事後処理
幸い、ダンジョンから出るまで突然変異モンスターの白いコボルトはもちろん、コボルトも出てくることはなく、安全にダンジョンの外に出ることができた。
拓人くん達もいたから戦いたくなかったのもあったからありがたかったな。
ダンジョンの外に出ると外はもう夕方になっていて日が暮れ始めていた。
ダンジョンの中は昼も夜も関係なく明るいから時間の感覚が狂いそうになるな。
そして、ダンジョンから出た瞬間、外にいた人達が一斉にこちらを見て騒いでいるのが見えたけど……
「あれって昨日も見たよな?ほらあの……探索者さん……」
「ああ……もしかしたら拓人くん達のことを何か知ってるかもしれないぞ」
「……っておい!あの探索者さんの後ろ!」
「あ!居なくなってた子供達が全員いるぞ!」
どうやら聞こえてくる声から察するに拓人くん達三人を探していたらしい。
俺の後ろにいる拓人くん達を見た途端、周囲の大人たちがさらに騒ぎ出して近づいてくる。
「おい!子供達は大丈夫か!?って!探索者の兄ちゃん血だらけじゃねぇか!?」
事情を聞きに来たのか俺に一人の男性が来て、他の人達は子供達の元に駆け寄っていった。
「ああ、怪我はお気になさらず。もう治療しているので大丈夫ですよ。子供達も無事です」
「そ、そうなのか……よかった……」
俺の言葉を聞いてホッとした表情になった大人の男性。
他の人達は子供達を抱きしめたり頭を撫でていたりしていた。
「それで兄ちゃん。一体何があったんだ?」
「そうですね。まずは説明をしたいんですけどまずは……」
俺は男性から離れてダンジョンの周辺を探索する。
ダンジョンの入り口の上、周囲を囲んでいる木々の上や死角になっている場所、監視者がトイレに行く時にカメラを固定するであろう場所やトイレの全てを監視者がいないか探しに探していく。
カメラの固定は監視者がトイレに行く時に必ずしてダンジョンに資格を持ってない人が入ってもすぐに警告音がなるようにできるし気づかないなんて事はないはずだ。
だけど、どこにも監視者というか人の姿は一切見当たらない。
それに、カメラも固定されてる所は見つからなかった。
少なくともダンジョンの入り口が見えるように固定しなきゃいけないから見つからないなんて事はないはず。
……まあ、拓人くん達がダンジョンの中に入れているのと、ダンジョン周辺であんな騒ぎになっているのに姿を見せない時点で察してはいたけどな。
「お、おい探索者さん何やってるんだ?」
「いえ、なんでもありません。とりあえずあの子達はお任せしますね。事情はまた後で説明させていただきますので」
男性には悪いと思うけど、返事を聞かずにその場から離れていく。
そして、【アイテムボックス】からスマホを取り出してある場所のある部署に電話をかける。
「あ、もしもし。探索者協会ですか?」
監視者、子供達がダンジョンに入ったのが確かに悪い。
だけどそんなことになった要因の一つであるお前は絶対に許さないからな……
***
場所は移動して村の集会所のような場所。
そこには当事者の俺と拓人くん達。
そして、拓人くん達の両親や祖父母といった親族。
この村のまとめ役のような人。
さらに俺が連絡した探索者協会から来た人。
最後に犬頭のダンジョン担当の監視者という男性が座っていた。
拓人くん達はたっぷり怒られたのか、目の腫れがまだ治っていない状態で、俯いている。
「さて、それでは今回起きたことについての説明をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「はい。それでは、今回起こった出来事について説明をさせていただきたいと思います--」
そして俺は、今回のダンジョンで起こったことを全て話していく。
拓人くん達がダンジョンの中にいて突然変異モンスターの白いコボルトに襲われていたこと。
そして、本来必ずダンジョンの入り口周辺にいて見張りをしているはずの監視者がいなかったこと。
話すのは大まかに分けてこの二つだ。
「--以上が。今回の出来事についてです。それで監視者の方にお聞きします。どうしてこの村の近くにいた貴方がここにいないのですか?答えてください」
「……」
監視者の多賀谷さんは俺からの問いに視線を下げながら口を閉ざしてしまう。
その様子に俺以外の人達が怒りの声をあげ始める。
「おい!確かにうちの子供がダンジョンに勝手に入ったのは悪い!それはうちの子供が悪いんだから責めるつもりはない。危険だって知ってて入ったんだ。責める資格は子供達の責任をとる俺達にはねえ。だけどよお、監視者がダンジョンにいないなんてどういうことなんだ!」
「そうだ!あんたはダンジョンに異常が起こった時に協会に連絡する役割を担ってるだろうが!」
口々に責め立てる大人達に多賀谷さんは何も言わずに黙ったままだった。
ただ、無言のまま俺の顔を見つめるだけで何も喋らない。
そんな多賀谷さんの視線はかなり血走っていて見つめるというか睨み付けているという方が正しい気がする。
「……ハァ……」
……ため息?
監視者の思わず口から出てしまったような小さな声で吐かれたそれはステータスの上がっている俺以外の耳に届くことなく消えていった。
「……申し訳ありませんでした!私の不手際で大変なご迷惑をおかけしました!この度は本当にすみません!!」
突然椅子から立ち上がり、綺麗な土下座をして謝罪を始めた多賀谷さんに俺を含め、他の人達は呆然とすることしかできなかった。
えっと、急にどうしたんだ……?
