異形

 本当になんなんだろうね?この時間……


 あれから一時間。

 さらに探索者の援軍が来たりもしたけど、今ではみんな一緒に鼻を摘まんでオークが匂いに殺られる光景を見る仲だったりする。


「凄いね~あの人~」


 凛達三人とそんな会話をしながら、今も一人で無双を続ける男性を見つめる。

 あの人はいつまでポーズを取り続けるのだろうか?


 サイドチェストをはじめ――


「はーい!」


 ――サイドトライセップス。


「やー!」


 ――フロントラットスプレッド。


「ふぅ……」


 ――バックラットスプレット。


「……うん」


 ――アブドミナル&サイ。


「ほいさっ!」


 ――ヒンズースクワット。


 と次々とポーズを決めて匂いを撒き散らしていく。

 正直こんな状況だけど、見ていて飽きないし、端から見たら結構面白い。


 だけど、最初はキレてるよー!と言ったような声を鼻を摘まみながらあげてる人もいたけど、途中で息を吸ってむせたように咳をしたら、意識を飛ばしてしまった。


 そこからは誰も鼻から手を外すことなく見ている状態になっていしまい、匂いが多少ましなところに移動して、やっと鼻を摘ままなくなった所だ。


「ねぇ、天宮さん、あれって大丈夫なの?」


「ん?なにが?」


「いや……だって、もう私達結構慣れてきたけど、かなりきついと思うんだよ」


 確かに。


 凛の言う通り、はじめて見たらかなり衝撃的な絵面だし、女性陣なんかはそろそろ限界に近い人もいるかもしれない。


 そして、今男性は鼻を手で塞ぐようにして近づいてきたオークをそのナイスなバルクで締め落として強制的に息を嗅がせて殺してる。


 ……うん、これはきつくても仕方ない気がする。

 というか女性陣どころか俺もきつい。


 というか、本当にあの男性は一体どれだけ匂いを振りまくれば気が済むんだろう?

 途中、【アイテムボックス】から香水を追加で取り出してたし、匂いが途切れることはなさそうだ。


「あ、また来た」


 そして今現れたオークで43wave目。


 すでに300体近くあのひとだけで倒しているのではないだろうか?

 流石にここまでくると疲れてくる頃だと思うけど……


「まだまだ……僕の香りは無くならないよ!」


 そう言いながら、またポージングを始める男性。


 ……うん。やっぱり凄いわこの人。


「凄いですね……」


「本当に凄いと思うよ。ずっと一人で戦ってる?うん。戦ってるんだから。……だけどおかしいな?」


「どうしたの?」


 俺が引っかかって呟いたのを聞いて不思議そうな顔してこっちを見てくる。


「いや、ボス討伐と多賀谷の確保に行ったはずのパーティーが帰って来ないなって思ってさ」


 そう。あれから一時間。


 この巌窟のダンジョンの階層はボス部屋含めて五階層。


 あのボス部屋に向かったパーティーがダンジョンに入ってから、しばらく出てくるオークの数が減ってたことと、出てくる数が元通りになったことを考えるとボス部屋にも到達してるはず。


 なのに、いまだに帰ってくる気配がないし魔物暴走も止まる気配がない。


「確かに……ちょっと遅いよね……」


「う~ん。それならまだいいんだけどさ……」


 駄目だ。考え出したらどんどん不安になって来る。


「よし!」


 俺は一度気が抜けた状態から、気を入れ直してから立ち上がる。


「俺はちょっとボスのところに行ってくるよ」


「え!?危ないよ!?」


「うん。危険」


「そ、そうですよ!」


「いや、なにかあっても遅いからな。それに、今ならあの人がいるからな」


 そう、今もオーク相手に無双してる最終兵器がいるから今ならここは安全のはずだ。


「じゃあ、行ってくるわ!もしダメだったらすぐ戻ってくるから安心してくれ!」


「ちょっ、待ってください!」


「すまん!」


 止めようとしてきてくれた凛に謝りながら、走ってダンジョンに入って、ボス部屋に向かう。

 尚その時は、あの激臭を吸わないために、鼻を摘まんでいたものとする。





 ボス部屋までオークは疾走の短剣で切り刻みながら走り抜けていくと、すぐに扉が見えてきた。


 そして、確認すると扉は開いている……


 と言うよりベッコベコに壊されている。


「おいおい……マジか?」


 ボスが倒されたのか?


 でも、それにしては扉がベッコベコになってるのはおかしいし、ここに来るまで先にダンジョンの中に入った人達もいなかった。


「どういうことだ……?まさか全滅したのか?」


 そうだとしたらまずいことになる。


 先に入っていったパーティーは、メンバー全員がCランクのモンスターを倒せるぐらいの力があった。

 そのパーティーが全滅しているとしたらここのボス、または多賀谷の力が少なくともCランクオーバー……


「ここはいったん引くべきーーうおっ!?」


 そんなことを考えていたら、いきなり腕を触手なようなものに捕まれてボス部屋の中に引きずり込まれた。


「くっ!なんだこれ!?」


 俺の腕を掴んだものを見ると、それはグロテスクな肉の塊のような触手だった。


「ッ!」


 それを確認した瞬間、すぐに疾走の短剣でそれを切断する。


「ふぅ……なんなんだよ……」


 しかし、一体どこからこんなものが……?


 警戒しながら周りを見てみると、そこには大量の血溜まりができていて、その中に倒れている人達がいた。


「嘘だろ?」


 これは……死んでいる。


 しかもオークの血とかじゃなくて、人。


 中には形を残していない肉塊になっている人もいて、残っている装備でその肉塊が人だとわかったぐらいだ。

 かろうじて人の形を残している人もいるけど、見る限り全員が死んでる。


「マジかよ……!」


 そして、その先にそいつはいた。


 そいつはハイオークのような面影を残しているが、そいつは醜悪に変形していて、ハイオークの牙が長くなった頭。四本に増えているぶよぶよの腕。さらに巨体になった体を支えるために足も四本になっていて、何本も俺を引きずり込んだ時に使ったと思う触手が何本も体から生えていた。

 そして、その巨体に埋もれるように埋め込まれているのは……


「多賀谷なのか……?」


 そう。多賀谷だ。

 ただ、その姿は腕は埋め込まれていて、上半身だけしか見えてはいないが、黒く変色しており、目は赤く染まって光っている。

 まったく見たことないモンスターだけど、これだけはわかってしまう。




 こいつは人でも普通のモンスターでもないことが。

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