依頼報告
ヒール草を集めてから五日間。
新緑のダンジョンに潜り、ヒール草を採集したり、武器の扱いを鈍らせないためにキラースパイダーとタイマンしたりした。
この初日と五日間。合わせて六日間ヒール草を集め、その総数は七百八十本。
これを全部納品すれば……エヘヘヘ。
まあ、依頼を受けてヒール草が採集できなかった日が一日に、採集に費やした六日間。
つまり、合計一週間の収入は200×780で156000円。
まあ、普通にダンジョンに潜ってモンスターを倒したりするよりは収入は悪いだろうけど、それでもほとんど命の危険が無いことを考えたらかなりの稼ぎだ。
「それじゃあ、早速協会に行くか~……」
というわけで、ヒール草七百八十本を納品報告するためにダンジョン協会の支部に向かう。
今回の依頼は、雅さんの依頼みたいに依頼主のアストラルまで持っていかなくても、支部で報告、納品で依頼完了だ。この辺はかなり楽である。
「さてと、それじゃあ行きますかね」
俺は家から協会支部に向かって歩き始める。
そして、しばらく歩いてダンジョン協会支部に着いたんだけど……
「……なんだあれ?」
視界に入っているのは、いつも通りのダンジョン協会支部。だけどおかしいのはダンジョン協会支部のある道路の反対側の道路。
「あれってパトカーだよな……事故か事件でもあったのか?」
ダンジョン協会の支部の少し離れたところにパトカーが一台止まって、警察の人が人だかりに話しかけているのが見えた。
事故や事件っていうような物々しい雰囲気ではないし、どちらかというと野次馬が集まっている感じだ。
まあ、警察が来ている時点で、普通の事故や事件とは考えられない。だけど、ダンジョン協会が目の前にあるのに、協会の人が対応してないってことは探索者は関わってはないと思うんだよな。
まあ、俺が協会に行くのになにも関係はなさそうだし気にしないでもいいか。それに、報告したあとに協会の人に聞けばなにがあったか大体わかるでしょ。
そんな人だかりを背に、ダンジョン協会の支部に入り、受付に向かって一直線に歩みを進める。
今の時間帯、買い取りなんかに来る探索者がいない分、受付は暇なのか、カウンターの向こう側では女性職員が暇そうに座っていた。
てなわけで、その職員の人がいる受付に向かって声をかける。
「すみません。依頼の報告と納品をしたいんですけど」
「はい。では、探索者資格をお願いします」
「え~っと……はい、お願いします」
俺は【アイテムボックス】の中から探索者の証であるカードを取り出し、それを女性の職員に差し出す。
すると、女性の職員はそれをいつものスキャナーに差し込んで、パソコンを操作し始めた。
「え~っと……はい。確認できました。ヒール草の採集
それではヒール草をこちらのトレーにお願いします」
「わかりました」
俺は女性職員の指示に従って、横30センチ、縦20センチぐらいのまあまあ大きい長方形の銀色のトレーに【アイテムボックス】から取り出したヒール草を次々と乗せていく。
だけど、ヒール草を五十本ぐらい乗せたところで、トレーの上はヒール草で山が出来た。
これまだ乗るかな?
「あの……まだあったりしますかね?」
俺が順調にヒール草で山を作っていると、さっきまでの笑顔を消した女性職員が、頬をひきつらせながらそう聞いてきた。
「あ、はい。まだまだありますよ。具体的に言えば七百三十本」
「そ、そうですか……ちょっと待っていてくださいね……すいませーんヘルプお願いしま~す!」
女性職員はそう言い残して、奥の方へと消えていった。
……多すぎたか……
そして、女性職員が帰ってくると、今度は後ろに二人の男性を連れて戻ってきた。今も受付に乗っているトレーよりも大きなトレーを持って。
「お待たせいたしました。それでは今あるヒール草はすべてそちらのトレーにお願いします」
「了解です」
俺は言われた通りに、トレーに載っているヒール草を新しいトレーに全て移し替える。
そして、【アイテムボックス】から追加のヒール草をトレーの上に出していく。どんどんヒール草を出していき、最後の一本まで出し終えた。
「うわっ……こんなに。すごいですね!」
俺が追加でヒール草を全部出すと、女性職員は驚きの声をあげた。まあ、これだけの量があれば驚くよな。
それでこれから職員さん達は、このヒール草の中に違う薬草が混ざってたりしないか数えながら確認するんでしょ?
……お疲れ様です。原因は俺だけど、そこは仕事だってことで諦めてほしい。
そんなことを考えている間にも男性職員二人が、トレーの両側をそれぞれ持ち、俺がヒール草を出したトレーを持ち上げて奥に消えていく。
「ヒール草、確かにお預かりいたしました。それでは、ヒール草を数え終わるまでしばらくお待ちください」
「あ、じゃあちょっと聞きたいことがあるんですけどいいですかね?」
ヒール草の数を数え終わったら納品完了だけど、それまで暇だしあそこに止まってた警察の人達について聞いとこうか。
「はい。大丈夫ですよ。どんな内容でしょうか?」
「いや、大したことじゃないんですけど、あそこでパトカー止まってますよね。あれってなんだったんですか?」
「ああ……あれはですね……」
それから女性職員さんは、向こう側で起こっていることを詳しく教えてくれた。
なんでも、あっち側で警察の人に話を聞かれていた人達は、ある宗教団体の信者で神託が下ったなどと言ってあそこで騒ぎ立ててたから、警察が駆けつけたらしい。
しかも、それだけならただの迷惑な人なんだけど、どうも警察の人が事情を聞こうとしても、我らが神への冒涜かと騒いで野次馬が集まってきてるらしく、収拾がつかなくなってきているとか。
さらに厄介なことに、その宗教団体はダンジョンは神からの贈り物として崇めているところみたいで、ダンジョンのモンスターを倒すことには否定的。ということで、ダンジョンに潜って生計を立てている探索者を目の敵にしているみたいだ。
そして、そんな人達相手に、探索者協会が警察を手伝うと、色々問題になったりしてしまうから手伝うのは難しかったらしい。
「なにやってんだか……」
正直どうでもいいけど、その宗教団体の人達は神託の子と呼ばれている子を探してるらしく、その条件が女の子。そして、一番肝心なのがその子には普通の人にはない力があるということ。
そんな感じなことをずっと言ってたらしい。
「迷惑この上ないですね」
「全くです。朝からずっとあそこにいるんですよ。もうそろそろ帰ってくれるといいんですけど……」
女性職員はため息をつきながらそう言った。
大変そうだな……
少しその宗教団体が探してるっていう女の子に興味を引かれる。だけど、こういうのには関わらない方がいいだろうし、無視しとこ。
というわけで、しばらくそんな雑談を女性職員としていると、ヒール草の確認が終わったようで、さっきの男性職員の一人が紙を持ってきた。
「確認終わりました。ヒール草七百八十本お預かりします。
依頼はこれで完了報告をしてもよろしいでしょうか?」
「大丈夫です。ありがとうございました」
俺は確認が取れたので、協会をあとにする。
………………さて、これで依頼は完了!
でもシルバー試験はまだ再開しないらしい。……なにして過ごそうかな。
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