フラグってやつ……

「な、なあ。お、俺の知ってることは全部教えたから助けてくれよぉ」


「……まあ、全部教えたっていうのは本当っぽいし命は助かるようにしてやるよ」


「あ、ありがとうございます」


 デビルバットを倒しながら考えていると、狙撃手は涙目になりながらも必死に俺に話しかけてきた。


 そして、モンスターも来ない安全圏である階段に移動しようとした時。


 そいつらは突然やってきた。


「さて、それじゃあ……は?」


「な、なんだよあれぇ!」


 そいつらは、通路の灯りをすべて覆いつくすほどの数のデビルバット。そのすべてが通路の奥の方から俺達に向かって羽ばたいてきていた。


 なんでいきなり!?しかも【索敵】に反応がなかっただと!?


「ちっ!魔光矢ディバインボルト!」


「うひぃ!」


 俺は縛り上げてる狙撃手と竜の瞳のメンバーを背にデビルバットの大群に向かって俺が今使える最高威力、最高範囲の【魔光矢】を射ち出す。


 俺の射ち出した【魔光矢】は止まらず、次々とデビルバットの群れを撃ち落としていく。


「や、やったのか?」


 狙撃手が呆然とした表情でそんなことを言っているけど、残念ながらそれはフラグだから言わない方がいいぞ。


 とかバカなことを考えてたらガチでフラグだったらしく、次の群れが魔光矢が着弾した時に出てきた土煙の中から飛んできた。


「嘘だろ!?」


 また飛んできたデビルバットを撃ち落とすべく、俺は全力で魔力を込めて【魔光矢】を射つ準備をする。


 だけど、【魔光矢】はその大きさもあって発射までに少しだけ時間がかかる。


 その時間は俺の俊敏ステータスなら5秒にも満たないものだけど、数匹のデビルバットならともかく通路すべてを隠すような大群の相手となるとその隙が致命的だ。


「くそっ!」


 間に合わないと判断した瞬間、作り出した【魔光矢】を地面に突き刺して盾にする。

 そして、そのまま俺は【魔光矢】を支えて攻撃に備える。


「ぐぅ……!」


 そして、次の瞬間【魔光矢】を凄まじい衝撃が襲ってくる。


「ギャァァァアアア!!!」


 そんな中、後ろで庇っていた狙撃手の悲鳴が聞こえた。

 咄嗟に後ろを向いた俺が見たものは、デビルバット達に襲われている狙撃手と竜の瞳のメンバーの姿だった。


 だけど、なぜか俺の方には一匹も襲ってこない。

 まるで、俺を竜の瞳のメンバーとは違う別の何かとして認識しているかのように。


 それを確認したあとすぐに【魔光矢】を手放して、襲いかかってきているデビルバットに向かっていく──けど、その前にデビルバットはすでに狙撃手達から離れていて、俺の視界から消えてしまっていた。


 狙撃手達は……!!!?


「なんだよこれ……」


 デビルバット達が居なくなったあと俺が目にしたのは、まるでミイラのように干からびて死んでしまった狙撃手達だった。


 狙撃手達は、腹はボロボロになっていて、いくつもの噛み跡があり、血を吸われた形跡もある。

 そして、その死に顔は恐怖に歪んでいた。


 おそらくは、あの大量のデビルバットに噛まれて血液を吸い尽くされたのだろう。


 バット──つまりはコウモリだから不思議ではないしな。

 そういうモンスター、またはスキルだったんだろう。

 だけど、それだけで納得はできない。


「なんで俺だけは襲われなかった?

 索敵に反応はなかったけど、間違いなくあれはデビルバットだったはず。

 それなら俺も襲われてなかったらおかしいはずだ」


 そう、俺だけがデビルバットから狙われていなかった。

 その理由が分からない。


 せめて撃ち落としたデビルバットの死体が残っていたらなにかわかったかもしれないけど、今回は【魔光矢】で完全に消滅してしまっている。


「……ダメだな。考えても分からないし、先に進もう」


 ダンジョンの中ではこうして命を落としてしまうことはそう珍しい話ではないしな。

 とにかく、ここでこうしてても仕方ない。

 早くここを抜けよう。


 狙撃手達のことは気になるけど、今はそれよりも莉奈だ。

 莉奈を助けるためにもこんなところで足踏みをしているわけにはいかない。


 狙撃手達には悪いけど、【アイテムボックス】に死体は入れられないし、このまま放置するしかないかな。


 とりあえず、すでに絶命してしまっている竜の瞳から奪い取っていた地図を見ながら進む。地図を参考にして、俺がこれまで進んできた道から現在地を割り出して階段まで最短距離で向かう。


 ……さて、鬼が出るか蛇が出るか……はたまた別のなにかか。

 最大限の注意を払っていこう。

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