化け物

「グゥ……ギャァァァアアア!!!」


 俺を見つけたそいつは、雄叫びのような奇声をあげて、さっき俺をこのボス部屋に引きずり込んだ触手を鞭のようにしならせて攻撃してきた。


「危ねっ!」


 咄嵯に避けることが出来たけど、避けきれなかったら確実に大ダメージだっただろう。今の一撃で、このボス部屋の壁の一部が粉々に砕け散ったのを見てもそれはわかる。


「こいつはヤバいな……」


 いくらなんでも強すぎるだろ……

【鑑定】してもレベル、名前、HPにMP、ステータス。何一つわからない。


「そして……」


 扉に向かって逃げようとしたら、さっきの触手を複数伸ばしてきて、殴るようにして攻撃をしてくる。そして、それを避けると扉に直撃して扉をさらにへこませた。


 あ~なるほどね。扉がベッコベコなのはそれが原因か。


「これは本格的にやばいな……」


 このままだとどうしようもない。

 俺に出来ることは、走って逃げるか戦うかのどちらか。

 まあ、走って逃げたら触手が邪魔してくるから戦うしかないんだけどさ。


「……仕方ない。細かいことは戦いながら探るか……な!」


 まずはスピード。


 さっきの触手はかなりの速度だったが、俺もそれを前提に動いていく。


 まずは、触手を避けながらボス部屋の真ん中にいるそいつに接近してみる。すると、そいつも近づいてくるのが嫌なのか、触手の振り回す速度が上がってきた。


「クッ……!」


 なんとか避けたり短剣で弾いたりして近づく。

 すると、今度は口から液体のようなものを吐き出し、それが俺の体を掠める。


「ッ!溶解液か!」


 掠めたところが、火傷をしたようにヒリヒリするし、床が煙を上げて溶けてる。


 あんなもん喰らったらひとたまりもないだろう。


「なら!」


 俺は、走りながら疾走の短剣を投擲して、ボスの頭に突き刺す。

 そして、止まった隙をついてそのままボスの横を走り抜けながら、疾走の短剣を回収する。


「これで終わりだろ」


 疾走の短剣は、ボスの頭に突き刺さった。だいたいのモンスターはこれで終わるはずだ。


 だが、普通ならここで終わるはずなのに、突き刺した傷が瞬く間に塞がっていき、逆に俺の腕に触手が巻き付いてきて捕まってしまった。


「なっ!?」


 そして、ボスはそのまま俺を壁に叩きつけるようにして投げ飛ばした。

 それを空中で回転して受け身を取り、すぐに体勢を立て直す。


「本当になんなんだあの化け物……」


 だけど、スピードを確認するだけだったのに、異常な再生力に、溶解液、俺を投げたパワー。その三つも確認できた。


 とりあえずわかったのは近接戦闘は絶対に駄目ってことだな。


 遠距離で戦うとあの触手が厄介なのと、あの巨体なら俺のスピードにはついてこれないと思って近づいたんだけどちょっとこれは見通しが甘かったな。


 近接ダメ絶対。


 だけどそうとわかったら……


「遠距離から攻めるだけだ!」


 疾走の短剣を鞘にしまい、【アイテムボックス】から龍樹の弓を取り出して【魔法矢】で作った矢を射ち出す。

 射ち出した矢は、真っ直ぐに飛んでいって着弾してそのたっぷりとついた肉を抉り取る。


 だけど、それでもまだ動き続けるそいつは、さすがに鬱陶しいのか腕を振り回したり、触手を伸ばしてきたりと、めちゃくちゃな攻撃を仕掛けてくる。


「そんな攻撃当たるわけないけどな」


 俺は余裕を持ってそれを避けて、また矢を放つ。

 そして、同じように肉を抉り取るけど、最初に抉った部分がもう再生してる。


「これは骨が折れそうだな……」


 とりあえずこのまま戦えば負けることはなさそうだけど、勝てもしなそうだ。

 まあ……


「これを使わなかったらの話だけどな。貫け!魔光矢!!!」


 次の瞬間、【魔法矢】とは比べ物にならない大きさの矢が放たれ、ボスの巨体を貫き、ボスを貫通して衝撃波でその巨体をバラバラに吹き飛ばす。


 ……多賀谷の確保は出来なかったけど……そこは許してほしいな。


 だけどまだ戦いは終わらせてくれないらしい。


「……へ?」


 さっき吹き飛ばしたはずのボスの体が徐々に集まっていき、一つの塊となって再生していく。


「嘘……だろ……?」


 しかもそれだけじゃなく、今度は触手の数が増えていて、肉の量もどこか増えてるような気がする。


「マジかよ……」


【魔光矢】でも倒しきれない?


 そして、俺が思考を巡らせているのを察したかのように触手を複数同時に鞭のようにしならせて攻撃してきた。


 その攻撃はさっきよりもスピードが速く、避けるのもギリギリになってしまう。


「クソッ!」


 必死に避けながら考える。


「こいつはどうすれば倒せるんだよ……!」


 だが、この状況を打破するような考えはすぐには思いつくことは出来ず、ただひたすらに攻撃を避けながら打開策を考えることしかできなかった。

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