実技試験開始
「では……始め!」
職員さんが合図を出すと、男性は訓練用とはいえ、しっかり両手斧を構えてどんな攻撃でも受け止めてやると言わんばかりの構えをする。
そんな男性の様子を見て、俺は少し苦笑いを浮かべてしまう。
まあ、確かに普通ならレベル差を考えて絶対に勝てない。それに俺の戦い方を見なきゃいけないんだから、そうするのも仕方ない。
だけど、今回はありがたいな。
「それじゃあ遠慮なく」
俺は【魔法矢】で透明な矢を作り出し、弓につがえ引き絞る。そして狙いを定めてから射ち出す。
狙いは両手斧。当たれぇ!
「弓なんて珍しいもん使ってんなぁ!」
男性は俺の放った【魔法矢】を避けずに、両手斧で迎撃する。
その迎撃の力強さは、この人が本来の武器を使っていたら俺の【魔法矢】は簡単に打ち砕かれていただろうと感じさせるぐらい力強い。
だけど、今男性が使っている両手斧は訓練用のもので、刃が潰してあるしそこまで頑丈でもないだろ。
そうなると――
「……ほう」
――簡単に砕け散る。
俺の【魔法矢】の威力は龍樹の弓が合わさって、とんでもないことになってるんだ。たかが訓練用の武器が耐えられるはずがない。
だけど、両手斧を砕いたあとも前に進み続けた矢を男性はいとも簡単に躱す。
「なるほどな。弓なんて珍しいもん使ってるなんて思ったらそのユニークスキルを使うためのものだったのか」
「そういうことです」
男性は俺が弓を使った理由を聞いて納得したような表情をした。
「そんだけの威力が出るなら確かに銃なんかよりそっちの方がいいわな。おい、もう一本武器をくれ!」
「はーい。少し待っててくださーい」
男性は職員に呼びかけると、職員が二本目の両手斧を持ってきて男性に手渡す。
「それにしてもいいユニークスキルだな。まあ、今ので攻撃力は十分だってことはわかった。
じゃあ戦闘技術はどうかな!」
――来る!
そう感じたのと同時に男性が二本目の訓練用両手斧を構えると、駆け出してきた。
その近づいてくる速さはかなり速いけど、やっぱりこれも試験のためなのか手加減されてるらしく俺でも対応できるぐらいの速度だ。
それを確認した俺はすぐさま攻撃の軌道を予測して回避する。そして、同時に両手斧に狙いを定めて【魔法矢】で作り出した矢を射ち出す。
「甘い!」
だけど、その矢は男性が両手斧を矢の棒の部分に当てて、巻き込むように回転させて地面に叩きつける。
……マジで?
確かにさっき両手斧を破壊されたのを考えたら、それが有効なんだけど。まさか本当に対処されるとは思わなかった。このまま武器を狙えばいいって思ったんだけど。
それに、攻撃力のステータスが飛距離に関係してるのもあって、飛距離を伸ばすために矢が飛ぶ速度も上がっている。それを叩き落とすなんてな。
……てか見えてんの?透明のはずなんだけど。
「……驚きましたよ。まさかあんな方法で防がれるとは思いませんでした。
それに見えてたんですか?」
「なっはっはっは!これでも探索者として長いんだ。矢の方は年の功ってやつだ!風切り音で判断させてもらったぜ!
それにしても、あの回避した体勢からあんなに正確に武器を狙われるなんて思いもしなかったぞ」
「それはどうも」
褒められて悪い気はしないけど、まだ終わりじゃない。
常に警戒しろ。模擬戦とはいえ相手は強いんだから気を抜くな。
それに、矢の透明という絶対的な優位さもなくなったんだ……きついなぁ。
とりあえずまた武器を狙ってみるか。
さっき、一本だと簡単に対処されたから、今度は【魔法矢】で作り出した矢を二本同時に弓につがえて射ち出す――
「まだまだぁ!」
――前に近づかれて、二本の矢を射とうとした時にはもう目の前にいた。
うそぉ!?
