誘拐
俺の俊足を飛ばしてなんとか凛達の家にたどり着く。
だけど、そこは以前来た時とは違って、慌ただしく動いている人達がいた。
パトカーに救急車、そして野次馬。
そして、探索者らしき武器を携帯している人もいた。
「なんだこれ……」
俺の視界に入ったのは想像していたよりも酷い光景。
すでに警察が来ていることもあって規制線が張られている。
さらに、莉奈の家の塀と壁には穴が空いており、フロント部分が大破している車が一台。
そして、莉奈の家から少し離れたところに凛と杏樹の二人が何人かの警察と探索者と一緒にいた。
「凛!杏樹!」
俺は二人に声をかける。
二人はこちらを振り向き、少しだけ安堵した表情を見せる。
規制線の所にいた警察の人も俺のことを凛達の関係者と判断したのか、通してくれた。
俺は急いで二人の方へ向かう。
「楓さん……すいません、こんなことに巻き込んでしまいまして……」
「本当にごめんなさい……私がしっかりしていなかったばかりに……」
凛と杏樹は申し訳なさそうな顔をしながら言う。
「いや、それは別に大丈夫だけど……それより莉奈が拐われたっていうのは、いったいどういうことなんだ」
「実は……」
「お待ちください」
凛が説明しようとしたその時、警察官の一人が割って入ってきた。
その後ろには探索者もいる。
「失礼ですが、あなたは?」
「あ、突然すいません。
俺は探索者の天宮 楓と言います。彼女達の友人で、莉奈が誘拐されたと聞いてやって来たんです」
「あ、ああ、そうでしたか。これはわざわざありがとうございます。
私は警視庁探索者課の橋本といいます。
今回の件で捜査の指揮をとっている者なのですが、よろしければ現場の状況をお話ししても?」
「おれは飯田。
アストラル所属の探索者で、今回の事件について捜査をしている」
「わかりました。よろしくお願いします」
俺が頭を下げると、橋本と名乗った刑事は早速話し始めた。
「まず最初に、今回被害者である少女の名前は金崎 莉奈さん。
年齢は18歳です。
金崎さんは自宅にいたところを、あそこで大破している車で壁ごと吹き飛ばされて連れ去られました」
「……壁が吹き飛ばされた時に巻き込まれたってことですか」
「はい。恐らく衝撃で意識を失った後に連れ去られたと思われます。
話を聞けば金崎さんは探索者。抵抗したような跡もありませんでしたし」
「なるほど……犯人は?」
「それは……ごめんなさい。すぐにあとを追ったんだけど……」
凛と杏樹は悔しげな顔をして答えた。
凛と杏樹は車が塀や壁を壊したような音を聞いて、慌てて外に出てすぐに追ったらしいけど……
「そっか……街中で銃を……」
「うん。しばらくどこに行くのか通報しながらあとを追ったんだけど、銃を乱射されちゃって……」
「それで撒かれたということですね」
「はい……すみません。もっとあたしが速かったら……!」
凛は下を向いて歯を食い縛る。
【神速】という俊敏のステータスに高い補正がかかるユニークスキルを持っている凛が振りきられたというのは驚いたけど……
まさか街中で、それもこんな真っ昼間にそんなことをするなんて……
「いよいよなりふり構わなくなってきたな」
「え?どういうこと?」
杏樹の疑問に答えるように、俺は続ける。
「おかしい動きは前からあったんだよ……凛、杏樹その莉奈を拐った奴らのなかに迷教のマークをどこかに身に付けてたりしなかったか?あとはふくらはぎにタトゥーとか」
一応三日前に警察に通報した時にも、凛達三人には迷教や竜の瞳のことについて伝えてある。
だからこの質問をしたのだが……
「うーん……タトゥーは確認できなかったけど……」
「迷教のマークは確認した」
「そうなのか?」
「うん。それに私の解析スキルでわかった所属も迷教と竜の瞳の混成チームだった」
杏樹はそう言って、自分のユニークスキルを使った情報を俺達に教えてくれる。
けど……
「よかったのか?ユニークスキルを持ってることは」
隠しているんじゃと続けようとした時、杏樹がそれを止める。
「いいの。莉奈のためだもん。使わないわけない。
それに、いつかはバレるだろうから」
杏樹は笑顔で言う。
その顔からは強い意志を感じた。
「ありがとな。杏樹」
俺は杏樹に感謝を伝える。
そして、杏樹が言った情報について考える。
「やっぱり迷教か……それと竜の瞳ね」
「橋本さん、おれ達は……」
「ええ。迷宮教会と竜の瞳の確保に動きましょう。万全な状態なら令状もほしいところですが……やむを得ません」
「それじゃあ俺は行きます」
俺はそう言いながら、凛の家の屋根に跳び乗る。
すると、凛と杏樹が焦り出す。
「迷教の人達が集まる場所に心当たりがあります。
俺はそこに向かいます。二人は警察と一緒にいてくれよ!」
「ちょ!楓さん!心当たりってどこなんですか!」
凛が慌てた様子で聞いてくる。
「あ、あぁ、それは……」
危ない……少し焦りすぎたか。
行き先も伝えずに行くところだった。
「あの方角にある山の麓の廃教会だ!
飯田さん、橋本さん人手に余裕があったらでいいのでこっちにも人手を送ってください!
それじゃあ!」
そして、それだけを伝えてから返事を聞かず、そのまま屋根を跳んで目的地まで向かう。
目的地は廃教会。莉奈がいなかったら他の場所にいるってことだから、廃教会にいてくれた方が俺としてはありがたいんだけど……なんだろうなこの胸騒ぎは。
待っててくれよ……莉奈。
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