エピローグ

「莉奈ーーー!!!」


「莉奈……!!!」


「凛ちゃん!杏樹ちゃん!」


 莉奈が拐われるという事件が起きてから、すでに三日経っていた。


 あの後、しばらく経った後に莉奈は目を覚ましたが、悪魔に体を乗っ取られていた時の事を覚えていなかった。

 一応、体に異常がないかどうかを調べたが特に問題はなく、援軍が来たらすぐに病院へ運ばれて検査入院することにはなったけど、三日経った今日、やっと退院することができた。


 そして、莉奈が覚えてないとなると事件の真相を知っているのは俺だけになるわけで、この三日間は俺も事情聴取に付き合わされることになった。


 もちろん警察には悪魔と戦ったことも話したのだが、悪魔なんてものは信じてもらえず、嘘を見破れるスキルの持ち主が来てくれるまで無駄に時間を浪費したもんだ。


 まあ、莉奈もこの三日間は学校に通えておらず、面会謝絶だったのもあって凛達や両親とは無事な姿を見せただけだったしな。


「莉奈……よかった無事で」


「本当だよ!莉奈が誘拐されちゃって本当に心配してたんだからね!?」


「ご、ごめんなさい……」


「だけど……無事で良かったよ~~!!!」


 凛と杏樹の二人は泣きながら莉奈に抱きつき、それを見ていた莉奈の両親や凛と杏樹の両親らしき男性と女性が微笑ましそうに見ている。


 すると、少し離れた場所にいた莉奈の両親が俺の方へと向かってきた。


「雨宮さん改めて……莉奈を助けてくれてありがとうございます」


「雨宮くん。本当にありがとう」


 莉奈の母親と父親が俺に向かって頭を下げてきた。

 父親は背が高い中年の男性で、母親は小柄の女性。


 どちらからも、莉奈を助けたその日にお礼の電話があって、その時も何度も感謝されたけど、こうして直接会うと莉奈を思っている気持ちが強く伝わってくる。


「いえ……それより、莉奈はもう大丈夫ですか?」


「はい。幸いにも怪我らしい傷もなく、精神的なショックからか意識を失っていただけでしたので」


「そうですか……」


 莉奈を助けられたのはよかったけど、それでも症状までは聞けなかったからな。俺も医者ではないから命に別状はないということぐらいしかわからなかったし。


「なので雨宮くんにはとても感謝してます。ですが……」


「ですが?」


 まさか後遺症でも残ったとか?


 そんな不安を抱えながらも父親を見ると、その表情は予想とは違い真剣なものになっていた。

 だけど、それに対して母親の表情は苦笑いだ。


「莉奈は、莉奈は渡しませんよ……!」


 ……はい?


「えっと……今なんて?」


「だから!莉奈は絶対に渡さないと言っているんです!私達の大事な、大事な娘なんだからね!」


 どうしよう……この人の言っていることが全然わからない。

 というかどうしていきなり莉奈を渡すって話になるんだ……?


「それはうちの凛ちゃんもだ!」


「……うちの杏樹も」


「増えたぁ!!!?」


 さっきまで少し離れた場所にいた凛の父親に、それに杏樹の父親までもが加わってきて、なぜか俺は四人に囲まれてしまう。


 なにこれ怖い。


「ちょ、ちょっと!お父さん!?」


「パパ!?なに言ってるの!?」


「……父さん……?」


 さすがにあれだけ凛達の父親方が騒いでいたら、凛達も気付いたようでこっちに近づいてきた。


 凛達は顔を赤くしながら驚いているが、そんなことより気になることがある。


「……」


 無言でさっきまで苦笑していた莉奈の母親含めた凛達の母親達が、なんともまあ恐ろしいような顔をして、今も凛達と言い争っている父親達の背後に立っている。

 そしてそのまま母親達はゆっくりと父親達の首に腕を回していって──


 ──ギュッ!!!×3


「ぐぇっ!?」


「ぐぁっ!!」


「うげぇ……!」


 父親達の首をしっかりとホールドして、三人同時に絞め始めた。


 ……へ?


