召喚

 する事は至って単純。


「神風、捕捉」


 素早く動いて素早く殴る(射つ)だけだ。


【神風】を使って俺の俊敏のステータスに+5000してから、高速で動き回って一方的に【魔法矢】で作り出した透明な矢を龍樹の弓を使って連射していく。


「は、はや……ぐはぁっ!」


「は、早すぎるぞ!」


 まずは動きの遅い拳王から狙い射ちして、吹き飛ばす。

 拳王は何回かバウンドしながらもゴロゴロと転がってから立ち上がろうとした。


 どうやら攻撃力だけでなく、防御力も高いらしいからダメージはそこまで通ってないみたいだけど、それでも問題はない。

 倒れるまで射ち続けるだけだ。


「ちょっ……ま……ッ!?」


 拳王は、慌てて何かを言おうとしているけど聞く気はないし、待つつもりもない。


 とにかく射って射って射って射ち続ける。


「ぐは……ッ!……お前……ッ!」


 すると、拳王は俺を睨んだまま立ち上がろうとして、すぐに意識が失くなってまた倒れた。


 まずは一人。


 そして、倒れた拳王に近づいて腕と足のけんを疾走の短剣で切断する。

 これでもう動くことはできないだろう。


 せっかく意識を落として倒したのに、復活されるのが面倒だからな。


「おいおい、俺達を忘れんじゃねぇよッ!!」


 次に狙ったのは今俺に叫んできた杖を持った魔法使い。


 魔法使いが魔力を高めているのを感じ取った俺はすぐに近づいて、杖を蹴り飛ばしてから鳩尾に膝を入れ、そのまま顎にも膝を入れる。


 そして、脳を揺らして意識を落として倒れた魔法使いの腕と足の腱も切断する。


「……はっ!随分速いな。まさか俺達がここまで追い詰められるとは思わなかったぜ……!」


「だが、まだ終わってない……!」


 次は、剣豪と侍のコンビ。

 剣豪が片手剣を構え、侍が居合のような構えを取った。


「「──【斬撃】」」


 そして、二人同時にスキルを発動させた。


【斬撃】は、剣や刀といった相手を斬るような武器を使う探索者には必須とも言えるスキルで、発動すれば瞬時に相手を切り刻むことができる。


 そんなスキルが剣豪と侍の二人分同時に襲ってくる。

 だけど……


「金剛身、魔法矢、複数捕捉」


 今の俺は、【神風】スキルの時間内で俊敏が上がった状態になっているし、【予測】と【回避】のスキルもあるから簡単に避けられる。


 それに、加えて万が一【斬撃】がかすった時のために防御力を十分間+5000する【金剛身】を使えば完璧だ。

 あとは攻撃のために【魔法矢】で透明な矢を二本作り出して……


「シッ!」


 その状態で、剣豪と侍の二人が繰り出した【斬撃】を正面からい潜って龍樹の弓に透明な矢を二本つがえてそのまま射ち出す。


「ばかな……」


「なんという……速さだ」


 二人は驚愕の表情を浮かべながら、それぞれ俺が放った二本の透明の矢を避けるために体をひねる。

 けど、俺が放っているのは普通の矢じゃない。


 俺が射っているのは【複数捕捉】のおかげで必中になっている矢だ。


 いくら風切り音で透明な矢がわかるとしても、回避という選択肢を取った瞬間終わり。

 まあ、今回は当たれと念じてないから、迎撃しようとしてもどのみち武器をすり抜けて、剣豪と侍の二人に直撃するんだけどな。


「うそ……だろ?」


「こんなことが……」


 そして、【魔法矢】は剣豪と侍の二人の胸に直撃して壁まで吹き飛び、意識を失った。


 あれなら腱を切断しなくても起き上がった時には体は動かないだろう。


「これで終わりだな」


 今の二人で竜の瞳の幹部達は全滅した。

 後は、ボスである大城だけ。


 そう思って振り返り、大城を無力化するために走り出──


「はぁーマジかよ……これでもダメなのかよ……!」


 ──そうとしたら、大城が呟いた声が聞こえてきた。


「だけど……悪いな。俺達の勝ちだよ……」


「なにを言って……ッ!?」


 大城を問い詰めようとした次の瞬間、突然、莉奈のいる方向から凄まじい魔力……いや、魔素の奔流を感じた。


 莉奈の方を見ると、そこには……


「なっ!?魔方陣だと!?」


 今まで見たことが無いほど紫色の巨大な魔方陣が莉奈を中心に展開されているのが見え、そこから膨大な量の黒い粒子が流れ出している。


 なんだあの禍々しいものは……?


