中ボス……強くね?

「よ、ようやく十階層か……」


 あれから約二時間半かけてやっと十階層までたどり着いた。

 さすがにここまで来ると、ダンジョンに慣れてきた俺でも疲れが溜まってくる。


「さっきまでは全然出てこなかった鬼火も一気に増えたしな」


 さっきまでは俺が先に見つけたり、不意打ちでほぼゼロ距離まで近づいてくるとしても一体だった。だけど、五階層から六階層に下りてからは違う。


 六階層に入ってからは、鬼火も複数体同時に出現するようになった。しかも、一体増えて二体だけじゃなくて、三体がセットになって出てくることもある。


 特に苦労はしなかったけど、それでもめちゃくちゃ精神的に疲れた。てか、やっぱりこのダンジョン狙ってんだろ。


「まあ、なんにせよこれでようやく中間地点か」


 全二十階層の灯火のダンジョンの十階層は所謂中ボス部屋と呼ばれるボス部屋がある場所だ。


 そして、このダンジョンの中間地点でもある。


 この中間地点では、これまでのボス部屋のあった階層と同じようにモンスターは出てこないから、休憩地点として最適だ。


「よし、ここで一旦休憩するか」


 どうせここから先は中ボスを倒さなきゃ進めないんだ。ここでしっかり休んでおこう。


 だけど、中ボスを倒せたら、次に灯火のダンジョンに来た時に、十一階層から始められるんだ。ここで帰ったりしたらもったいないし、せめて中ボスぐらいは倒して次に来る時に十一階層から始められるようにはしておきたい。


 ちなみに、これを中継地点セーブポイントと言って、十一階層にクリスタルがあるから、それに触れれば中継地点を登録できるようになっている。


「正直、これからは鬼火の相手は最低限にしていきたいし、ここは確実に倒して先に進みたいな」


 そんなことを思いつつ、俺は【アイテムボックス】の中から水の入ったペットボトルを取り出す。そして、そのまま蓋を開けて水を口の中に含ませてから、勢いよく飲み込む。


「ぷはぁ~……うまい」


 灯火のダンジョンの少しばかりジメッとしてるのに加えて、鬼火に不意打ちで近づかれた時に感じた熱さで汗も出てたし、水分補給は大事だ。


 こういう時こそスポーツドリンクとかの方がいいのかもしれないけど、残念ながら今日は持ってきていない。


 うん。後で買っておこう。こういうとこだと汗をめちゃくちゃかくから水じゃ物足りないわ。


「ふぅ……そんじゃあ行きますか」


 軽く伸びをしてから、再び歩き出す。


 向かう先は、いつもよりも少し小さな、ボス部屋への扉。扉は今まで通り、両開きのタイプだ。


「さあ、行くか!」


 そして、俺は近づいたことで勝手に開いた扉を通ってボス部屋の中に入る。入ってすぐに【魔法矢】で作り出した透明な矢を弓につがえて構えておく。


 ボス部屋はいつものボス部屋よりも暗く、光源も確認できない。だけど、部屋の中心にいる存在のおかげで暗いどころかめちゃくちゃ明るくなっている。


 まあ、中心ってことはお察しだろう。


「あれが……今回のボスだな」


 ボスは、鬼火と同じような火の玉だった。だけど、ただの火の玉じゃない。


 その火の体は俺から見て、右半分がこれまでの鬼火と同じ青い火で、左半分がオレンジの炎で構成されている。


「うわぁ……調べてはいたけど実際に見ると結構デカイな」


 ボスの火の玉はこれまで見てきた鬼火より二回りほど大きくなっている。その大きさは4メートルぐらいかな?熱もここまで届くぐらい熱い。


 そんなあいつの名前は、双鬼炎そうきえん


 その攻撃方法は、一発一発の威力、範囲共に高くなっている青い火の玉を飛ばしてくる攻撃。威力、範囲共に青い火の玉よりも弱くなっているが、その代わりに連射力が増しているオレンジ色の火の玉を飛ばしてくる。


