シルバー試験
それから一週間。この一週間はシルバー試験に向けて、体が鈍らないようにこれまで潜ってきたダンジョンにもう一度挑み直したりしていた。
ついでにというのか、あのダンジョン協会支部のところにいた宗教団体。俺が行ったダンジョンにもいやがった。話に聞いた通りというか、実際に見たらそれよりもっとひどい。
まず、信者らしき人達が探索者へのネガティブキャンペーンをしていた。これだけで面倒なことこの上ない。
その時、話を聞いた人の大体が足を止めずに話を聞き流してはいたけど、俺達みたいな探索者からしたら当然いい気分になるはずがないんだよな。
直接ダンジョンに入っていく探索者に絡むなんてことはなさそうだったけど、それでも探索者が嫌そうな顔をしてれば、それを見た連中がさらに悪乗りして、余計に騒ぎ立てる。
本当に面倒臭いことこの上なかった。
しかもなんか日を追うごとに、見ることも多くなってた気がするし……
「まあ、そんな面倒事も今日はないからいいけど」
シルバー試験の申し込みをしてから約二週間。
ついにその時がやってきた。
「それでは皆さんお待たせしました。これより、シルバーランク認定試験を開始させていただきます!」
協会の職員が声を張り上げ、その宣言に周りの人達が盛り上がる。
そう。ついにシルバー試験が再開したのだ。
……長かったような短かかったような。
俺としては結構濃密な時間を過ごしたと思うんだけど、周りからすれば長く感じるんだろうか? それとも短い?
現在地は、試験会場であるダンジョン協会支部の訓練所。
「今回の受験者は過去最高の人数となっており、前回よりも倍近くなっております。トラブルなどないようにお願いいたします」
職員が注意事項を読み上げていく。
それに皆耳を傾けているのか、さっきの盛り上がりはどこに行ったのか誰も声は出していなかった。
「それでは早速第一の試験を始めていきましょう。今回はこちらになります」
職員が横にずれると、そこには数人の防具を着た男女がいた。
「今回のシルバー試験の実技試験は受験者が多いのでシンプルにいかせてもらいます。
皆さんには、ここにいる協会の依頼を受けていただいたシルバー資格保持の探索者の方達と戦ってもらいたいと思います」
なるほど……確か例年通りだったらCランクダンジョンに潜って、実際にモンスターと戦ってもらってどのくらい戦えるかを見るらしかったけど……まあ、無理だよなこの人数は。
シルバー試験を受ける探索者はパッと見てもかなりの人数いる。中止してた分を考慮しても元々シルバー試験を受ける探索者が多かったんだろう。
この人数、パーティーで受ける人がいたとしても、いちいち戦闘を見て評価するのは骨が折れるだろうから、こうなったのは仕方ないのかもしれない。
それなら直接戦りあったほうが早そうだし。
「これから、実技試験を受けてもらう皆さんを順番に呼んでいくので呼ばれた方は前に出てきてください。……では、最初は『紅蓮』の皆さんです。前へどうぞ」
「「「はい!!」」」
職員さんがそう言うと、多くいる探索者達の中から三人の男女が出てきた。
「それでは紅蓮以外の受験者の皆さんは、訓練所から出て待機していてくださーい」
その職員の言葉に従って、他の人達は訓練所から出て行き、残ったのは紅蓮の人達だけになった。
さて……これからどれぐらい待つことになるかな。
それからシルバー試験は順調に進んでいき、最初の紅蓮というパーティーをはじめとしてどんどん実技試験を受けていく。
見学もOKだったから、俺はガラス越しに椅子に座りながら試験の様子を見学することにした。
というか、見学しとかないと受験人数を考えると順番が来るまで暇すぎる。あとは単純にシルバー探索者が少し気になるし。
まあ、結果としては見て正解だった。
予想はしてたけど、やっぱりシルバー資格保持の探索者はかなりの実力を持っている。そもそも探索者としての年期が違うんだし、当然といえば当然なのだろうけど、それでも見ていて参考になることがたくさんあった。
まず、戦い方がうまい。例えば、紅蓮のリーダーらしき男性は双剣を使った縦横無尽に駆け回る高速戦闘が持ち味らしかったのだが、少しそれを見ただけで男性は動く前に封じられていた。
さらに、パーティーとの連携もすべて対応されて最終的には何もさせてもらえず終わってしまう。
他の人達も似たような感じで、ほとんど完封されていた。
これはシルバー資格保持の探索者が上手く立ち回っていたからだと思う。だけど、それでも勝つことが条件ではないらしく、ダンジョン協会の職員さん達が合格を言い渡していた。
まあ、当然と言えば当然か。そんな勝利を合格条件にしてたら合格者がとんでもなく少なくなっちゃうし。
あと、中には不合格を言い渡された人達もいたけど、これは完全に納得する理由だ。
だって、俺から見てもスキルに体が振り回されてる事がわかるんだもん。パワーレベリングだけで、スキルを体に慣らしていないのがまるわかりだった。
まあ、逆に言えばきちんと自分でしっかり戦ってきた人達は全員合格をもらっていた。
絶対に不合格にはなりたくないぞこれ。
「えっと、次は……天宮さん!お願いしまーす」
……呼ばれた。パーティー名じゃなくて、名前呼びなのも考えると呼ばれたのは俺だろ。
周りを見渡しても、全員誰かと一緒にいて話してるのを見る限りソロなのは俺だけっぽいし。
……べ、別にボッチじゃねえし! ま、まあ呼び出されたし訓練所に行くとするかね。
椅子から立ち上がり、訓練所まで行くとそこには職員さんと、一人の男性が立っていた。
「天宮さんでしょうか?」
「はい。天宮楓です」
職員に確認をとられたから、探索者資格を見せて答える。
「はい。確認できました。それでは早速ですが実技試験を開始します。
今回の実技試験では、天宮さんには協会所属のシルバー資格保持の探索者の方と戦っていただきます。
負けても不合格となるわけでもないので、緊張せず戦ってください」
「はい」
今回の実技試験は模擬戦。それは説明されてたし、先に実技試験をやった人達を見てるからわかってたけど……大丈夫かな?
俺って戦闘スタイルが、【捕捉】スキルを手に入れる前は、【魔法矢】を使って遠距離攻撃を一方的に当てるといった感じだ。
それが今では【捕捉】スキルを使いながらも、【弓術】と【短剣術】のスキルレベルが上がったのもあって【捕捉】スキルを使わなくてもある程度戦えるようになった。
そこまではいいんだよ。そこまでは。
問題は【魔法矢】。
【魔法矢】のスキルレベルが上昇してるのもあって、威力が上がってるんだよ。
今回は対人戦。その【魔法矢】を模擬戦相手の男性に射たなきゃいけない。
しかも、シルバー資格保持の探索者は訓練用の武器で相手することになってる。
これ俺の【魔法矢】受け止められる?というか避けれる?
もし避けられなかったら……うわぁ。考えたくもない。
レベル差もあるだろうから当たったとしても、そこまで酷いことにはならないと思うけど一応気をつけよう。
「それでは両者位置について」
職員に言われて、俺は男性と距離をとる。
今回俺の相手をしてくれる人は、訓練用の両手斧を肩に乗せながらこちらを見ている。
「今回はよろしくお願いします」
「おう!胸を貸してやるから全力でかかってきな!」
そう言って、男性は大声で笑う。
うん。とりあえずあの人の攻撃は当たらなければどうということはなさそうだ。
よし。頑張ろう。
「では……始め!」
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