リーシェとの一日
「一昨日ぶりですね!お兄さん!」
今俺の目の前にいるのはリーシェ。
またどこかで会うだろとは思ってたけどこんなすぐとは完全に予想外だった。
「一昨日ぶりだなリーシェ。でもなんでここに?」
「なんでって……わたしがここにいるのがそんなにおかしいんですか?」
「いや、そういう訳じゃないんだけど……今日、動画投稿してたよな?ちゃんと寝てるのか?」
だって一昨日イビルトレントと戦って疲れきってたのに、動画の編集までして、今日動画を投稿している。
正直動画のクオリティはとんでもなく高くてとてもじゃないけど一日や二日ぐらいじゃ出来る気のしないような出来だった。
なのに俺の前にいるリーシェには隈は見えないし、寝不足のような感じにも見えない。
多分徹夜とかしてない……はずだ。
「ああそういうことですか。安心してください、動画の編集はわたしがやってるんじゃないので」
「ん、そうなの?」
「はい。わたしは企業所属ですからね。動画の編集をしてくれる人は企業が雇ってくれてますし、しっかり休めてますよ。編集の人もスキル持ちで優秀な人ですしね」
「へぇ~そうなんだ企業に……うん?」
……企業所属?
「え?リーシェって企業所属だったのか?」
「あれ?言ってませんでしたっけ?」
リーシェは企業に入っていたのか……
そうとなるとすごいな。
基本的にギルドや企業所属の探索者っていうのは試験を突破した人やスカウトされた人だ。
だけど、試験は基本的に探索者になってから時間が経ってるレベルが高い人が基本的に合格する。
リーシェには悪いけど、昨日見たレベルだとその試験には合格出きるとは思えない。
つまりリーシェは企業にスカウトされたんだろう。
スカウトっていうのは、結構珍しいことだ。
スカウトっていうのは基本的に有名になった探索者、またはその企業がほしいと思えた才能を持っている人がされるものだ。
リーシェにも企業がほしいと思われるような、なにかがあったんだろう。
「ああ。今初めて知ったぞ」
「む~……わたしの動画見てないんですか?わたしの動画の紹介文にはちゃんと書いておいてありますよ?」
リーシェはジト目で言ってくる。
……これはまずい。正直にいいすぎたか。
「い、いや悪い。動画なんて普段は行こうと思ったダンジョンぐらいしか見ないもんだからな」
「ふ~ん。まあ、いいですけど。それじゃあ改めて自己紹介しますね。私は『アストラル』という企業に所属している探索者のリーシェっていいます♪
あ、本名は
「ああ。よろしくな結愛、俺は天宮楓。好きに呼んでくれ」
とりあえず、自己紹介されたからこっちも返す。
それにしても、本名が知れたのも嬉しいけど所属企業がアストラルか。
アストラルは最近有名なところのはずだ。
いろんな人材を集めていて、ダンジョン関連の事業だけでなく、そのダンジョンでの活動やデータを活用して、様々なサービスを展開している会社のはず。
ちゃんと覚えてはないけど、確か少し前にも、ポーションを使った病気の治療なんかに大きな進展をみせていたと思う。
まさか、そんなアストラルに結愛が所属してるなんてな……正直驚きだ。
「わかりました。それじゃあ楓さんと呼ばせていただきますね」
「ああ。ぜひそうしてくれ」
俺が名前で呼ぶのに、リーシェ……いや、結愛だけ苗字呼びなのはなんか堅苦しいし、俺が馴れ馴れしいやつみたいになるし名前で呼んでくれるのはとてもありがたい。
「それより!楓さん!今その手に持っているのはそこのクレーンゲームの景品ですよね!」
結愛はクレーンゲームを指差しながら声を上げる。
まあ、確かにこの白熊のぬいぐるみはさっきクレーンゲームで取ったけど……
「ああそうだな。それがどうした?」
「ってことはクレーンゲームは得意なんですよね?」
「一応できる方ではあると思うけど……」
得意ってレベルではないけど、それでも取れないというわけでもないから普通くらいだと思う。
まあ、一回や二回で取れるってほど上手くはないと思うけど。
「なら、お願いがあるんですけど聞いてもらってもいいですか?」
「お願いって……予想はつくけど一応聞いておこう。一体何をすればいいんだ?」
大体予想はついてるんだけど、確認のために一応聞く。
すると、結愛は答えてくれた。
俺が予想していた通りの言葉を。
「楓さん、クレーンゲームであの子を取ってくれませんか?」
結愛が指差した方は、さっきまで結愛が張りついていたクレーンゲーム。
クレーンゲームの景品は、ペンギンがデフォルメされた姿のぬいぐるみ。
ただし、サイズがデカイタイプのぬいぐるみだ。
「あれか……俺に取れるかな?ちなみに結愛はいくら使ってるんだ?」
「黙秘します!」
「……いや、そんな胸を張っていうことじゃないんだけどな。でも、まあいいか。よしわかった。やってみるよ」
「ありがとうございます。楓さん、よろしくお願いします」
おそらくかなりの金額を使っている結愛が差し出してきた五百円をもらい、クレーンゲームにそのまま入れる。
ぬいぐるみは、結愛がここまで頑張ったのか出口の近くにまでは近づいてきていた。
そんなぬいぐるみを狙って、さっきと同じようにアームを動かしてぬいぐるみを掴ませる。
掴めたらそのまま持ち上げて出口へ持っていくけど、途中で落下する。
だけど、ペンギンの楕円状のぬいぐるみなのが功を奏してバウンドして出口に……
……あれ?取れる?
