新米探索者パーティー

「いや~楓さん、わざわざありがとうございます」


 結愛は買ったばかりの鞘に入った新品の短剣を眺めながら嬉しそうにしている。


 結局、結愛には俺が性能が良さそうと思った無難な短剣を薦めていき、それを試していって最終的に選んだのは、変に効果のないごく普通の短剣だった。


 だけど、それでも結愛は嬉しそうにしてるし、まあいいか。


「喜んでくれているようで何よりだよ」


「はい♪これも楓さんのおかげですよ」


 そういって結愛はまた笑みを浮かべた。

 今回の武器選びは成功と言ってもいいだろう。


 それにしても、結愛とこうして二人で探索者協会とはいえ、一緒に買い物をするなんて思ってもなかったな。

 ……でもまあ悪くはない。


「え~あたし達だって行けますよ!」


 そんな感じでゆったりしていると、突然、大きな怒鳴るような声が聞こえてきた。


 声が聞こえてきたのは、俺と結愛がいる場所から少し離れた場所。

 というか聞こえてきたのは買い取りなんかをしている受付の方だった。


「え~と、なんでしょう?」


「多分、買取の順番待ちの人じゃないか?」


「いや、そんな風には聞こえなかったんですけど……」


 どうやら結愛にはそのようには聞こえていないらしい。


 ですよね。

 まあ、俺もそうなんだけど。


 実際さっきの声は買い取りなんかじゃなくて探索者がなにかに文句を言ってたように聞こえた。


 今の時間帯、探索者はダンジョンに潜ってることが多いから人は少ないだろうけど、よくここまで声が聞こえてきたな。



「どうしたんでしょうね?」


「さぁ……?」


 結愛と顔を見合わせて首を傾げる。


「楓さん、ちょっと見に行ってきますね」


「あ、おい」


 結愛はそれだけ言うと、小走りで受付に向かっていった。


 うーん……俺も気になるから結愛についていくことにするかな。


 俺も結愛のあとを追って、受付へと向かうことにする。

 すると、そこには女の子が三人と受付の男性が一人いた。


 一人はツインテールにした赤髪の小柄な少女。


 もう一人はウェーブのかかった金髪の少女。


 最後の一人は茶髪をポニーテールのようにしている大人びた雰囲気のある少女。


 そして、受付の男性は監視者問題の時に探索者協会から来ていた男性だった。


「いいじゃないですか~あたし達だってFランクダンジョンのボスを倒したんですよ?Eランクダンジョンだって行けるはずです!」


「う~ん……それはわかるんですけど……それにダンジョンに潜るのは探索者の自己責任なので問題ないんですけど……」


「凛ちゃん、受付の人もわたし達を心配してるんだからさ?もう少し言い方を考えないと」


「凛、落ち着いて。探索者協会の探索者さん達がみんな出払ってるなら仕方ないでしょ?」


 なんか揉めてんのか?と思ったけどあれは違うっぽいな。


「えっと……あれなんですかね?」


 隣にいる結愛も同じことを思ったのか、俺に聞いてくる。


 あの会話の内容を聞く限りだと、Fランクダンジョンのボスを倒した、Eランクダンジョン、探索者協会の探索者がいない、という単語が聞こえてきた。

 そこから考えるに--


「多分、Fランクダンジョンのボスを倒せたから、次はEランクダンジョンに行こうって話なんじゃない?」


「なるほど……」


 Fランクダンジョンのボスを倒したら、次にEランクダンジョンに行く。これは別におかしなことではない。


 実際、俺もパーティーに入ってた時は、Fランクダンジョンを攻略したらEランクダンジョンに潜り始めた。


 ただ、それははじめの数回は探索者協会から派遣された探索者と一緒に行ってからだ。


 理由としてはFランクダンジョンで馴れてきた初心者探索者が油断して、Eランクダンジョンで死亡してしまうのを防ぐため。

 だからこそ、新米探索者は探索者協会から派遣されたベテラン探索者に同行してもらうことができる制度を使うことができる。


