一度の攻防

「楓さ~ん。出来ましたよ~起きてくださ~い」


 凛の声で俺は意識を取り戻す。


 ……寝ちゃってた?


 どうやらうとうとしてたら本格的に眠ってしまったようだ。目をこすり、欠伸をしながらソファーから体を起こす。


「悪い。寝ちゃってたか」


「いえ、良いんですよ。疲れてるのかなと思ってただけですから」


「あはは、なんか恥ずかしいな」


「大丈夫ですよ。それにしても気持ち良さそうに寝てたので写真撮っちゃいました」


 スマホをいじりながら見せてきたのは、本当に気持ちよさげに眠っている俺の写真だった。


「ちょっ!それ消してくれ!」


「えぇ、せっかく撮ったんですから……って早っ!?」


 ふっふーんといった誇ったような表情をした凛の手元にあるスマホを、俺の持ちうるステータスのすべてを使って奪い取る。


 防御力と精神力はこの行動に関係ないからいい。


 だけど、攻撃力は凛のステータスを上回りながらも、スマホを壊さないように力加減を気をつけて。


 次の俊敏は凛の目が追い付かない程度の速度に調整する。


 そして、最後。これが重要だ。

 器用のステータス。このステータスは力任せではなく、スマホを凛の手の中から奪うことだけに全神経を使う。


 俺の動きを見えなかった凛から奪うためだけに。

 ……なにしてんだ俺?


「まあ……スマホは取れたし早速削除を……」


「させないです!とりゃー!」


「うぉっ!?危ないぞ!」


 凛が素早く動いた……てか【神速】使ってね?


 ともかくそんなすさまじい速さで俺の手の中にあるスマホを狙ってきた。


 しかし、そんな速さについていけないほど今の俺は落ちぶれてはいない。


 写真を削除しようと操作していたスマホを狙って突進してきた凛に対して、俺はしゃがみ込んで回避し、そのまま足払いをかけて、凛のバランスを崩させる。


 もちろん探索者の凛がそんな簡単にバランスを崩したりはしない。


 すぐさま凛は何歩かソファーから離れたけど、踏ん張って持ち直してすぐに体勢を整えてまた向かってくる。

 よしよし、狙い通りだ。


「よっと」


「へ?きゃあっ!」


 俺の思惑通りに、凛がもう一度俺に向かって飛び込んできたタイミングで、今度は横に避けてから軽く背中を押してやる。

 すると、凛は勢いよくソファーに突っ込んでいった。


「いてて……」


「ほら、だから言ったろ。危ないって。

 ほい。削除っと」


 俺は凛から取り上げた自分のスマホを操作して、先程撮った写真を消去していく。


 その間、凛は何も言わずただぼけーっとその様子を見ていた。


 ふぅ……これで一件落着っと。











 っと思ってたら凛のスマホじゃなくて、俺のポケットの中に入っていたスマホが震え出した。


「ん?」


 なんだ?

 とりあえず、スマホを確認する。


「お?なんで杏樹?」


 画面には杏樹からのメッセージの通知が表示されている。


 杏樹ならさっきから莉奈と一緒に馬鹿なことをやってる俺達を見てたから、メッセージを送ってくることはないはずなんだけど……普通に声をかけた方が早いし。


 どうしたんだ?


「え~っと…………なぁ!?」


 杏樹のメッセージを確認すべく、画面を見た瞬間思わず声を上げてしまった。


「ど、どうかしましたか……楓さん」


「あ、いや。なんでもないよ」


 凛に聞かれて慌てて取り繕う。


 というか隠さなきゃさっきまでの苦労がすべて水の泡に……


 杏樹からのメッセージ、それは──



 ──さっき削除した別角度からの俺が眠っている写真と、さっきの凛とのやり取りが映っている動画が添付されていた。


 ギギギッと音がしそうなくらいぎこちなく首を動かし、杏樹を見るとムフーンといったように誇ったような表情をしていて、親指を立ててグッジョブといったようなことをしている。


 莉奈はというと、キョロキョロとそんな俺と杏樹を交互に見て不思議そうにしていた。


 ……莉奈は撮ってなさそうだけど、杏樹さん……あんたも撮ってたのね……

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