事情聞く

 白いコボルトを倒したことを確認したらステータスを開いてHPを確認する。


 うっわ……残りHPが250しかない。

 それに加えて今も出血が止まってないから毎秒1ずつHPが減っていっている。


「早く回復しないと……」


「兄ちゃーん!!!」


「お兄ちゃん大丈夫!?」


「に、にいちゃん、血、血が!」


 拓人くん達がこちらに走って来ていた。


 俺は【アイテムボックス】からポーションを二個取り出す。


 ポーションを買い置きしといて良かった~……

 なかったら白いコボルトに勝ってたのに死ぬところだったな……


「ああ、これは大丈夫だよ。ポーションがあるからね。拓人くんも使っておきな?さっきあいつに掴み上げられてたでしょ?」


 取り出したポーションを一つ拓人くんに渡す。


「う、うん。ありがとう兄ちゃん」


 拓人くんが受け取って蓋を開けて飲んだのを確認してから俺もポーションを使う。

 蓋を開けて半分を肩の傷口に掛けて半分を飲み干す。


「っ〜!」


 傷口にポーションがみて痛ってぇ……けど我慢できる程度だ。

 それに、さっきの白いコボルトに肩を爪で刺された時の方が断然痛かった。


 だけどポーションを使ったおかげで肩の傷口が徐々に塞がっていき、痛みも引いていく。


 手を開いて閉じてを繰り返して、肩を回してみる。

 よし、動く。問題なし。


 HPを確認しても550まで回復してたしHPの減少も止まったしもう大丈夫だろう。


 ステータスを閉じてから立ち上がる。


「ほ、本当に大丈夫なのかよ兄ちゃん!」


「ああ。ポーションも使って傷口は塞がって血も止まったしもう大丈夫だよ」


 心配そうに聞いてくる拓人くんの頭を撫でながら答える。ついでに二人も。


 さて、と……


「た~く~と~く~ん?それに他の二人も。なんで君たち子供がダンジョンに入ってるのかな?」


「「「えっとぉ……」」」


 俺の言葉を聞いて三人の顔からサーッと音が聞こえそうな勢いで顔色が青ざめていった。


「あ、あのな--」


 拓人くんと名も知らぬ男の子と女の子が拙いながらもゆっくりと説明してくれる。


 その説明を聞いた結果、とても馬鹿馬鹿しいのと同時にどうにもおかしな話だった。


「ってことは君たちは探索者の俺が会った時は素手だったから自分達でも何か武器があればダンジョンに入ってモンスターを倒せると思った。そういうことだな?」


「「「はい……」」」


「まったく……いくらなんでも無謀すぎるだろそれは……」


 俺の呆れた声に三人ともシュンとなって項垂れてしまう。


 まぁ、これは武器の弓を【アイテムボックス】にしまってた俺を見てダンジョンに入ってきちゃったらしいからあまり強くは言えないけど。


 だからその事は置いといて、まずは聞いておきたいことがある。


「まあ、今それはいい。それよりなんで君たちはダンジョンの中に入れてるんだ?監視者オブザーバーは止めなかったのか?」


 まず子供達三人がこのダンジョンの中にいるのがおかしい。

 どのダンジョンにも監視者という探索者協会の職員がいる。


 その監視者は探索者資格を持っていない人がダンジョンに入るのを止める役割を担っている。


 その探索者の資格を持っているかを確認する方法は【魔道具作成】のスキルを持った職員が作った監視カメラのようなものを隠れながら使って毎日監視しているはずだ。

 だからそれを使って顔を探索者協会のデータベースに確認できるから、登録していない人はすぐにばれて監視者に止められるはず。

 まあ、今回はそんなのは使わなくても見るからに子供のこの子達が止められないなんてことはないはずだ。


 だからなんでこの子達がダンジョンの中にいるのかが不思議でしょうがない。


「別に誰もいなかったし止められなかったよ」


「そうだぜ!ダンジョンにはすぐに入れたしな!」


「ここまでお兄ちゃんしかダンジョンでしか見てないよ」


「……そっか~……」


 なんだよそれ。


 監視者が子供達を見過ごしたなんてことは最低限入ろうとした人を取り押さえられるようにレベルを上げているはずだ。

 だからステータスもない子供を見逃すなんてことはないはず。


 ……ってことは……


「まさかいないのか?監視者」


 その考えに至って頭を抱える。


 監視者っていうのは探索者資格を持っていない人を止める役割の他にも、ダンジョンの中で異常が起きたらすぐに探索者に連絡する役割を持っているんだ。

 もし監視者がいない状況で魔物暴走スタンピートでも起こってしまったらそれこそとんでもないことになる。


 魔物暴走はどれだけ早くするのか重要になってくるから、探索者協会への連絡が遅れたらそれだけ被害が広がるし、対処が遅れれば多くの人が死ぬかもしれない。


 そんな重要な役割を持っている監視者がいないなんて……


「……はぁ、もうちょっと説教しようと思ったけど先にダンジョンの外に出ようか。色々考えることが多すぎて頭が痛い……」


「「「はい……」」」


 俺は小さくため息を吐いてから、拓人くん達に出口に向かうように指示を出す。


「おっと……ちょっと待っててくれよ」


 白いコボルトのドロップアイテムを回収し忘れていたことを思い出して白いコボルトの死体に向かって歩き出す。


 突然変異モンスターの白いコボルトだ。


 情報通りなら……


 緊張するな。

 白いコボルトの前まで着いた俺は白いコボルトの死骸に手を伸ばして触ってみる。


「うわっ!」


 すると、突然俺が触った場所から白いコボルトが光りだして俺の視界を真っ白に染める。


 そして数秒後、光が収まったのを感じてから目を開けるとそこには白いコボルトの上に腕輪が置かれていた。


 その腕輪は放つ異様な雰囲気に思わずゴクリと喉を鳴らす。


「こ、これが突然変異モンスターを倒すと手に入る装備アイテムか……!」


 突然変異モンスターを倒した時にアイテム出るとは聞いていたけど、こんな感じで出てくるのか。


 目の前にある腕輪をまじまじと見つめる。


 鑑定したら魔犬の腕輪という名前の腕輪というのはわかったけど、効果までは俺の【鑑定】のスキルレベルが低いのもあってわからないから着けるのはやめておこう。


 白いコボルトと腕輪を【アイテムボックス】にしまい、拓人くん達に合流してダンジョンの外へと進む。


 さてと、外に出たらこの子達の親を探して報告、それと監視者を一応探して、いてもいなくても探索者協会への連絡。

 あと手持ちのポーションだけで回復しきれなかった俺の治療。

 そして、探索者協会から来た職員への事情説明。




 ……ダンジョン出たくなくなってきたなぁ……

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