決着

 さて、考えろ。

 どうしたらあいつを殺れる。


 さっきの攻撃は当たらなかったからいいが、次からは当てるために触手の攻撃を掻い潜らないといけない。

 だからといって、あの触手の数を掻い潜りながら攻撃を当てるのは至難の技だ。


 今は遠距離から龍樹の弓での戦闘だから避けられてるけど、近距離になったら間違いなく捕まる。

 だけど、遠距離でも俺の最高威力の【魔光矢】でも仕留めきれなかったんだ。

 一体どんな殺し方をすれば死ぬというのだろうか。


 考えろ。考えろ考えろ考えろ考えろ考え……










 フッ。ヤバい、こんな状況だって言うのに……ああ……そうだ。今、俺は未知を探索している。


 今まで、俺は弱かった。そして、強くなった今でも、未知の相手と戦うことはなかった。

 それに、戦闘スタイルの確立した今も、ダンジョンのモンスターやボスの攻略法を調べてから入る。そんな探索者生活だった。


 だが、今回は違う。

 このボスは強い。強敵だ。未知の塊だ。


 それこそ自分で死ぬ気で攻略法を考えなければそのうち殺されるほどに。

 そんな相手に俺は挑んでいる。


 ああ。初心にかえろう。

 はじめの頃のように自分がどうやって安全に、効率的に倒せるか考えて考え抜く。それと同じだ。


 トライアンドエラー?上等。


「さあ、やろうか。ボス」


 俺はできるだけ攻撃しないようにして、攻撃を避けながらボスの動きを観察する。


 どうもあいつは再生するとパワーアップするみたいだし、まずはそれは気をつける。


 だけど、俺の最高威力の【魔光矢】一撃でも死ななかった。


 そうなると、どこまで再生するかなんだけど……これはそこまででもないはずだ。

 さっき吹き飛ばした肉片に吸収されてない大きさのが残っていたから、そこまで小さくできれば少なくとも吹き飛ばしたあとにまた合体なんてこともないはず。

 そうとなると……問題はあの触手だよな。


 あれは厄介すぎる。

 スピードも速いし、パワーもある。それにあの触手は俺を捕まえることもできるようだから、触手に近づかれたらアウトだ。


 それに、触手のパワーを考えたら四本の腕のパワーは想像できる。だけどもし、他にもあったとしたら? それに、溶解液みたいなものを使ってくる可能性もある。


 そうとなるとやっぱり遠距離戦闘しかないな。

 そんなことを考えていると、避け続けている俺に痺れを切らしたのか、突然四本の腕を地面に叩きつけた。


「グォ……オ!」


 そして、そのまま割った破片を触手で掴み、こちらに投げつけてきた。


「……」


 冷静に見極め、これまでの。最初の頃の経験を呼び起こして避ける。避ける。避け続ける。

 避けきれないものは疾走の短剣で斬り落とす。とにかく避けながらあいつの行動を観察を続ける。


 そして、同時に考え続ける。

 さっきまでの攻撃、それに加えて今の行動。


 これだけ見たら、遠近どちらも対応可能って感じだけど、実際はそうじゃない。


 確かに、触手は厄介だけど、それはあくまで物理攻撃だけだ。

 少なくとも俺の【魔法矢】による攻撃はどれも対応ができてはいなかった。


 そして、今もこうして避け続けていられるから確実に遠距離の勝負は俺の方が上手だ。

 これまでのことをまとめると、俺に出来るのはーー


「魔光矢!!!」


 ーーこれしかないよな?


 さっきと同じように巨大な矢を放って、あの巨体を貫き衝撃波でバラバラにする。そして、吹き飛んだ肉片が集まろうと動き出す。

 だけどそれはさっきので学習済みだ!


「複数捕捉!魔法矢!!!」


 飛び散った肉片の全てに【複数捕捉】を使って、【魔法矢】で作った矢を八本ずつぶん投げる。


 疾走の短剣で粉々にしてもよかったけど、その間に近くにあった肉片が合体して再生されると面倒なので、これで終わらせることにした。


 そんなわけで、弓でも手数が足りないので魔法矢を両手に持って、合計八本の魔法矢を同時に放ち、肉片を全てさらに細かく砕く。

 そして、肉片をさらに砕いて、再生しないことを確認したあと、同じようにまた別の肉片に八本同時に投げつける。


「オラオラオラオラオラオラッ!!!」


 投げて投げて投げて投げて投げる。

 MPのあるかぎり肉片に向かって矢を作っては投擲していく。


 次々と飛んでいく【魔法矢】はまるで流星群のように透明な矢が空間を埋め尽くし、その全てがボスの肉片に突き刺さっていく。


 ボスがどれだけ再生しようとしようとも、再生する前にその数だけ矢が身体を貫いていく。

 その光景はまさに圧巻の一言だった。


 そして、気づいた時には、いつの間にかボスの体は多賀谷もろとも原型をとどめていないほどに粉々になっていた。


 だけど、それでも終わりではないらしい。


 俺が【魔法矢】を投げる前の肉塊が徐々に小さな塊になって再生して、俺に飛んできた。

 触手も口も腕も足もない。本当に最後の足掻きだろう。


「でも悪いな。俺の勝ちだ」


 飛んできた肉塊を疾走の短剣で切り分け、再び【複数捕捉】を発動させて今度は全ての肉片に【魔法矢】を投げつける。


「トドメだ」


 そして、俺は【魔法矢】を全力で肉片に投げつける。必中効果のある【魔法矢】から逃げられるわけもない。


 もうボスには反撃の手段もなく、ただひたすらに一方的に攻撃するだけだ。


 そして、再生もせず、動かなくなったボスを見つめながら俺はその場に佇み続けるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る