 この二つの攻撃を上手く使い分けることで、双鬼炎は戦闘を行ってくるようだ。


「まあ、俺には関係ないんだけどな。捕捉」


 そう呟きながら、【捕捉】を使ってから、龍樹の弓につがえておいた矢を射ち出す。放たれた矢は、一直線に双鬼炎へと向かっていき、直撃する。


「……!!!」


 だけど、そんなの効かないとばかりに双鬼炎は、右半分の青い火から火の玉を飛ばしてきた。


 それを俺は、余裕を持って回避する。


「くっ……」


 そして、避けた火の玉はそのまま地面にぶつかると爆発を起こす。幸いにも、そこまで大きな衝撃じゃなかったから、ダメージはない。


 だけど、これはやばいかも。


「やっぱり、強いな」


 さっきまで戦ってきた鬼火とは違って、こいつはかなり手応えがありそうだ。というか普通に強い。


 あんなの喰らったらひとたまりもないぞ……


 いやまあ、当たらなければいい話だし、別に大丈夫なはずなんだけど……


 そして、そんなことを考えてる内にも、双鬼炎は今度は左半分のオレンジの火から複数のオレンジの火の玉を飛ばして来た。


「ちょ!まじかよ!?」


 俺は慌てて横に跳んで避ける。だけど、飛んで来る火の玉から避けられそうにないのがわかる。


 だから咄嗟に当たりそうな火の玉を【魔法矢】で作り出した矢を火の玉に向けて射ち、相殺していく。


 う~ん……これは不味いな。


 どうしよう。思ってたより攻撃が激しい。まあ、そうとなったら……


「逃げます!」


 ボス部屋の扉に向かって全力疾走。


 こんな所で戦うのは無謀だ。なら、勝つためにここは逃げるしかない。正面から勝てるならそれで良かったけど、今回は無理だ。


 双鬼炎は逃がさないとばかりに火の玉を放ってくるが、俺はそれらを避けて、時には【魔法矢】で相殺して、ひたすらに走る。


 そして、扉から出れるーー


「……!!!」


 ーーと思った瞬間、扉に向かって青い火の玉を飛ばしてきた。


 まずい。当たる?いや、間に合う?迎撃……いや、迷うな!


「うぉおおお!!!」


 迫り来る青い火の玉に見向きもせずに、開いている扉に向けて走って最終的には転がるようにしてボス部屋を出る。俺が出たことでボスの体力回復のために時間稼ぎをする役目を持っていた扉は、自動で閉まった。


 そのすぐ後に、後ろの方でドォンという音が聞こえてくる。


「あぶねぇ……死ぬところだった」


 なんとかギリギリ間に合ったけど、もう少し遅かったら死んでたかも。本当に危なかった。


「なんだよ安全マージンが1000って……全然足りねえじゃん」


 シルバー試験をソロでも受けられるようにもなってるレベル1000。それでも中ボスをソロで正攻法で倒すのにはまだ足りなかった。


 まあ……


「正攻法がダメなら裏技でってな」


 もう双鬼炎を【捕捉】してるんだ。そして、こうしてボス部屋から出てきたら。


「ずっと俺のターンってね」


 この階層に人がいないのを確認してから、扉に向けて【魔法矢】で作った透明な矢を弓につがえてから射ち出す。


 透明な矢は扉をすり抜けて、扉の向こうにいる双鬼炎に向かって飛んでいく。


 一回の【魔法矢】で、どれだけHPが削れてたかを【鑑定】で確認する余裕はなかったから何回射てば良いかわからないけど、MPは有り余ってるんだ。そうなったら倒せるまで射ち続ければいいだけだ。


 一回、二回、三回、四回、五回………………二十五回。とにかく射ち続ける。


 そして……


『レベルが30上がりました』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る