Poutuber

 イビルトレント討伐二十回目。


 途中何回かボス挑戦に来たパーティーもいたから連続でというわけにはいかなかったけど、なかなか充実した戦闘だった。


「そろそろ終わりにするかな……」


 途中、疾走の短剣と龍樹の弓の切り替えを早くした高速戦闘も試したけどうまくいったと思う。


 当初の計画通り戦闘技術は見違えるぐらい向上したし【短剣術】のスキルレベルも7になった。


「まさかスキルレベルを上げるだけでここまで動きが良くなるなんて思ってもなかったな」


【短剣術】のスキルレベルが7になっただけで高速戦闘がかなり楽になったし、【弓術】もスキルレベルを7にしたから格段に弓の扱いも熟練度が上がった。


 だけど、今日はこれで終わりだ。


「それじゃあ、最後の一回行きます「やったー!着いたー!」うん?」


 ラスト一回のつもりでボス部屋に入ろうとしたら、後ろの方から女の子の声が聞こえた。


「……」


 俺は反射的に声の聞こえた方に振り返ると、そこには一人の木製の杖を持った女の子がいた。


 その女の子は、金色の髪を肩のあたりで揃えており、髪の色は金色だけど、目だけは碧色をしていた。

 そして、その顔立ちはとても整っており、一目見ただけでもかなりの美少女だということが分かる。


 だけど、異色を放っているのはその頭についているカメラ。


「いや~ここまで大変だったね♪苦戦はしなかったんだけどトレントってあんなにわからないものなんだね♪」


 すると、今度は頭についてたカメラを外して自分の方に向けて話し始める。


 なるほど、あの子はPoutuberか。

 それならあのカメラも納得がいく。

 今は動画の撮影中か。


 ダンジョンの中は電波が届かないから生放送なんかは難しいけど普通に撮影だけなら出来るからな。


「でも、せっかくここまで来たけどソロじゃボスに挑戦は出来ないよね♪どこかパーティーに空きのある人達がいれば良いんだけど……」


 そう言って周りを見渡す女の子。

 そんな女の子は俺を見つけると、視線を俺に固定したような気がした。


 ……スゥー……俺じゃないけど捕捉ロックオンされた気がするな。


「すいませーん♪」


 そして、女の子は俺に近づいてきて話しかけてくる。


「えっと、わたし今一人でボスに挑戦するのが難しいのでよかったら一緒にボス戦どうですか?お兄さん!」


 そこで頷かず、一旦冷静に考えてみる。


 女の子は少なくともさっき苦戦しなかったって言っていたしFランクのモンスターは簡単に倒せるぐらいの力はあるだろう。


 それに、持っている杖から考えるに魔法を使うだろうけどソロでここまで来てる。

 その事を考えたら結構な実力の持ち主だろう。


 だけど、確かに魔法は効くけど、ソロでイビルトレントは難しい。そんな印象だ。

 これなら俺が前衛を勤めて時間を稼いであげれば余裕で倒せそうだな。


 ……まあ、いいか。

 俺はまた後でもう一回やればいいや。


 それに、疾走の短剣しか使わないだろうから【捕捉】スキルのことがばれるわけでもないし。


「わかった。俺で良ければ協力するよ」


「ありがとうございます!わたしはリーシェです!よろしくお願いします!」


「……えっと本名じゃないよな?」


「もちろん!わたしのハンドルネームですよ!わたしが配信者なので本名は言えないんです!あ、そういえば撮影してますけど大丈夫ですか?」


「ああ、いいよ。」


「わかりました!では早速いきましょう!」


 う~ん。勢いが凄い。

 まあ、一応勝手に撮影し続けたりとかしないっていう最低限のマナーは守ってくれてるみたいだしいいか。


「あ、わたしは火と風の魔法を使います!」


「そっか。じゃあ俺は前衛をするから援護よろしくな」


「はい!お任せください!」


 リーシャは胸に手を当てて自信満々に答える。

 ……新人の探索者のパーティーに注意事項とかを教えてた時に似たようなこともあったしまあ、大丈夫でしょ。


「よし、じゃあ行くか」


「はい!あ、でもちょっと待って下さい」


「うん?」


「自己紹介がまだでしたので!……コホン。初めましてこんにちは!みんな大好き、みんなのアイドル!リーシェちゃんだよ♪」


 おお、切り替え早い。


「お~凄いね~」


「アハハッ。触れないでくださーい♪」


 そう言いながら指でVサインを作る。

 うむ。可愛い。


 だけど、やっぱりこの子もノリが良いな。

 正直助かる。


「ーーよし!お兄さんさっそく行きましょう!」


「おう」


 こうして、俺はリーシェと一緒にボス部屋に入った。


「うわぁ……緊張しますね……」


 リーシェの言葉を聞きながらボス部屋に入ると、そこには先程までのイビルトレントとは違う存在がいた。


 その体はさっきまでのイビルトレントと一緒だけど、一目見ただけで違うとわかる点がある。

 それは体色が白いところ……!


「あれ?イビルトレントってこんな白かったでしたっけ?調べたら茶色だった気がするんですけど?」


 リーシェはまだ気づいてない!?


「オォォォォオオオ!!!」


 そして、白いイビルトレントは雄叫びを上げ、俺たちに向かって襲ってくる。


「ひゃあっ!な、なんですか!?」


 俺は咄嵯にリーシェを抱えてボス部屋の外に出そうとする。


 だけど白いイビルトレントの方が一歩上手だったらしく、ボス部屋の外に出るための扉を地面から根っこを生やして塞いだ。

 そして、その扉を塞ぐ壁はどんどん厚くなっていく。


「しまった……!」


「ど、どうなってるんですかこれ!」


「まだ気づいてなかったのか……あいつは、あのイビルトレントは突然変異モンスターだ」


 一昨日遭遇したばかりの白いコボルトのような突然変異モンスター。

 それもボスの突然変異モンスターだ。


「そんな……それじゃあ逃げられませんよね……?」


「無理だろうな」


 突然変異モンスターの白いイビルトレントは腕も太く、強靭になっている。


 それに、あの扉を塞いだのをみると、根っこも多くなっていて、操作技術もかなり上がっているだろう。


「そ、そんな~!どどどどうしましょー!!!」


「う~ん……」


 まあ、倒すだけなら簡単だしさっさと倒しちゃうか。

 だけどその前に……


「ハッ!」


「ヒャァッ!?」


 リーシェの方に向かって伸びてきていた根っこを全部疾走の短剣で叩き切る。


「あ、ありがとうございます……」


「気にするな。それよりほら、どうする?まだあいつに挑むか?」


 一応挑戦する気があるか震えてるリーシェに聞いてみる。


 そして、同時に、白いイビルトレントが待ってくれるわけもなく、根っこを伸ばして攻撃してくるからそれを全て切り落とす。


「この通り、俺一人でも勝てるけど、君が戦いたいって言うんだったら俺はその意思を尊重するよ」


 俺がそういうと、少し考えたような仕草をしたあとリーシェの口が開かれた。


「……いえ!戦います!戦わせてください!」


 ……へぇ、随分良い目になった。

 恐怖はあるだろうけど、それ以上に強い意志を感じる。

 震えてはいるけど、これなら大丈夫か。


「よし!それじゃあ露払いは俺がやってあげるから思う存分魔法を撃ちまくれ!」


「はい!ありがとうございます!」


「じゃあ……行くぞ!」


「はい!」


 こうして俺はリーシェと共に白いイビルトレントに挑戦するのだった。

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