俺はすぐに矢を射ち出すのをキャンセルして、疾走の短剣を逆手に持って腰から引き抜く。そして、そのまま男性の振り下ろしてきた両手斧を受け止める。
「ぐぅ……!」
重い……! 俺は歯を食いしばってなんとか堪える。
「ほれ!」
「くっ……」
男性は受け止めている両手斧を少し押し込んで、俺を弾いて後ろに下がらせると、追撃を仕掛けてきた。
俺はそれを防ぐために、再び走り出し男性の攻撃を予測して回避していく。
いやこれ【予測】スキルと【回避】スキルを取っておいてよかったな。この二つがなかったら避けられるかわからなかったぞ。
「こりゃ中々やるな!俺の攻撃を全て避けきるなんて大したものだ!」
「ありがとうございます……!」
俺はお礼を言いながらも、攻撃を避けていく。
だけど、このままじゃジリ貧になるだけだ……なんとか反撃をしようにも隙がない。それに、攻撃の動作の前段階を潰されてうまく反撃ができないんだよな。
「そら!」
「っく……!」
男性は両手斧を振り上げ、勢いよく振り下ろす。
それを俺はギリギリのところで横に跳んで避けると、両手斧が地面に当たって大きな音を立てる。
まずい、動きが早くなってきた。手加減をされているとはいえ、だんだんその手加減もなくなってきてるし。
「そらそらそらそら!」
「っぐ……」
男性は両手斧を連続で振り回してくる。
それをよく見て、一つ一つの動きを見極めながら回避していく。
どうする?弓は矢を射ち出す前に近づかれるし、疾走の短剣は単純に力負けして切断までいけない。
【魔光矢】も考えたけど、威力が高いし、攻撃範囲も広いからこの人に向けては射てないな。
そうとなったら……
「シッ!」
両手の指の間に【魔法矢】で作った矢を八本作り出して、男性の両手斧に向かって放つ。
「なっ!?」
これは流石に予想外だったのか、男性は目を大きく見開いて驚く。だけど、男性は流れるように棒の部分を両手斧で巻き込むようにして、矢を地面に叩きつけていった。
それを見たのと同時にまた八本の矢を作り出して、同じように投げつける。
意外に【捕捉】スキルがなくても当たる。【捕捉】スキルを手に入れる前に器用のステータスにもBPを振ってた影響かな?
さて……いつまで持つかな……? 俺は次々と矢を生み出しては、男性に投げつける。
「ちょ、ちょっと待て!いつまでこれを続けるんだよ!」
男性は両手斧で矢を叩き落としながら、俺に問いかけてくる。
う~ん……そろそろかな。
「あ、すみません。これで終わりです」
「は?」
そして、そんなことを言いながらまた、八本の矢を投げつける。
男性は同じように対処しようとするが――
「なに!?」
――七本目の矢を地面に叩きつけた瞬間、両手斧は砕け散った。
フフフフフ。狙い通り。
いくら棒の部分を巻き込んで回転させたとしても、矢を地面に叩きつけてるんだ。矢の強度は威力と同等。
かなり高耐久だし、両手斧で地面に叩きつけてたとしても、両手斧には地味にダメージが蓄積していたはずだ。
そして、それが今結果として出てるわけだ。
さて、俺が投げつけた矢は八本。対して男性が両手斧が壊れる前に対応できた矢は七本。
あと一本はというと……
「ぐぼぁぁぁぁああ!!!」
はい。男性に直撃します。
【魔法矢】で作り出した矢が直撃した男性は、そのまま叫び声を上げながら壁に向かって吹き飛んでいく。
そして、壁にぶつかって瓦礫が作り上げられると、その瓦礫に埋もれてしまった。
これまで【魔法矢】で作り出した矢が男性に当たると、どうなるかわからなかったから、ずっと武器を狙ってたけど……まあ、あんなパワーファイターのような感じだったのに、俺より速かったからそれだけレベルが高いってことだし、防御力も大丈夫でしょ。
……大丈夫だよな?
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