 そして、しばらくすると父親達の顔が真っ赤になり、泡を吹き始める。


「えっと……これはいったい」


 思わず呟くように聞くと、凛達の母親がニッコリと笑顔になってこちらを向いてくる。だけどその目は笑ってなくて、まるで獲物を狙う猛獣のような目をしていた。


「ふふっ、ごめんなさいね。ついお父さんが変なこと言い出しちゃって。

 後はお若い人達で仲良くしてください」


 そして、そのまま三人とも気絶した父親の首根っこを掴むとズルズル引きずりながら去って行ってしまった。


 残された俺や凛達に杏樹。呆然としている俺達の中で最初に我に帰ったのは凛だった。


「あー……えっと、楓さん。あんまりパパ達のことは気にしなくていいよ」


「そ、そうなのか?」


 なんかもう色々とカオスな状況で頭が混乱してきたが、とりあえず凛の言葉を信じよう。そうじゃなきゃ今度は俺が狩られるような気が……うん。やめとこう。


「……すいません」


「……ん?」


 凛達のお母様方の行動に呆けていると、凛達でも、お母様方でもない女性の声が聞こえてくる。声のした方を向くとそこには、見覚えのある女性がいた。


「……どなたですかね……」


 気配もなく、俺達の背後を取ってきた?


 さすがに、見覚えのあった女性とはいえ、最近莉奈の事もあったし無警戒というのは無理な話だ。とりあえず、凛達を庇うように前に出ていつでも動けるようにしておく。


「……そう身構えないでください。私はあなた達に害を与えるような存在ではありませんよ」


「そう言われてもですね……」


「それに、あなたには一度会っているはずですが……?」


「だとしてもですよ……」


 確かに一度だけ協会で会った事がある……とまではいかないけど、それでも顔を合わせたことはある。


 それも協会だったから最低限の身分の保証はできてるんだろうけど、それでも簡単に信用できるほど俺もバカじゃない。


「────こんのおバカ」


「あんっ」


 俺が女性の対応に困っていると、女性が後ろから近づいてきた男性に頭を叩かれる。頭を押さえている女性の後ろには、スーツ姿の男性が立っていた。


 その男性はメガネをかけており身長が高く、いかにも仕事ができそうな感じの男性だ。


「お前なぁ……この人達、それも特に金崎さんは事件の被害者だぞ?警戒させないようにって言っただろう?」


「……そうでしたね。すいません、つい癖で」


「はぁ……まあいいや。

 いや、驚かしてしまい申し訳ありません。いつもこんなんでして」


「はぁ……」


 なんか警戒してるのが馬鹿らしくなってきたな。

 それにいきなり謝られても反応に困るんだけど……

 というかこの二人ってどういう関係なんだ?


「さて……突然の事で困惑されているでしょうが、自分達はあなた方に危害を加えるつもりは毛頭ないので安心してください」


「……あ、あのぉ。わ、私達別にそこまで気にしていないので……ね?楓さん、凛ちゃん、杏樹ちゃん」


 莉奈は大丈夫だと言っているが、少し不安なのか俺の方を見てきた。


 まあ、確かにまだ完全に警戒を解くわけにもいかないし、凛達も疑わしそうな視線を送っている。


「とりあえず、詳しい話は後でしますが、今は少しだけお話を聞いてください。

 あ、これ自分の名刺です。どうぞ」


「はぁ……どうも」


 そして俺は名刺を受け取り、そこに書かれている名前を見る。


 受け取った名刺を見ると、そこには"株式会社アストラル代表取締役社長 神坂 司"と書かれていた。


「……アストラルの社長?」


「ええ、一応。あ、金崎さん達もどうぞ」


「え、ええ」


「えっとありがとうございます」


「……ありがとう」


 社長直々に説明してくれるらしい。

 そして、凛達もそれぞれ名刺を受け取る。


「では、改めまして。自分は株式会社アストラル社長の神坂と申します。

 早速で悪いのですが、天宮さん、赤木さん、金崎さん、高梨さん。うちに来ませんか?」


「……はい?」

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