 あの子達はその制度を使おうと考えていたのだろうが、その制度の対象の探索者協会の探索者が全員出払っていて、その提案が通らなかったんだろう。


 他にも、以前の俺みたいに、初心者のパーティーに入るなどして、ダンジョンについて教えていたのがそれにあたる。


「う~ん。ですが……あっ!」


 赤髪の凛と呼ばれていた子に詰め寄られていた受付の男性がこっちに気づいた。


 というか俺の方に狙いを定めたような目を向けてきている。


「す、すいません。少々お待ちください」


 すると、受付の男性は少女達に断りをいれて、俺達の方へと向かってきた。

 そして、俺の前で立ち止まると深々と頭を下げて謝ってくる。


「天宮さん、先日はお世話になりました。そして、彼女様もデートの邪魔をしてしまい大変申し訳ございません」


「か、彼女!?それにデート!?」


 受付の男性の言葉を聞いて結愛が顔を真っ赤にして、慌てふためいている。


 うん、まあそうだよね。俺と付き合ってるなんて思われたらそれは大変だ。

 企業に所属してる探索者なんだから恋愛にも色々あるだろ。


 ここは否定しとかないと、結愛にも悪い。


「あー……いえ、気にしないで下さい。あとこの子は彼女じゃないんで」


「そ、そうでしたか。これは失礼しました」


「い、いえ。き、気にしないでください!」


 結愛は未だにあわあわとしているけど、受付の男性は納得してくれたみたいですぐに引き下がってくれた。


 まあ、とりあえずこれで大丈夫だろ。


「え~っと……それで?なにかあったんですか?」


「あ、はい。実は……ちょっと困ったことがありまして……」


 そして、受付の男性は今の状況について説明し始めた。


 なんでも、ここ最近、新人探索者によるFランクダンジョンのボス攻略が増えていて、ベテラン探索者を派遣してもらう制度を使う新米探索者が多くて派遣する探索者が足りなくて、その結果、あの子達はEランクダンジョンに挑むことができなくなっているらしい。


「はぁ……それで俺に?」


「はい。申し訳ないのですが、Eランクダンジョンに挑む彼女達についていってはもらえないでしょうか?案内人と呼ばれていた天宮さんなら安心できるのですが……もちろん、報酬の方も用意させていただきます」


 ……案内人って呼ばれたことが気になるというか少しイラッとしてしまったけど、要約したら俺に彼女達のサポートをしてもらいたいってことね。


 まあ、断る理由はない。


 報酬もくれるっていうから別にいいけど、レベルアップがその間できないっていうのが問題か。

 だけど、これまでの経験上、わりとすぐに終わるはずだから、そこまで長い期間というわけでもないだろ。


「わかりました。俺でよければ手伝いますよ」


「おお、ありがとうございます!」


「楓さん、わたしは事務所の関係でお手伝いは難しそうですけど、頑張ってくださいね!」


 結愛は少し残念そうな表情を浮かべながら応援してくれる。


「それじゃあわたしはここで帰りますね。だけど、今年はEランクダンジョンに入った探索者の死亡率が少し高いそうなので気を付けてくださいね」


 そして、最後にそれだけ言ってから去っていった。


 去っていく時に、心配そうな目でこちらを見ていたけど、それだけEランクダンジョンの死亡率が高いのか?


「それでは天宮さん、こちらにお願いします」


「了解です」


 ……警戒とちゃんとした準備はしていこう。


 ***


『ああ……うまいこと誘導できたぞ。なんで協会支部にいたかは知らないが、あいつは巌窟のダンジョンにいくといっていたぞ』


「……そうか」


『……やるならうまくやれよ。失敗したら俺まで巻き込まれるんだからな?』


 念を押すようにいってくるが、その心配はない。

 失敗などするはずがない。


 通話を切って、スマホをポケットにしまい込む。


 これで、復讐の準備は整った。

 あとは実行に移すだけ……

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