完食と行動

「あ~食った食った。ごちそうさまでした」


 なんとか交渉(強奪)により同じようにスマホの写真と動画を消したあと、俺達は夕食を食べ終えた。


 うん。本当に美味しかった。

 夕食は実に美味しそうな匂いのするカレーライス──


 ──と肉じゃが、ハンバーグだった。


 ……多くね?とも思ったけど、凛がカレー。莉奈が肉じゃが、杏樹がハンバーグ。


 そして、サラダなんかのその他色々を作ったから残った料理の量が多いのは当然のことだった。

 まあ、どれも旨かったから良いけど。


 それにしても、やっぱりその中でも凛と杏樹の食べる量は相変わらず異常だと思ったわ。


 前の焼き肉の時もそうだったけど、あの細い体のどこにあれだけの量のご飯が入るのか……


「はい。お粗末様です」


「お、美味しかったですか?」


「もちろんおいしかったよね?」


「ああ、もちろんだ。どの料理も凄くうまかったぞ!」


 俺は素直な感想を述べる。


 カレーは隠し味に何が入ってるのは分からなかったけど、すごくまろやかな風味があった。


 肉じゃがは味付けこそ濃い目だったけど、出汁の香りが効いた優しい味わいでこれもまた絶品。

 これぞまさに、懐かしい家庭の味って感じがして安心できる味だ。


 そして、ハンバーグ! これはもう、言うまでもないな。

 凛が作ったであろう手作りソースがかかったハンバーグはジューシーで口の中で肉汁が溢れ出してきて……最高でした。


「そっかー。良かったよ」


「は、はい。頑張った甲斐がありました」


「うん。私含めてみんな頑張って作った、」


「そうだな、ありがとう。美味しかったよ。これならみんないいお嫁さんになるんじゃないか?」


「「「えっ!?」」」


 俺の言葉に三人が驚いた顔をして固まっている。

 ん?


「どうしたんだ、三人とも」


「い、いえ。別に……」


「う、うん。何でもないよ」


「その、ちょっとびっくりしただけです」


「?」


 よく分からないけど、とにかく何かしら思うところがあるのか──




 ──なんてどこぞの鈍感主人公みたいなことは思わない。


 普通に思ったままのことをつい言ってしまった……

 普通に恥ずかしいし、若干気まずい。


 でも、ここで変に誤魔化しても意味がないし、むしろ余計に空気が悪くなるだけだからこのまま押し通そう。


「さて、じゃあそろそろ片付けよっか」


 精神力のステータスが高いからなのか、そこまで羞恥心を感じずに済んでいる気がする。

 ……気がする程度だけど。というかそうであってくれ。


「そ、そうですね」


「あ、私達がやりますよ」


 莉奈が率先して立ち上がり、食器を持って台所へと向かっていって凛がまた俺を働かせまいと手伝いを断ってくる。


「いやいや、これぐらいはやらせてよ。ただでさえ三人が夕飯を作ってくれていた時に寝ちゃってたんだからさ」


「わかりました!それじゃあ、お皿を運んでください!」


「了解っと」


 俺は凛に言われた通り、上に乗っていた料理や飲み物が食べ尽くされ、飲み尽くされた皿やコップなどを洗い場の方へ持っていく。


 凛が皿洗いをして、莉奈がその洗った皿を拭き、杏樹がそれを棚に戻す。


 そして、俺は……何もすることがなく、手持ち無沙汰になっていた。


「……あれ?俺の仕事もう終わり?」


「そうですよ。だから休んでてくださいね」


「え~……なんか申し訳ないんだけど」


「だけどもう仕事はない」


 確かに言われてみればそうだな……

 机も俺が皿を運んでいるうちに既に綺麗になっているし、俺に出来ることは何も残っていない。


「分かった。じゃあ、リビングにいることにするよ」


「はい、そうして下さい!」


 凛が笑顔で答える。

 う~ん。いい笑顔。


 まあ、なにもないしまたソファーに戻るかな。


「……ん?」


 キッチンからリビングに戻ろうと歩き出した時、視界に入った窓の外の景色。


 空はすっかり暗くなっていて、家の明かりだけが輝いているように見える。


 そして、塀越しにそんな夜景をバックにしてこの家、莉奈の家、杏樹の家この三軒を覗いている人影があった。


「あれは……」


 ばれないようにしながら窓から探ると、それぞれの家に三人ずついることが分かった。


 ただ、ここからだと距離があって誰がいるかまでは分からないし、明かりもこの家の明かりしかついていなくて顔はわからない。


 俺はとりあえずスマホを取り出して、カメラモードにして動画撮影を始めて一通り撮ってからそのままポケットにしまう。


 胸ポケットがあれば良かったんだけど、残念ながらないので、入れるのはズボンのポケットだ。

 そして……


「複数捕捉」


 俺は呟くように【複数捕捉】を使って、スキルを発動させる。

 対象は合計九人の怪しい奴らだ。


 ……というかネックレスが見覚えのあるマークだな。

 ああ、迷教か。


「……あいつらに聞くのが一番早いか」


 こいつらの狙いが何なのか、そしてなぜ様子を伺うような行動をしているのか……

 まあ、答えは……いや、聞けばすべてわかる。


「……よし。行くか」


「あれ?楓さんもう帰るんですか?」


「いや、ちょっと外に出るだけだよ」


 俺はそう言ってから玄関から出る。


 以前俺が話しかけようとした瞬間に逃げ出されたんだ。玄関のドアを開くと当然音がなるだろう?


 そうなると──


「まあ、そうだよな」


 ──逃げられる。


 俺が玄関から家の外に出た時にはすでにあいつらは居なくなっていた。まあ、それはわかりきっていたこと。


 そのために【複数捕捉】を使ったわけだし。


 今の俺はあの九人に【複数捕捉】を使ったことであいつらの動きにあわせて視線が勝手に移っていく状態だ。

 九人バラバラに逃げてるらしく、その動きに合わせて俺の視線も動いていく感じ。普通にきつい。酔いそう。


 だけど、しばらく耐えていたら一つの方向に全員集まってくれた。


「これであいつらが集まる可能性のある場所の方角はわかった」


【捕捉】スキルの応用だけど、うまくいったな。

 このまま追っていきたいけど……


「まずは三人に説明だな」


 そう呟きながら家の中に戻る。

 ……さて、どう説明しようか。

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