正体
「悪魔……だと……!?」
背中にコウモリのような翼が突然現れたと思ったら、次の瞬間にはそこにいた莉奈は消えていた。
代わりに、目の前には悪魔の名に相応しい姿をした莉奈がいる。
莉奈の頭からは黒く禍々しい角が生えていて、莉奈の綺麗で透き通るような青い瞳は血のような真紅に染まっていた。
それだけでもなく、着ている服も相まってまるで本物の悪魔のように見える。
「あぁ、そうだ。ワタシは莉奈の体を借りて顕現している」
俺の疑問に答えるように目の前の悪魔はそう言うと、ニヤリと口元を歪めた。
「ふぅ……なるほどな」
一旦一息ついてから、警戒を切らさないようにして思考を張り巡らせる。
これは恐らくだが、こいつは召喚された"モンスター"なんかじゃない。
それどころか、"人間"ですらないだろう。
莉奈の体を借りているという自称悪魔が、翼や角といった変化を見せた時に、そんな気配がした。そして、そんな気配に俺は覚えがある。
「……【憤怒】このスキルを知っているか?」
【憤怒】それは思い出すのも嫌になる多賀谷が、突然狂ったかのように叫びだして変貌を遂げたスキル。
こいつの気配はその時の多賀谷と酷似している。
「……おやおや。なんで君がその力を知っているのかは不思議だけど、よく知っているよ。
それで?それがどうかしたのかい?」
俺がそう聞くと、今度は本当に驚いた様子を見せる。
やっぱりか。俺の予想は当たっているみたいだな。
できれば当たらないで欲しかったな……
「お前……悪魔って自分で名乗ってたけど、この憤怒というスキルの持ち主もお前と同じ悪魔なのか?」
俺がそう言うと、莉奈の姿をした悪魔は一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに元の余裕のある笑みに戻る。
「ふふっ。さすがにわかっちゃうわよね。そうよ。その通り!憤怒の力は、『強欲の将』であるこのワタシと同じ、七魔将『憤怒の将』の物よ」
やはりそういうことらしい。
悪魔は莉奈の姿のまま、中身を知っている俺でさえも一瞬見とれてしまうような妖艶な微笑みをこちらに向けてくる。
「まぁ、今の君じゃあどう足掻いても勝てないと思うけれどね。
でも安心して?別にあなたを取って食おうという訳ではないから。
ワタシはただ、この子の持つこの力に興味があってね」
「この子のこの力?……まさか……!?」
「ええ、その通り。あなたの知っているこの子の未来を見る力。ワタシはその力が欲しいの。だからこの子が欲しいの」
そう言って、莉奈の姿形をした悪魔はニコッと笑う。
「……まあ、お前の言い分はわかった。だけど、その要求は呑めない」
俺は警戒心を強めながら、そう返した。
「あら、どうして?さっきも言ったとおり、取って食いはしないのよ?」
「じゃあいつお前は莉奈の体から出ていくんだ?」
そう。もし、ここでこいつの要求を飲めば、莉奈が危険に晒されることになる。
そもそも、悪魔が何を考えているかもわからないし、それに莉奈の力を奪おうとするなら尚更だ。
「……」
「答えられないのか?」
俺が問いかけると、悪魔は何も言わずに黙り込んでしまう。
「莉奈は渡せない。たとえ相手が悪魔だろうとな」
「……仕方がないわねぇ。あんまり手荒なことはしたくなかったんだけど……」
「ッ!」
その瞬間、悪魔の雰囲気が変わった。
全身を刺すような威圧感が襲ってくる。
「はぁ……せっかく穏便に済ませようと思っていたのに。ワタシが欲しいという感情を邪魔するんだったら少し痛い目を見てもらうしかないかしら?」
そう呟いて悪魔が指を鳴らすと、突然地面に消えていったはずの黒い霧のようなものが現れていた。
「これはさっきの……」
「ふふん。これが何なのかわかるみたいね」
得意げな顔をする悪魔の背後では、現れた黒い霧が集まっていき、生き物のように動き出していた。
その生き物は見たことのある。というか、散々このダンジョンで戦ったモンスターだ。
「こいつは……デビルバット……?」
「正解♪」
強欲の将と名乗っていた悪魔は嬉々として答える。
だけど、現れたデビルバットは【索敵】に反応せず、気配を感じられない。
これは……
「狙撃手達を殺したデビルバットと同じ……」
「ふふっ。気づいていたのね」
やっぱりそうだった。
今出てきたデビルバットは狙撃手達をミイラのようにして殺した奴と同じ個体。
そして、恐らくだがこの悪魔の力によって気配を消されている。
「これはワタシの魔法で生み出したの。すごいでしょう?」
悪魔はまるで自分の自慢をするかのようにそう言うと、またもや不敵な笑みを浮かべるのであった。
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