スカウトと防具

「さて、これからどうするかな」


 アストラルの社長である神坂さんとアストラル所属の探索者であるという女性──星宮さんの突然の襲来から翌日。


 昨日は結局自己紹介と、コンタクトを取った目的を軽く聞いただけで終わった。


「……まさか案内人ナビゲーターなんて呼ばれてた俺が、企業からのスカウトを受けるとはなぁ」


 しかも、トップクラスの企業に。


 正直、半信半疑だけど、俺と凛達を勧誘してきたアストラルに所属している結愛に確認したら、本当だということが分かった。

 だからそこに関しては詐欺でもなんでもない、本当のスカウトということは信用はできるだろう。


「凛達は親同伴で、今日話を聞きに行ってるはず」


 凛達の父親は、元探索者という話だったし、アストラルという点から元々そこまで心配はしてなかったけど、なにか凛達に不利益になるような事にはならないはずだ。

 というか凛達に不利益になるようなことをあの人達が許すとも思えないし。


「そう考えたら凛達がスカウトされたのは都合が良かったかな」


 凛達は言い方が悪いが、莉奈が誘拐された事によって捜査の時、その場にいたアストラル所属の探索者から凛達のユニークスキルがバレた。


 それだけなら良かったものの、これからパーティーが女の子だけなのもあって、勧誘。それも強引なものも増えていただろう。

 情報っていうのは、それこそこの探索者業界では重要なものなんだ。


「それにしても……俺がなんでスカウトされるんだ?」


 確かに、先日の莉奈の誘拐事件は、俺一人で解決したことになってはいるから、そこを評価してくれるのは分かる。


 けど、俺は基本的にソロだから強さを見込まれてってわけではない気がするんだよなぁ……


「まあ、スカウトは断るつもりだし。それはいいとして……」


 企業所属ともなると、制限が増えるのは間違いない。

 特に俺の場合は【捕捉】スキルもあったからな。


 企業に入ったらそれを隠すのはほぼ不可能になるだろうし、なにより知られた時の他の人からの妬みだったりが面倒だ。


「そうなったらいつも通りダンジョンに潜るだけなんだけど……」


【アイテムボックス】からボロボロになって元の形を保っていない革鎧を取り出す。


「防具がこれじゃあなあ……」


 これまでずっと使ってきた革鎧。


 悪魔との戦いでこんなことになってしまったが、俺が探索者になってからずっと使ってきたものだ。愛着はある。


「結構気に入ってたんだけど……仕方ないか」


 正直、防具としては今俺が潜っているダンジョンでは役に立たない。

 けど、それでも今まで急所である心臓を守っていてくれたっていう点においては感謝している。


 俺が回避主体の戦闘だったのもあってここまで使ってこれたんだ。


「これを修理して使うのもありかもだけど……新しいのを買うかぁ」


 幸いお金には余裕がある。

 最近、灯火のダンジョンで手に入れた灰を売りまくっていたからな。


 後は使っていなかった籠手と脚甲もあったりするけど、そっちも俺に合ったものを買おう。


「んー……だけど、どこで買うかなぁ……」


 できれば性能が良いものが欲しいんだけど……防具っていうのは、人の体を守るのと同時に装備している人の動きを阻害させないことも重要だ。


 そうなると、市販されている防具ってその二つの条件を満たせてない事が多いんだよな。そういう意味では、やっぱりオーダーメイドが一番良いんだけど……


「どこにするかなぁ……」


 問題はどこにするかだ。

 オーダーメイドともなると、料金もそれなりに高い。そしてなにより時間が掛かる。


 料金は問題ないけど、時間が掛かってしまうのは少し厳しい。防具がなくても、ダンジョンに潜る事もできるけど、万が一を考えればあった方が絶対に良い。


「だけど、どこが良いとか俺にはわからないからなぁ……」


 頼む依頼が多いであろう企業や高レベルの探索者だったらどこが良いとかわかるだろうし、深い付き合いのある企業だったりがあると思う。


「けど、そんなコネないしなぁ」


 ついこの間まで俺はEランクダンジョンに潜っていた普通の探索者だったんだ。


 コネなんてあるわけがない。


「……あれ?待てよ」


 そこで俺は一つ思い出した。


「確か雅さんって作業スピードが尋常じゃないくらい早いんじゃなかったっけ?」


 思い出したのは、以前キラースパイダーの糸を納品する依頼を受けて関わりができたおネエさんの雅さんだ。


 あの人の作っていた服の出来は凄かった。それこそ今俺が持っているボロボロになった防具よりも遥かに優れているものだったと思う。


 そして、あの作業スピードを見るに、間違いなく完成までそこまで時間は掛からないだろうし……よし。


「早速頼んでみるか!」


 そうと決まれば善は急げ。


 早速【アイテムボックス】にボロボロの革鎧をしまってからスマホを取り出して、電話を掛けのだった。

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