切り札

「もう!いい加減当たりなさいよ!!!」


「当たってたまるか!!!こんなのくらったら俺の防御力じゃ一撃で死ぬわ!!」


「なら、死ね!!」


「それは嫌だ!!」


 あれから、しばらく悪魔の攻撃を避けては【魔法矢】で反撃するという攻防を繰り返していたのだが、一向に事態が好転しない。


「ってあぶねぇ!」


 俺は悪魔の黒い靄で作られた黒い球体から生み出されたデビルバットの攻撃を回避と迎撃をしながら、必死に頭を働かせる。


 このままだとジリ貧なのは目に見えている。

 幸いにも、体が少し変質してるとは言え元が莉奈の体だからか、攻撃力や防御力、俊敏だったりはそこまで高くはない。


 今のところは避けれているが、それもいつまでも続くわけではなさそうだ。


 だけど──


「はぁ……ふぅ……」


 ──俺の体力の問題もある。


「飽きた」


 俺の攻撃をギリギリまでひきつけていた悪魔は、俺が息切れし始めたところで急に動きを止める。

 そして、飽きたというかの如く、ため息をつく。


「なんだって?」


「飽きたって言ったのよ。

 あんまり手応えがないっていうのはつまらないわね。

 それに、いくら私の攻撃を避けれても、肝心のあなたの攻撃が当たらないんじゃ意味ないわよね?

 だから……」


 悪魔はそう言うと、俺に向けて両手を向ける。

 その瞬間、再び悪魔の手のひらから黒い球体がどんどん大きくなっていき、やがてバスケットボールぐらいの大きさになると、悪魔の手のひらから黒い球体が離れていき、ゆっくりと浮かんで俺の方へと向かってきた。


 まあ、これぐらいなら余裕で避けられ──


「【強欲】」


 ──なかった。

 俺が黒い球体を避けようとしたけど、体が自分の体じゃないんじゃないのかって思うほど鈍い。


「……っ!!!?」


 これじゃあ避けきれない……ッ!

 そう判断した瞬間、【魔光矢】を盾にするように生み出して黒い球体を受け止める。


「ぐあっ……!」


 だけど、俺の体は【魔光矢】ごと吹っ飛ばされて地面に叩きつけられる。


「な、なにが……」


 防御はしっかりしたはずだけど、体中に動かなくても激痛が走るようなダメージを喰らった?

 何が起きたんだ……? 悪魔が【強欲】と言ったかと思うと体の動きが鈍くなった……?


 そして、突然の出来事に驚く俺の耳にいつの間にか近づいてきていた悪魔の声が聞こえてくる。


「強欲……ワタシが欲しいと思ったものをなんでも奪い取る力。

 今の体にそこまで慣れてないからあなたのステータスを一時的に奪うぐらいしかできないけど、さっきみたいなタイミングで使えば効果は抜群な力よ」


 ……なんだよ、そのぶっ壊れスキルは……!!!?


 だけど、そういうことか。

 俺が悪魔が近づいていたのに気づかなかったのは俺の俊敏のステータスが下がっているのに対して、悪魔は俺から奪った俊敏のステータスの分速くなっていたからだ。


「さっきはあなたの"速さ"が欲しいって思ったんだけど……もう強欲の効果が切れちゃった♪」


 確認のために腕を動かしてみるけど、確かに、さっきみたいな体の動きの鈍さは感じられない。

 そうとなったら……!!!


「悪い莉奈!魔光矢ッ!!!」


 莉奈……というか莉奈の体に悪いけど今は生きて援軍が来るのを待つのが最優先。


 できるだけ莉奈の体を傷つけたくなかったけど、こうなったら仕方がない。


 最悪生きてさえいればポーションを使ったり、【回復魔法】を使ったりして傷を治すことができる。


「ハァァァアアアッ!!!」


 辛うじてだけど、体はまだ動く。

【魔光矢】を片手で握りしめて槍投げの要領で悪魔に向けてぶん投げる。


「キャッ!!!」


 俺の投げた【魔光矢】を正面から受けた悪魔は俺とは反対側のボス部屋の壁まで吹き飛んでいく。


 だけど、あの一瞬でクッションにするように黒い球体を作り出していたから、そこまでダメージには期待ができなそうだな。


 だけど……


「回復する時間には十分だ……!」


 悪魔と距離が取れたから俺が受けたダメージを回復するだけの時間は出来た。


【アイテムボックス】からポーションを五本取り出して、二本を一気に飲んで三本を体にかける。


「ぐっ……」


 自分のステータスを見たら今のHPは14650。今の一撃で半分以上削られていたのがわかる。


 そして、今そのダメージがだんだんと回復していっていた。

 全体HPの半分以上ともなると、これでも完全回復とは言えないけどそれでも回復は十分だ。


「とはいえここからどうするか……」


 あんな俺のステータスを奪うなんていう反則級のスキルを持ってるとなったら時間稼ぎの難易度もかなり上がってくる。


 だったら……


「倒すだけだよな」


 だけど、そうなってくると倒し方だな。

 というわけで、悪魔と距離の取れてる今のうちに、莉奈が拐われたと言われてから振り分ける暇のなかったSPを【捕捉】スキルに振り分ける。


【魔法矢】は連射して射てるけど威力不足。対して【魔光矢】は威力はあるけど、連射して射てないから防御されてしまう。


 どちらも悪魔を戦闘不能にするだけなら十分なポテンシャルを持っているけど、どちらも一手足りない。


「一か八か……頼んだぞ。神様仏様捕捉スキル様……」


 俺は祈るように呟きながら、ステータスを開いて【捕捉】スキルにSPを振ってスキルレベルを18から20に上げる。


 今の俺のスキルや武器じゃ悪魔を無力化はできそうにない。

 だから、悪魔の動きを止められるほどの強力な一手が必要だ。


 それこそ……今まで見たこともないようなとんでもない威力を持った技とか。


「頼む……ッ!!!」


 まあ、【捕捉】スキルに威力を求めるのは酷だけど、これで【捕捉】スキルは10の倍数のスキルレベルになったから強力な効果が……


「よし!これなら……ッ!!!」


 あとはこのスキルを使って悪魔を無力化するだけだ。


「さあ!やっていこうか!!!」

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