決着

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 透明な矢が翼の付け根に深く刺さり、直撃を喰らった角が折れた悪魔は断末魔のような悲鳴を上げていた。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 流石に疲れた。というか、もう魔力もスタミナもほとんど残ってない。さすがに大振りな攻撃をさせるためとは言え【魔法矢】を使いすぎたか。


 だけど、その分に見合う効果はあったみたいだな。

 悪魔は悲鳴をあげているけど、悪魔莉奈の体から黒い靄のようなものが出たり入ったりを繰り返している。


「ぁぁああああ!!!」


「うまくいったみたいだな……」


 悪魔を無力化するって言う目的は達成できたようだ。

 これでもダメなら一旦逃げるしかないから諦めるしかなかったけど。


「あああぁぁぁぁぁぁ……」


 そして、悪魔がしばらく悲鳴を上げると、黒い靄が出てこなくなり、ガクンっと糸が切れた人形のように地面に倒れた。


 だけど、黒い靄はそのまま消えることなく莉奈の体から少し離れたところに集まっていき、形を成していく。


「ふう……危なかったわね……」


 そこには、角と翼と尻尾を生やしたさっきまでと姿が変わった悪魔がいた。


 悪魔はさっきまで莉奈が着ていた服に、金髪のロングヘアをした見た目は二十代前半ぐらいの綺麗な女性になっていた。


 なるほど、あいつが悪魔か……それじゃあ莉奈は……って!


「なんで裸になってんだよ!!!」


 しかも、さっきよりも胸が大きくなってるような気が……

 っていやいやいや、それよりもまずは服を着させないと……!


 とはいっても俺の【アイテムボックス】には予備の服は入ってないし、今着てるのしかない。

 まあ、仕方がないし。とりあえず俺の上着だけでも使って隠してあげてっと……


「あら、優しいのね」


 少し離れた場所にいる悪魔が、横になりながらも俺の顔を見ながらクスリと笑っている。


「うるさい、黙れ。それと、それ以上動くなよ?動いたら撃つぞ?」


 だけど、さすがに俺もそんな悪魔を相手にしてる余裕はないので、龍樹の弓を構えていつでも撃てるように準備しておく。


「あら?そんなに私を警戒しなくてもいいじゃない。そんなに警戒しなくてももうワタシに戦う力は残っていないんだもの」


 確かに悪魔の言う通り、今は人の形を保っているけど、その体からは黒い靄になっていて、いつ完全に黒い靄になってもおかしくなさそうだ。


「それに、アナタが矢を構えたところで、私は動けない以上、どうすることもできないのだから」


「まあ、それもそうか」


 ただ、俺だって油断するつもりはない。


 こいつが動けなくなったとしても、魔法やあの【強欲】スキルだってあるんだ。

 油断は禁物。


「まったく……信用されてないわね」


「当たり前だろ」


 悪魔は残念そうな顔をしているけど、お前はさっきまでの自分の行動を振り返ってみて欲しいものだ。


「まあ、いいわ。それより、あなたの名前はなんていうの?」


「……お前に教えるとでも思ってるのか?」


「ふぅーん……まあ、それもそうよね」


 正直教えてもよかったんだけど、俺は名前を知られるデメリットもある。


 こいつに関しては莉奈の事を知ってたのもあるから隠す意味はあるのか?とも思ったけど……まあ、念のためってことで。


「それじゃあ勝手にこっちで探らせてもらうわね。あの子だけじゃなくてあなたにも興味が出てきたし」


「…………は?お前なにを言って……」


「じゃあね~」


「おい!ちょっと待っ!?」


 止める間もなく、悪魔は意味深な事を言った後、急に体が黒い靄になる速度が上がって、最後には跡形もなく消えてしまった。


「くそ!逃げられた!」


 黒い靄になって消えたけど、レベルアップの通知もないし、あの意味深な言葉の事を考えると死んではいないだろう。


 そうなると、また現れてくる可能性は高い。

 ……はぁ……なんでこんなことに……


 せっかく悪魔を倒したと思ったら、最後の最後で面倒なことになってしまった。

 だけど、それは置いといて。


「……う……ん……」


 さすがに疲れた。

 莉奈も怪我はないみたいだし……もう後続の援軍を待とう。








「あー!!!疲れたーーー!!!」

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