灯火のダンジョン

 そして、翌日。


「やってまいりました。灯火のダンジョン」


 家から近いし、Cランクダンジョンの中では出てくるモンスターとの相性がいいからだ。ただ、他の探索者の場合だと、別の意味で相性の悪いダンジョンになっている。


「じゃあ、早速入るか」


 俺はダンジョンの入り口前にいた警備員に無言で見つめられながら灯火のダンジョンに入る。


 灯火のダンジョンは柳のような木が林のように生えているダンジョンだ。これだけ聞いたら新緑のダンジョンと同じかと思う人もいるかもだけど、少し違う点がある。


 それは、太陽のような光源が少し暗いというところだ。これのおかげで薄暗く感じるが、視界には困らないぐらい。あとは、少しばかりジメッとしている。


 まあ、察してる人もいるだろう。


「この環境に加えて出てくるモンスターが鬼火って……狙ってるだろこれ」


 そう。この灯火のダンジョンに出てくるモンスターは鬼火。あのお化けが出てくる時の演出なんかに使われてたりする火の玉だ。


 まあ、ここまで言えばわかるだろう。お察しの通りこのダンジョンはThe・ホラーなダンジョンになっている。


 この鬼火というモンスターは、物理攻撃は効かず、魔法や魔法が付与された武器、魔素が込められた攻撃でしかダメージを与えられない。しかも、鬼火はHPを強制的に200吸収できる攻撃もできる。


 それに加えて、それこそお化けみたいに突然柳の陰から出てきたりするから本当に厄介だ。しかも【索敵】スキルを掻い潜ってくることもあるからさらにたちが悪い。


「でも、俺にとってはまだなんとかなるからな」


 攻撃に関しても【魔法矢】があるし、防御に関してもHPを200持っていかれても体力には余裕がある。


 それに、本体の火を使った攻撃もCランクダンジョンの安全マージンまでレベルを上げたから見てからでも【回避】スキルを使えばなんとかなるしな。


 あと、俺は別に幽霊とかお化けの類いが怖い!っていうような人間でもない。


 The・ホラーなダンジョンってわけで怖いのが苦手な探索者がいるパーティーは、このダンジョンには来ないおかげで人も少ないし、俺からしたら万々歳だ。


「まあ、がんばりますか」


 そんな相手だから龍樹の弓を構えながら灯火のダンジョンを進む。一応相性は良いし余裕だけどそれでも初めてのCランクダンジョンなんだ油断はしない。


「おっ。早速出たな」


 ダンジョンに入ってから十分ほど経ったところで、早速鬼火が現れた。


 鬼火はその見た目通り火の玉のような姿をしている。だけど、その火の色はオレンジじゃなくて青色。かなりの熱をその体は帯びているようで、ゆらゆらとその体を揺らしながら近づいてくる。


 そして同時に、まるで俺に敵意を持っているかのようにその青い炎は勢いを増していく。


「魔法矢、捕捉。……シッ!」


 とりあえず先制攻撃を仕掛けるために【魔法矢】で透明な矢を作り出して、弓につがえ射ち出す。


 射ち出された矢は【捕捉】スキルの効果で必中になっているので、そのまま鬼火に向かって飛んでいく。


 そして、その矢は見事鬼火に命中した。


「……!!」


 鬼火は声にならない悲鳴を上げながら火が消えていき、灰になって床に落ちた。


『レベルが3上がりました』


 オッケー狙い通り。やっぱり【魔法矢】は魔素で作られてるだけあって鬼火にもちゃんと効いたな。


 それにレベルも上がったし。Cランクダンジョンともなると、俺のレベルでも結構上がるな。


 そして、床に落ちた灰を見ると、埋もれるようにだが灰の中にしっかりと魔石も落ちていた。


「よしよし。良い感じだな」


 さっきまで鬼火がいた場所まで近づいて、魔石と灰を回収する。魔石はともかく灰も?と思うかもしれないが、灰は意外と重要なのだ。


 というのも、鬼火を倒した後に出る灰は畑にく草木灰の代わりとして使えるからだ。


 何故かこの灰には、畑に蒔く普通の草木灰よりも多くのミネラル類と落ち葉の灰と同じような納豆菌が混ざった特殊な成分が含まれているらしい。

 それでいて、普通の草木灰よりかは栄養価が高いので、畑の栄養にもなる万能肥料なのだ。


 そのため、買う場合は普通の肥料よりはお値段は張るが、それでも作物を健康にしたり、微生物の動きを活発にしたりといろいろ役に立つので結構人気の商品だったりする。


 まあ、この灰が出てくるのは極一部のこういうThe・ホラーなダンジョンに出てくるモンスターだけだ。


 だから、Cランクダンジョンなのも相まって供給もそこまで多くないため、少し買い取りもお高めになる。


 さすがはダンジョン協会が討伐を推奨しているモンスター。これだけでもそこそこ稼げそうだな。


「さてさて、どんどん狩っていくぞー」


 それから、俺は少しペースを上げて灯火のダンジョンを進んでいった。











 そして、約一時間ぐらい経過したころ。


「ふぅ~まだ先は長いな」


 現在俺がいるのは灯火のダンジョンの五階層。ちなみに、この灯火のダンジョンは全二十階層なのでようやく四分の一といったところだ。


「あと十五階層か……きっついな~……」


 ダンジョンでは基本的に自分の足で移動しなければならない。だからこそ、ダンジョンの階層が多いと、ダンジョン内での移動だけで体力を使うことになる。


 いくら最短ルートでボス部屋に向かっても、こればっかりはどうしようもならない。まだ体力が尽きるといったこともないけど、それでも精神的には疲れてくる。


 理由としては……


「……!!!」


「!?!?うおーー!!!?」


 こいつのせいだ。急に後ろから出てきた鬼火を間一髪のところで避ける。


「あぁ、もう!!ビックリするなぁ!!!捕捉!」


 鬼火は突然現れるから心臓に悪いんだよ。こうやってちょくちょくビックリするから体力も若干削られるし。


 幸いにも鬼火の不意打ちは、その火の玉としての姿のおかげで近づかれてもめちゃくちゃ明るくなるからすぐに対応できる。


 てなわけで【捕捉】スキルを使ってから【魔法矢】で矢を作り、鬼火に向かって矢を投げて倒す。投げた矢は一直線に飛んでいき見事に鬼火に命中した。


「ふう……これで終わりっと」


 そして、また灰と魔石を【アイテムボックス】に回収する。


 いや~灯火のダンジョンに来る前に協会でハイコボルトを売っといて正解だったな。ハイコボルトを売ったおかげで【アイテムボックス】の中も結構余裕ができたし。


「それにしても、いちいち魔法矢で倒さないといけないのは面倒だな」


 正直に言って鬼火を倒すのは結構手間がかかる。こっちが先に気づけたら倒すのは簡単だけど、鬼火に不意打ちされたら面倒なことこの上ない。


 最初、さっきみたいに不意打ちされて咄嗟に疾走の短剣で切りつけてしまったけど、逆再生みたいに再生しちゃったし。


「……まあ、こればっかりはレベルが上がって他のダンジョンのモンスターも一撃で倒せるようになってからだな」


 そうすれば、他のダンジョンでも効率よくレベルを上げられる。


「じゃあ、あと十五階層がんばりますか」


 そう呟きながら灯火のダンジョンを先に進んでいくのだった。

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