魔樹のダンジョン
翌日。
今日もレベルを上げるために犬頭のダンジョンに行くことも考えたけど今日は辞めておく。
今日向かうのは魔樹のダンジョン。
一昨日の反省点で近接戦闘が課題だとわかったから戦闘の技術を向上させるためにやって来た。
この魔樹のダンジョンはFランクのダンジョンで今の俺のステータスを考えたら完全に格下だけど、戦闘の技術を向上させるのには最適なダンジョンだ。
「やっぱりこのダンジョンは人が多いな」
今回は特に不人気のダンジョンを選んだりしていないから当然といえば当然だけど、それでも人が結構多い。
まあ、仕方がないと言えばそれまでだけど。
「よし、行くか」
俺は昨日購入した疾走の短剣を腰に差し、龍樹の弓と魔犬の腕輪を装備しながらダンジョンを進む。
今日の俺は一昨日の反省もあって戦闘の技術の向上を目的に来ている。
特に、短剣の技術を成長させたいから、龍樹の弓を使う戦闘は一回だけだろうけど、試し射ちはしてみたいからな。
「さーてと、モンスターはっと……」
最初に龍樹の弓の性能を確かめるため、モンスターを探す。
このダンジョンに出てくるモンスターは基本的にはトレントという木のモンスターだけ。
トレントはFランクのモンスターで、木でできた体をしている。木のモンスターなだけあってその場から動くことは出来ないけど、複数の根を使って連続して攻撃してくるモンスターだ。
「お、いた」
木が並んでいる中にトレントを一体見つけることが出来た。
魔樹のダンジョンというだけあってトレントはダンジョンの中に無数に生えている木に擬態してて
でも、基本的にどのトレントも木の幹につり上がった目と口が付いていているため、慣れてきたら一目瞭然だ。
「【捕捉】」
俺は【捕捉】を発動させて【魔法矢】で作った透明な矢を龍樹の弓につがえ、トレントに狙いを定める。
今日初めて使う龍樹の弓はいつものとは違う。
弦は柔らかく、指先にかかる重さもほとんど感じない。
これは俺が前に使ってた弓と同じぐらいの軽さだ。
だけど、全力で
「ふぅ……シッ!」
息を整えてから俺は一気に矢を射つ。
射ち放たれた矢は一直線にトレントに向かって飛んでいき、その太い幹に命中する。
だけど、それだけで終わらず。矢はその幹を貫通し、奥に生えている木々も巻き込んで破壊しながら直進していく。
そして、少し遠くにあった大木に突き刺さったところでようやく止まって甲高い音を上げて消えた。
「……うそぉ!?」
威力高すぎでしょ!? まさかここまで威力が高いとは思わなかったんだけど!? これ、絶対にボスとか一撃で倒せるじゃん!?
というかこれは【魔法矢】の貫通力というか攻撃力が高すぎて勢いが止まりきらなかったのか。
まあ、龍樹の弓に魔犬の腕輪の二つで攻撃力は結構上がってるし仕方ないな。
「……よし、逃げよう」
そして、俺は早々にその場から逃げることを決めて走り出す。
「ここまで来れば大丈夫だろ」
普通に人はいるから、誰かに俺があの惨状を作り出したってところを見られる前に逃げ出した。
とりあえず離れはしたから俺がやったって事はばれてないだろう。
見つかっても【捕捉】のことがばれなければ特にこれということはないけど、まあ一応な。
「それじゃあ次は疾走の短剣を使ってみるか」
龍樹の弓を【アイテムボックス】に入れて、疾走の短剣を鞘から抜く。
このために今日、ダンジョンに入る前に【短剣術Lv.1】を取った。
あとは体が慣れてきたら徐々にスキルレベルを上げれば良い。
そのためにSPは貯めておいてあるんだ。
「トレント~どこだ~?」
まずは疾走の短剣を試すために、またトレントを探して歩き回る。
しばらく歩くと、前方にトレントを見つけることができた。
「よし、早速いってみよう」
そう決めて、トレントに近づいていく。
するとトレントもこちらに気づいたようで、無言で根っこを使って連続攻撃を仕掛けてくる。
「はっ!」
俺はそれを疾走の短剣で受け流し、回避し、反撃する。
ただ、俺の攻撃力のステータスが高くなってるのもあって受け流すのを失敗すると、ただ根っこを破壊するだけに終わってしまう。
そうなると、次の攻撃が来るまでの時間も長くなるから、結局は避けたり、攻撃を受け流したりして隙を作り、そこを攻撃するしかない。
今回は倒すんじゃなくて戦闘技術の向上が目的なんだ。
できるだけ効率的にいきたい。
だけど、それをしばらく続けていると、根っこが出てこなくなった。
根っこを全部破壊しつくしたってことか。
「はあっ!」
今度は俺の方から仕掛ける。
