まさかの事態

「やっぱり警備が厳しいな」


 屋根の上を駆けて30分程経った頃、俺はようやく目的の場所に着いた。


 ここまで来る途中に何人かの探索者とすれ違ったが、その殆どが武装していた。恐らく、今回の事件を受けて捜索に出ている探索者達だったんだろう。


「さて……どうしようかな」


 今更だけど、不法侵入になるのだろうか。まあ、今は緊急事態だし大丈夫だろう。


 そんなことを考えていると、教会の扉の前にいた警備員と思われる男二人がこちらに気づいたようで近づいてきた。


「おいお前、そこで何をしている?」


 近づいてきた男は二人とも槍を持っていた。そして、どこか雰囲気も堅い……というか殺気立っているように感じる。


 これは当たりだな。


 近づいてきた男二人はどこにも迷教の信者を匂わせるような箇所はない。恐らく、竜の瞳のメンバーだろう。


「ちょっと、お話を聞きたくて」


「そうか。だが悪いがここは立ち入り禁止だ。出ていってくれ」


「いや、でも……」


「くどいぞ!早く出ていけ!」


 男の片方が怒鳴ってくる。


 このままだと面倒臭いことになりそうだ。

 男の怒鳴り声を聞いたからか、周りにいた他の警備をしていた男達も近づいて来ている。


「それじゃあ一つだけ…………拐ってきた女の子はどこだ?」


「────!!!」


 俺は相手にできるだけ威圧的に言う。


 そして、ようやく警備をしていた男達は俺が莉奈を助けに来たのを察したのか、なんのためらいもなく手に持っていた槍を全員が突いて来た。


「──金剛身!」


 俺は【金剛身】のスキルによって防御力が上昇した身体で、飛んで来た無数の槍を全て受け止める。


 ……やっぱりな。


 感じた強さと武器の槍が全員同じものだったことから強力な武器ではないだろうと予想していたが、案の定だった。


「フンッ!」


 俺は飛んできた全ての槍を弾き飛ばしてから、続けて目の前にいる二人の男が振り下ろしてきた槍を避け、一人は回し蹴りで吹き飛ばす。


「グハッ!」


 もう一人の方は俺に向かって殴りかかってくるが、その拳を受け止めると見せかけて腕を掴み、地面に叩きつける。


「がっ……!?」


 そして、そのまま流れるように残りの三人も地面へと投げつけて意識を刈り取る。


「ふぅ……とりあえずこれでいいか」


 俺は気絶した五人の男を見下しながら呟く。


「あとは一応……」


 気絶させた五人の男達のふくらはぎが見えるようにズボンの裾を捲ると、そこには竜の瞳のシンボルであるタトゥーが彫られていた。


「これで確定か」


 莉奈を連れていったのは迷教という情報しかなかったが、これでほぼ間違いなく竜の瞳も関与してるだろう。

 もし違っていても、竜の瞳のどちらかが関わっていることは間違いない。


「急ごう」


 俺はそう言ってから、教会の入り口のドアノブに手をかける。鍵はかけられてないようだ。


 そのまま扉を開くと、ギィイっと音を立てて扉が開く。

 中に入ると、そこはやはり教会。


 所々ひびが入ったステンドグラスからは光が差し込み、埃の被った長椅子が並んでいる。そして、朽ちかけている祭壇の奥には十字架が飾られていた。


 だけど……


「いないのか……?莉奈も迷教も残りの竜の瞳のメンバーも」


 静まり返っている教会の中には人影はなく、廃教会にただ俺の声だけが響くだけだった。


「莉奈!どこだー!」


 俺は大声で叫ぶが返事は聞こえない。


 くそっ!どこにいるんだよ!ここじゃなかったのか……!?


 だけど竜の瞳のメンバーがここにいたんだ。

 莉奈がここに連れてこられた可能性は十分あるはず。


「おい!莉奈いるなら返事してくれ!」


 俺は再び声を上げるが、さっきと同じように何も反応がない。


「まさか……もう連れて行かれたとかじゃないよな」


 こんな廃教会じゃなくて竜の瞳がしていたという人身売買の対象に……


 ──ガタッ


「───!」


 奥の祭壇の方から物音が聞こえる。


 誰か……いたのか?


 俺は警戒しながらもゆっくりと音の鳴った祭壇に近づいていく。


「おかしなところは……特にないか」


 だが、そこには何もなく、さっきまでの光景となんら変わらない様子だった。ただ一つを除いて。


「これは……血?」


 床に小さな赤い染みがあった。それは本当に細い、注意深く見なければわからないぐらいの何かを引きずってできたような跡。


 そしてその先を見てみると──


「……祭壇?」


 ──祭壇の方に続いていた。


「ここで途切れてるな……」


 でもこの先はなにもないただの壁のはず……


「隠し通路でもあるのか」


 俺はそう思い、祭壇を調べる。すると、丁度俺の顔の高さ辺りに不自然な凹みがあることに気づいた。


「なんだこれ……ん?」


 その凹みの部分を触ると、どうやらスイッチになっているようで、押すと壁の一部が開き、地下に続いている階段が現れた。


 スイッチには魔力も感じられることから一種の魔道具だろう。


「……行くしかないか?」


 そう考えていた時だった。


 ──バサッバサッ


 階段から羽ばたきが聞こえ、こちらに向かって飛んでくる。


 俺は咄嵯に【魔法矢】を使い、その場から離れると同時に階段から姿を表したそいつに矢を投げつける。


 そして、見事俺の投げつけた透明な矢は命中し、甲高い鳴き声を上げながら地面に落ちた。


「これは……コウモリか……?」


 そこに倒れていたのは体長約30センチほどの大きな黒い翼を持つ生物だった。


「だけどこれは……モンスターだよな?」


 見た目は確かにコウモリだが、俺の知識にあるものとは違う。

 そもそも俺が知っているコウモリは、もっと小さいはずだ。


 だけど、モンスターだとしてもこんなモンスターは見たことも聞いたこともない。


「おいおい……っていうことはまさか……」


 地下へと続く階段。その階段から出てきたモンスター。

 俺の頭に嫌な予感が浮かぶ。


「まさか……ダンジョン!?」

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