「おお、おお!我等が!我等が神よ!今こそ顕現なさってください!」


 俺が目の前の光景に呆然としていると、突然迷教の信者達の中から一際ローブが豪華で、顔に不気味な仮面を着けている男が立ち上がって興奮しながら叫んだ。


 すると、他の信者達も片膝をついて呟いていたのに、同じように立ち上がって叫び始める。


「ああ、偉大なる我らが神よ!どうか、お姿を我々に!」


「あなた様のお姿を見れる日が来るとは……!」


「私達も遂に神の御業を拝見できるのですね……!」


 そして、全員が涙を流して祈るように両手を組み始めた。


 そこでようやく理解する。

 あいつらは、莉奈を利用して何かを召喚しようとしているんだと。


 おそらくあの全員が呟いていたのが詠唱かなにかだったんだろう。


 一人で魔法系のスキルを使う時は、イメージを固定させるために詠唱をしたりする人は多数いるけど、絶対に使わなければいけないというわけでもない。

 だけど、複数人で同じ魔法を使う時は、全員で同じ詠唱をする。


 全員で同じ詠唱をする意味も勿論あって、それは使う魔法のイメージをより鮮明にして、魔法の威力を上げるのと、ちゃんと同じ魔法を使うためだ。


 魔法系のスキルはスキルレベルが充分あればイメージ次第でどんな魔法も使える。


 そんな魔法系のスキルは複数人で使えば魔法の威力も上がるし、普通は使えないような魔法だって使うことができる。

 だから、複数の人間が一緒に魔法を使うことは珍しくない。


 所謂合体技みたいなものだ。


 ただし、それは魔法で敵を攻撃できるような魔法系スキルだけで、今回の【召喚魔法】みたいにしもべとなるモンスターを召喚して、自身を主人と認めさせる必要のある魔法は違う。


 その場合はいくら人が集まって魔法を使っても、召喚したモンスターは強力だから従えられない。まず間違いなく召喚したモンスターは暴走する。


 だから、今の莉奈の状況はヤバい。

 何がヤバイのかと言うと、少なくとも俺がくる前から詠唱していて、かなりの時間が経っているのにも関わらず、未だにモンスターが召喚されてないからだ。


【召喚魔法】に人が必要なんて聞いたこともないし、莉奈は囮か?


 だけど今は……


「あの魔法を止めなきゃマズイ!」


 あの魔法は確実に止めないと不味い。


 今も出続けているあの粒子の禍々しさから、あれがどれだけ危険なものなのか容易に想像がつく。


 それに、もしあれの召喚を許したら魔方陣の中心にいる莉奈は勿論、俺も無事ではすまないだろう。


 だから今すぐ魔法を使っていた迷教の信者達を……ッ!!!


「おっと、邪魔はさせねえぜ?」


 魔法を阻止しようと動こうとした瞬間、大城が俺の行く手を阻むかのように前に立ち塞がった。


「くっそ!どけ!!!」


 だけど、そんなことに構ってる場合じゃない。

 すぐさま片手に【魔法矢】で透明な矢を作り出して、大城の懐に潜り込んで直接【魔法矢】を叩きつける。


「ぐはぁっ!!!」


【魔法矢】+俺の【金剛身】で固くなった拳を喰らった大城は、吹き飛び壁に衝突する。


 よし!早く他の信者達も……!!!


 そう考え、【魔法矢】を八本。両手に四本ずつ作り出した瞬間──


「ぐっ!?」


 ──魔方陣から黒いもやが莉奈のいた場所を中心に溢れ出て、広がっていき俺の視界を埋め尽くすのだった。

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