疾走の短剣で、攻撃してこなくなったトレントの体に突き刺さることなくするりと体に刃が通る。
そして、トレントは声を上げることなく、そのまま動かなくなった。
「よし、次だ」
俺は倒したトレントを回収しないで、魔石だけ取ってすぐにその場を離れてトレントを探しに行く。
それからしばらくしてまたトレントを見つけたから同じように短剣の練習をして倒す。
「ふぅ……よし、こんなもんかな」
トレントを疾走の短剣で十体倒し終わったところで一旦休憩を挟む。
ダンジョンに入ってからだいたい三十分ぐらいが経過した頃だろうか。
まだ、ダンジョンに入ってそんなに時間が経っていないけど、十体のトレントと戦闘を繰り広げ、【短剣術】のスキルレベルを2に上げた。
スキルレベルを上げたことで短剣を振る時のキレが上がった気がする。
それに、久しぶりに回避の練習も出来たお陰で回避技術も上がってると思う。
「このまま続けたいけど……難しいか」
俺の今のステータスじゃ、これ以上トレントで練習するのは無理がある。
「仕方ない。ボスに行くか」
俺は休憩を終わらせてボス部屋に向かう。
ボス部屋の扉はトレントと戦った二階層から三階層降りた五階層にある。
途中、攻撃してきたトレントを一撃で叩きのめして五階層まで進む。
五階層まで降りると、今まで行った他のダンジョンと同じようにボス部屋の扉は開いていた。
「お、ラッキー。他の人は居なかったか」
このダンジョンは普通に人がいるから待つことになるかなとも思ったけど、開いててくれて助かった。
「それじゃあさっそく」
疾走の短剣を構えながらボス部屋の中に入る。
そして、俺が中に入り、数秒後に後ろのドアが閉まる音が聞こえた。
「オオオオオォォォオ」
そして、低いうなり声と共に奥の暗闇から一体のモンスターが俺の視界に写る。
そのモンスターは、トレントをそのまま大きくして、手をつけたようなモンスターで、その大きさは軽く七メートルはあるんじゃないか? ってぐらい大きい木の見た目をしている。
そのボスモンスターの名前はイビルトレント。
攻撃方法なんかもトレントの攻撃を少し強化したようなボスモンスターだ。
「はっ!」
とりあえず様子見ということで、疾走の短剣を構えてイビルトレントに近づく。
すると、イビルトレントは地面からトレントよりも太い根っこを地面から出して攻撃してくる。
俺はそれをトレントとおなじように回避し、受け流し、時には短剣で切断する。
「やっぱり硬いな」
俺の攻撃はしっかりと通るんだけど、やっぱりトレントよりも防御力が高くて刃を通す時に少し抵抗がある。
もうちょっと扱いがうまくなれば抵抗なく、切ることは出来そうだ。
それに、少なくとも一昨日戦った白いコボルトよりは弱い。
大きさもはるかに大きいし、その根っこによる攻撃の手数と質量は怖いけどそれだけだ。
俺は攻撃しながら観察を続けていく。
そして、しばらく斬り合っていると、イビルトレントが根っこによる攻撃をやめて、両手を振り上げて地面に叩きつけて振動を起こそうとする。
だけど、俺はそれを跳んで振動をやり過ごし、空中で体を捻り位置を調整して、落下しながらイビルトレントに疾走の短剣を深く突き刺す。
「オオオォォオッ!?」
突然の痛みに悲鳴を上げるイビルトレントを無視して、短剣を全力で振り切る。
すると、疾走の短剣の切れ味も相まって、イビルトレントの胴体を切り裂き、大きな傷を負わせることが出来た。
だが、それでもイビルトレントはまだ倒せず、俺を掴もうとして手をこちらに向けてくる。
「甘いんだよ!」
俺はもう一度、疾走の短剣で切りつけようとすると、今度は腕を切断して、イビルトレントの手を吹き飛ばすことに成功した。
「よし!これでとどめだ!」
続けて、イビルトレントの顔に拳を叩き込んで、イビルトレントを木っ端微塵にして倒した。
「ふう、なんとか勝てたか」
疾走の短剣を使った戦闘は慣れてきたけど、やっぱりまだまだだな。
結局最後には力任せの攻撃になってしまった。
「まあ、今回はそれで良いか」
なんにせよ、今日は戦闘技術の向上のためにこのダンジョンに来たんだ。これから直していけばいい。
「うっし!それじゃあもうちょっと練習させてもらうか」
イビルトレントから取り出した魔石を【アイテムボックス】に入れてボス部屋の外に出る。
そして、人がいないのを確認してからまたボス部屋の中に入ってイビルトレントに挑む。
さて、今日は何回挑戦できるかな!
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