じながらも、なんとか雅さん達のオフィスに到着して、無事にエレベーターを降りることができた。
「はい到着。それじゃあちょっとここで待っててちょうだ~い。すぐに使う道具を持って来るから」
「わかりました」
「んふ。それじゃあ、待ってる間に私のことを雅ちゃんって呼べるように練習しててね~」
「いや、それは遠慮しておきます……」
「もう~つれないんだから~」
そして、冗談なのか本気で言っているのかわからないような言葉を残して、雅さんはまたクネクネしながらどこかへ行ってしまった。
「相変わらず色々と濃い人だなぁ……」
そんなことを呟きながら俺はその場に立って、雅さんが戻って来るのを待つことにする。
それからしばらく作業をしている人達を見学しながら待っていると、雅さんがメジャーのような物を二つと、ボールペン、それとクリップボードを抱えて戻ってきた。
「お待たせ~さてと、それじゃあ採寸の前にまずはどんなものを作りたいのか教えてもらうわね。
まあ、それは座りながら話しましょうか。楓くん。ついてきてちょうだい」
「了解です」
そして、再び歩きだした雅さんの後ろについて歩いていき、ガラス張りのソファーだったり、机だったりが置いてある応接室みたいなところにやってきた。
「さあいらっしゃ~い。とりあえずそこに座っちゃってちょうだ~い」
雅さんは、抱えていたものを近くのテーブルに置き、俺にソファーに腰掛けるよう促してくる。
それじゃあお言葉に甘えて……
「失礼しまーす……」
「はい。どうぞぉ~それで?楓くんはどんな防具をお望みなの?」
俺の隣に座った雅さんにそう聞かれたので、俺はダンジョンに潜っている間ずっと着ていたボロボロの革鎧を見せながら、こんな感じのものを作って欲しいということを伝える。
そして、雅さんは俺の話を聞くと、クリップボードに次々と文字を書き込んでいく。
その表情は真剣そのもので、いつものおちゃらけた雰囲気は一切なく、ただひたすらに仕事に集中していた。
「なるほどねぇ。やっぱりダンジョンに潜るとどうしてもボロボロになるのは仕方がないわよね」
「ですね。これでも探索者に成り立ての頃に比べたらかなりマシになったんですけど、範囲の広い攻撃が避けきれなくて」
「こうなっちゃったのね?」
「はい……なんとかなりますかね?」
「もちろんよ。楓くんにピッタリな防具を作らないと、私が怒られちゃうわ~!」
誰にだ?と突っ込みたくなるけど、あえてそこはスルーしておく。
「だけど……そうねえ。それだと、やっぱり防具に求められる条件は、なるべく攻撃を受けないように頑丈だけど、軽い全体を守るような防具。それか、攻撃を受けても急所だけは必ず守るような防具ってことで良いかしら?」
「そうですね。できればそうなってほしいです」
雅さんが言ったことをまとめると、なるべくダメージを食らわないで、急所にだけは絶対当たらないようにするということだ。
まあ、俺のステータスは、防御力に関しては全くと言っていいほど成長していないから防御力を少しでも上げておかないと、一撃で死ぬなんてことも有り得るからな。
「それで革鎧……う~ん」
「どうかしましたか?」
「あ、ごめんなさいね。まあ、楓くんはなんだかんだいっても革鎧が良いんでしょうけど……」
「なにか問題が……?」
「う~ん。問題っていうほどのものでもないんだけどね~……ねえ、楓くん。相談なんだけど……」
そこで一度言葉を切った雅さんは、俺の目を見つめて言葉を続ける。
「……革鎧やめない?」
「……え?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます