レベルアップと散策

 朝になり、長い時間電車の中で揺られて再びやってきたのは魔犬のダンジョン。


 魔犬のダンジョンに入る前に、誠三さんの家に行って白いイビルトレント(疾走の短剣による解体の手伝い付き)も渡してきたし、今日はひたすらレベルを上げるぞ!


 途中で出てきたコボルトも【索敵】で先に気づいて倒しながら進んで、魔石を回収できて稼ぎも結構いい感じだ。


「これからもレベルが上がる前までの俺を考えたら売れないようなランクのアイテムばっかりゲットできるようになるだろうし、稼げるうちに稼げるようにしとかなきゃな」


 企業やギルドに所属すれば話は変わってくるんだろうけど、案内人として少し有名になっちゃった俺を拾ってくれるところなんてなそうだしな。

 まあ、拾ってくれたとしても初心者育成のためとかだろう。


「まあ、こうして一人でゆっくりマイペースにやってる方が俺に合ってるから別にいいんだけどな」


 そんなことを言いつつ魔犬のダンジョンを進み、ボス部屋に到着した。


 そして、レベル上げを開始する。




「ハッ!」


「ギャゥン!?」


 時に正面からハイコボルトと戦い、爪や牙と疾走の短剣を打ち合わせる。




「ハイ、ハイ」


 時にボス部屋の外から一方的に【魔法矢】で射ち続けてハイコボルトを倒す。




「シッ!」


「キャンッ!」


 時にボス部屋に入って正面から弓を使って戦う。

 尚、ハイコボルトが泣いていたような気がするけどそんなわけないので無視する。




 そして、本日二十五回目。


「ハイッと」


 ボス部屋の外から弓を射ちハイコボルトを倒す。

 ちなみにハイコボルトは龍樹の弓を使えば三発で倒せるようになってたりする。

 龍樹の弓が強い……


 そして、開いた扉からボス部屋に入ってハイコボルトの死骸を回収した。


「だけど、これでアイテムボックスはいっぱいか……」


 さすがに、魔犬のダンジョンに入る前から入っていたものと何体かのコボルト、そしてハイコボルト二十五体は俺の【アイテムボックス】をいっぱいにするには充分だったらしい。


「一旦素材を売りに帰るか……」


 本日の稼ぎはコボルトの素材込みで約八万。

 意外と誰が売ってもばれないもんだね。何も聞かれず買い取りされたわ。

 そして、レベルは274の上昇となった……エグすぎ……!






 そして、さらに翌日。


 今日は土曜日。

 土曜日と日曜日は副業で探索者をやってる人達や、学生で探索者をやっている初心者探索者がダンジョンに潜るから今日はお休み。

 特に、土曜日は体力のない学生探索者が日曜日を休みにするために来るからめちゃくちゃ人が多い。


「とはいえ何をするか……最近レベルアップが楽しすぎてずっとダンジョンに潜ってたしな」


 俺はスマホを見ながら考える。


 最近はダンジョンに潜ることしか考えてなかったけど、なにか面白そうなことはないかな……うん?


「これはリーシェの動画か?しかもあの時の。もう編集が終わったのか?」


 スマホを使ってなにか面白いことないかな?と思ってたらたまたま見つけたのは少し前にアップされていたリーシェの動画だ。


 しかもタイトルが『激闘!魔樹のダンジョンの突然変異ボスモンスター!』というタイトル。


 魔樹のダンジョン、突然変異ボスモンスター。

 うん。身に覚えしかないタイトルだな。


「……見てみるか。少し気にはなるし」


 再生ボタンを押す。

 すると、画面が切り替わり、俺が戦ったボス部屋での戦いが映し出される。


「うぉっ!これ俺じゃん!」


 思わず声が出てしまった。


 いやだって、俺が戦ってる所をこんな綺麗に撮られてるんだよ?

 恥ずかしいことありゃしない。


 しかもあの時の若干中二感のあるセリフも。

 あ゛~!!!恥ずかしい!


