ヒール草採集

 現在の時刻は十八時。そして、俺の現在地は新緑のダンジョンの入り口前。


 トランスで雅さんの仕事ぶりを見学したり、他の社員さん達の着せかえ人形になったり、尻を警戒したりと色々あったけどかなり充実した時間だったと思う。


 あ、あそこにいた社員の中でおネエさんは雅さんだけでした。


 まあ、そんなこんなで報酬は俺の口座に送ってもらって、ヒール草が生える時間になりそうだったから新緑のダンジョンまでやってきたわけだ。


「さて、それじゃあ行くかな」


 警戒用に【索敵】を使って入り口を通り新緑のダンジョンに入る。もちろん警備員もサボっているなんてこともなく、しっかり凝視されながら入った。


 さてと、現在は夕方。

 ヒール草を採集するためとはいえ、これから採集するとしたら確実に夜になる。


 というわけで用意したのは、光源確保のためのヘッドライト。


 ダンジョンっていうのは不思議なもので、太陽みたいなもので光源を確保されてるダンジョンは、夜になるのに合わせて太陽のようなものが光らなくなり、暗くなってくる。そうなると、この新緑のダンジョンも完全に日が落ちれば真っ暗になってしまうため、明かりを確保する必要があった。


 だから、ヘッドライトは洞窟型や、迷宮型以外の夜のダンジョンには必須ともいえるものだ。


 ヘッドライト以外で光源を確保したら、だいたい手が塞がったりしてモンスターとの戦闘に支障が出る。


 俺も夜にダンジョンに潜るのははじめてだし、注意しておくに越したことはない。


 上位の探索者はそんな中でも、ライトを使わずに気配だけ感じて、暗闇の中ずっとダンジョンに潜ってモンスターと戦っているっていう噂も聞いたことがあるけど……

 ま、まあさすがに人間を辞めてるなんて言われるほどの人達でもさすがに無理でしょ。


 ……無理だよな?


 少なくとも【索敵】スキルを持ってる俺でも無理だと断言できる。だからこうしてヘッドライトを協会の支部で購入してきたってわけだ。


 まあ、今回は戦闘はしない予定だけど一応な。


「さ~てと。ヒール草ヒール草っと」


 新緑のダンジョンに入ってから、少し歩いて目的の薬草であるヒール草を探し始める。


 俺の目的は、ヒール草。


 前回探した時は、ヒール草が生えてなかった時間帯だったのもあって、一切採れなかった。


 だけど今回は違う。しっかりヒール草が生えてる時間帯に来ているのだ。これで生えてなかったらもうどうしようもない。


 とにかくヒール草の特徴であるハートの形の葉っぱを探すために、【索敵】を使いながら注意深く地面を観察して歩く。


「おっ。これは……」


 しばらく歩いていると、目的であるヒール草を発見した。

 見つけたヒール草は、調べた時に見たのと同じ葉っぱがハートの形をしているので、間違いないはずだ。


「よし。ちゃんと生えてるな」


 俺は早速、目当てのヒール草を見つけることができたことに安堵しながら、ヒール草を根っこごと引き抜いて、根っこについた土を落としてから【アイテムボックス】の中に入れる。


「よしよし、順調順調。この調子でどんどん見つけていくぞ!」


 それから俺は、ヒール草を探すために中腰になりながら茂みを探し、木の陰などをチェックしながら中腰で歩き続けた。


 そして、見つけたヒール草を片っ端から摘み取り、土を落として【アイテムボックス】に入れていく。


「…………ふう。これで三十本目か。それにしても意外と疲れる……というか腰にくるな~」


 集中してヒール草を探してたから、どれぐらい探してたかもわからない。あとはずっと中腰なのもあって腰が痛すぎる。


 こればっかりはヒール草の形が特徴的でも、他の草や茂みの中にあることが多いから、見逃さないようにするために必要なんだけど。


【鑑定】で探そうとしても、草草草草草ァ!って感じで見つけづらいしな。


「ステータスが上がったんだから、こういうところも強くなってくれたっていいのにな」


 そう愚痴りながらも、まだまだヒール草を採集するために、中腰で捜す。


 その後、ヒール草が生えている十八時から二十二時の約四時間。延々とヒール草を採集し続けた。


 その結果集められたヒール草は、百七十三本目。

 これだけあれば、まあまあいい報酬額がもらえるだろ。


「ふぅー今日はこれくらいにして帰るかな」


 正直、他になにかやろうとしても腰が限界だし。


 まあ、ヒール草が今日だけで百七十三本も見つかったのはラッキーだ。


 こんなに集められるんなら、依頼の期限まではまだ時間があるし、またヒール草を採取するのもいいかもな。腰は痛くなるけど。


 そう考えるとレベルは高くなってきてる俺でさえ、四時間中腰になってたら腰が痛くなってるんだ。それなのにレベルが上がっていない中、ずっと中腰で田植えなんかをしていた人を尊敬するよ。俺には絶対できない。

 というかやったら死ぬ。


 そんなことを考えつつ、俺は帰路に着くのだった。

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