そして、続いて探索者協会から来た人も立ち上がって土下座までとはいかなかったが
「今回は私ども探索者協会が派遣した多賀谷に不手際があったこと、深くお詫び致します。誠に申し訳ありませんでした」
と、こちらも謝ってくる。
結局、その後二人はひたすら頭を下げるだけ下げて、拓人くん達の親族が落ち着くまで下げ続けて、これからのことを説明してそのまま帰って行った。
これからのことと言っても、拓人くん達がダンジョンに入ったのは多賀谷さんがいなかったのもあって、罰は厳重注意。
多賀谷さんは今日ダンジョンにいなかったのは休暇を取るための報告の不備として謹慎と減給処分になるらしい。
正直絶対にダンジョンにいなかったのは今日だけじゃないと思うんだけど、証拠がないだけに何も言えない。
まあ、これは俺の勝手な推測だしな。
歯痒いな……
そして、多賀谷さんはその責任を取って探索者協会の支部に戻ることになることぐらいだな。
まあ、俺も探索者協会の人を待つ間に拓人くん達へのお叱りは済ましたし、今日はこれで帰るだけだ。
「あ~今日は疲れた。さっさとか「お待ちください。探索者さん」……はい?」
帰ろうと立ち上がったところで声を掛けられる。
声の主を見るとそこには白髪のもう60代ほどの年配の男性がいた。
「えっと……貴方は確か……」
「拓人の祖父の
そう言って深々と頭を下げてくる男性。
その姿からは俺が拓人くんを助けたことを本当に感謝してくれていることが伝わってきた。
「いえ、俺は別に大したことはしてないので気にしないで下さい」
「そうはいきませぬ。拓人に聞けばあなたは大怪我を負っただけでなく武器である弓も失ったとか。その程度ではありますが、せめてもの礼をさせていただきたいのです」
「あーいえいえ。ほんとうに大丈夫なんで」
「いえいえ、そういうわけには参りません。ですので我が家に来ていただきたく思います。今からでもよろしいですかな?」
「あ、はい。それじゃあよろしくお願いします……」
有無を言わせない雰囲気に思わず返事をしてしまう。
そして、俺は誠三さんの家に招かれることになった。
誠三さんの家は普通の家と言った感じだ。
だけど、家の近くにある横に大きな建物とその近くにある角材とまではいかないけどある程度形の整えてある木材が見事なまでに普通の家という印象をぶっ壊してきた。
「ここがわたしの家になります……む?どうかなさいましたか?」
「い、いえ。なんでもないですよ」
さすがに普通の家っていう印象を与えられた後にこれを目の前にして平然とできる人の方が少ないと思う。
この家に圧倒されている俺を見て首を傾げている誠三さん。
「?まあいいでしょう。こちらです、どうぞお入りください」
「……お邪魔しまーす」
だけど、家の中に入ると、普通に生活感溢れる玄関だった。
だけど、普通の靴じゃなくて安全靴やタクティカルブーツといったいわゆる作業靴が多く見える。
そして、誠三さんに案内されて和室の客室らしき場所に通された。
そして、座布団を出されてそこに座ってしばらく待つ。
「お待たせしました」
しばらく待つと誠三さんは大きな木箱を持って部屋の中に入ってきた。
そして、俺の前にドスンッと置く。
その音からかなり重量があることが伺える。
「私がお招きしましたのにお待たせすることになってしまい申し訳ありません」
「いえ、それはいいんですけど……これって一体……」
「これは今回の件の感謝の品です。中身については開けてからのお楽しみということで一つご了承願いたい」
そう言うと誠三さんは木箱を畳の上を滑らせ俺の方に寄せてくる。
いや、ええ?……受け取っていいのかこれ?
その木箱は見るだけで高級そうな雰囲気が漂っている。
「い、いやいやいや。受け取れませんよこんな見るからに高そうな物!」
「そうは言われましてもな……私はあなただからこれを受け取ってもらいたいのです」
「いや、でも……本当にいいんですか?」
「ええ。私の大事な孫の拓人を救ってもらったお礼です。それに、拓人の話を聞いてこれをあなたに渡すのが良いと私が判断したので」
誠三さんはそう言うとさらに俺の方に木箱を押して来る。
ここまで来たら受け取るしかないか。
あんまり断り続けても誠三さんに失礼だろうしな。
俺は意を決して木箱を受け取る。
「わかりました。ありがたく受け取らせていただきます」
「お受け取りいただけるなら良かったです。私はこれは心技体。心の強さ。技の冴え。体の強さ。これらが揃っている人に渡そうと思っておりました」
俺が受け取る意思を示すと誠三さんは嬉しそうに笑った後、そんなことを言う。
「私はこの心技体は、かの
「誠三さん……ありがとうございます。そこまでの評価をしていただいて……」
「なに、これはあなたの正当な評価でしょう。これからの活躍、期待させていただきますぞ」
誠三さんはそう言って笑いながら俺の肩を叩く。
その手は力強く、とても安心感のあるものだった。
……強くなろう。
ここまで評価されているんだ。
もっと頑張らないとな。
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