 コメントもチラッとしか見てないけど恥ずかしいから見るのやめよう……


 そして、戦いの最後に俺が一撃で【魔法矢】を使って倒したところもしっかりと映されていた。

 一応、問題の【捕捉】は音声に入ってなかったと確認できたしオッケー。


「……外に出よう。なんか家にいると余計に色々考えちゃいそうだし」


 そうして、俺は外に散歩に出る。


「うん、いい天気だ」


 雲一つ無い青空を見てポツリと言う。


 こういう時、外で何かをするなら絶好のアウトドア日和というやつなんだろうな。


「ま、俺の場合は外に出る理由は特にはないんだけどな」


 家にいても暇なことに変わりは無いし、スマホを弄っていると動画のこともあるし、散歩でもした方がいいだろう。

 というか散歩でもしないと羞恥心で死んでしまいそうになる。主に精神的に。

 さらっとあの動画、急上昇ランキングにのってたし。


「んー、どこ行こうかな」


 とりあえず適当に歩く。


 別に目的地があるわけじゃないから行きたいところがあればそこに行くし、無ければそのまま帰るだけだ。

 ただ歩くだけっていうのも、結構時間が経ってるものだしな。


「……お、懐かしいな」


 しばらく歩いていると、ショッピングモールが見えてきた。

 それは、俺が高校生の頃に元パーティーメンバーと一緒によく遊びに行ったショッピングモールだ。


 尚、パーティー脱退後は一切来ていないものとする。


「よし。久しぶりにゲーセンでも行くか」


 せっかくだし、とゲーセンに入る。

 ゲーセンのエリアに行くと、まだ昼前だからか人は少ない。

 だけど、休みの日なのもあって、クレーンゲームやアーケードゲーム、メダルゲームなんかをやってる子供達が何人か見える。


「あ、ガンシューティング……久しぶりだしやってみるか」


 昔を思い出しながらガンシューティングゲームをしてみることにする。

 百円を入れて銃を構える。


「さてさて……いつもと得物は違うけど……当たるかな?」


 ゲーセンに来るのは久しぶりだし鈍ってなければいいんだけどな。

 そんなことを思いながら、ステージ開始のカウントダウンが始まる。


 そして、カウントがゼロになった瞬間に俺は引き金を引いた。


 ***


「……久しぶりだったけど結構いけるもんだな」


 俺はクリアタイムが画面に表示された画面を見つめつつ呟く。


 レベルが上がってステータスが上がっていたから、動体視力なんかや反射神経は上がってたけど、銃を壊さないように注意もしなきゃだったからまあまあのタイムだった。


「さて、次はどうしようかな」


 一応他にも興味のあるものはいくつかある。


 メダルゲームに音ゲー、格闘ゲーム、レースゲーム、クレーンゲーム。

 さて、どれにするかな。


「クレーンゲームでもするかな」


 特に理由もなく、目についたぬいぐるみを取ることにした。


 そのぬいぐるみはデフォルメされてはいるものの、どこか愛くるしい顔つきをしている白熊の人形である。


「よし、いくか……」


 百円を投入し、ボタンを操作してアームを動かす。

 一回目はアームの左爪を使って出口に近づける。


 さらに百円を投入する。

 二回目は右爪を使って持ち上げる。


 さらに百円(以下略

 三回目は……


「おっ、上手くいったな」


 三回目のチャレンジでうまく持ち上がって、出口まで持っていった。


「よし。うまくいったな」


 これでゲットだぜ!


 そこまでクレーンゲームは得意ではないから一発で取ったりするのは難しいけど、三回で取れた今回は運が良かったな。


「ふぅ……そろそろ帰ろうかな……うん?」


 俺が取っていた白熊のぬいぐるみを持って立ち上がろうとしたときだった。


 少し進んだ先のクレーンゲームに、帽子とサングラスをかけた少女が張り付いている。


 いや、言い方がおかしいんだろうけど、この表現は合ってると思う。

 俺がガンシューティングをやっていた時からずっと同じ場所にいたからな。


「……あの子ずっといるのか?」


 ずっといたとしてもいくらあのクレーンゲームに使ってるんだ?


「まぁ、俺には関係ないか」


 そう思って、立ち上がってその場を離れようとしたその時だった。


「う~……あっ!」


 女の子が声を上げたのが聞こえてきた。


 なんだ?と思い振り返る。


 すると、女の子が俺の方に近づいてくるのがわかった。

 そのまま見続けていると目の前に来てしまったため、すぐに視線を切って歩き出す。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


 すると、すぐに走ってきて俺の肩を掴んできた。


 あ、これダメなやつだ。

 気分はゲームの逃げられないバトル画面って感じ。


 これはもう仕方がないから、ちゃんとなにをされてもすぐに反撃できるように警戒しながら覚悟を決めてきて相手を見る。


「えっと、どなた……うん?」


 その女の子は帽子とサングラスで顔を隠しているけど、少し隙間から見える金髪と碧色の瞳。


 この特徴を持っている人物に俺は心当たりがある。というか一昨日見た顔だ。


「……リーシェか?」


「はい!一昨日ぶりですねお兄さん!」


 俺の肩を掴んできた女の子は、一昨日一緒に白いイビルトレントを討伐したリーシェだった。

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