「おお!取れましたね!」
「……あ、ああ。まさかこんな簡単にいけるとは思ってなかったけど運がよかったな」
正直もうちょっと苦戦すると思ってた。
「だけどさ……これ残りの四百円どうするの?」
「……どうするんでしょうね」
本当にどうするんでしょうね?
***
結局、どっちもわからしいから、その台にもう一つあったぬいぐるみに残りの四百円分使いきった。
結果はもう一つのぬいぐるみは取れなかったけど……まあ、一つ取れただけでも充分だろう。
実際、結愛は正面で嬉しそうにペンギンのぬいぐるみを抱きながら座っているし。
「ふぅ~……今日は楽しかったですね♪」
「そうだな。俺も久しぶりにゲーセン来たし、楽しんでるよ」
「わたしも最近は動画の撮影ばっかりだったんで、久しぶりでとても楽しかったです」
今俺たちがいるのは、ショッピングモールにあるフードコート。
時間的にはまだギリギリ昼前なのもあって、そこまで人は多くない。
今は二人でクレープを食べている最中。
ちなみに俺はチョコバナナ。結愛はストロベリーだ。
「ん~美味しい~」
結愛は頬に手を当てて幸せそうな顔をしている。
……なんだかその姿を見ているとこっちまで幸せな気分になってくるなぁ。
「うん?どうしました?私の顔に何か付いてますか?」
「いや、なんでもない」
少し見惚れてしまったけど、誤魔化すために視線を外す。
結愛は不思議そうにしているけど、気にしないでとだけ言っておく。
「それでこれからどうします?まだお昼には早いですよね」
時計を見ると、時刻は十一時五十分頃。
確かに、今クレープを食べてるのもあって、今からどこかに食べに行くには微妙なところだ。
お腹的にも、時間的にもな。
「うーんどうするか……」
「じゃあ楓さん、午後はわたしに付き合ってくれないですか?」
「別に構わないぞ。俺も特に予定ないしな」
「やった♪それじゃあ行きましょう♪」
結愛は残っていたクレープを口に入れると、椅子から立ち上がって歩き出す。
おっと、先に会計をしてと。
「あ、楓さん。お金払いますよ?」
「いやいいよ。ここは男の甲斐性ってやつをみせる場面だからな」
「えっと……わかりました。ごちになります」
「おう。任せろ」
ちなみにお値段は合わせて二千円だった。
まあ、このくらいなら全然大丈夫だけど。
「それでどこ行くんだ?」
「それは着いてからのお楽しみということで」
そして、フードコートどころかショッピングモールから移動して到着したのは探索者協会。
「って、おい!なんでここなんだよ!?」
「ふふふふふ、いいじゃないですか。ほら早く入りますよ」
「ちょっ!」
結愛は俺の腕を引いて中へと入っていく。
俺は半ば引きずられるように、つい先日、俺が疾走の短剣を買った武器の販売エリアまで連れていかれた。
「……それで?なんでここに?」
「いや~実はマネージャーの人に「新しい杖?よかったじゃーん。じゃあ、これからは近づかれても大丈夫なようにしようね?」っていわれまして……」
「それで武器を買いに来たと……」
なるほどな……
つまり、結愛は俺と同じように経緯は違えど、近接戦闘ができるように武器が必要になったからここに来たのか。
「……え?本当になんで俺も連れてこられたんだ?」
「えへへ。実はわたしはそこまで攻撃力のステータスが高くないんで楓さんと同じ短剣を使おうと思ったので」
「俺にアドバイスをしてほしかったと?」
「はい!その通りです!」
ぐぬぅ……そんなキラキラとした目で見られても……まあ、仕方がないか。
結愛の頼みだし、ちゃんと考えてあげるか。
……といっても、俺もそこまで詳しく知ってるわけでもないんだけどな。
短剣とかの刀剣類は疾走の短剣が初めてだし、今までの教えてきた経験と【鑑定】を使ってアドバイスするしかないか。
「わかった。とりあえず短剣を探して、そしてそれから考えよう」
「はい、お願いしますね♪」
さて、どれがいいんだろうか……
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