突然変異モンスター(前)

 突然変異モンスター。


 それは通常のモンスターとは違い、ステータスがさらに強化され、体のどこかしらが通常個体より異常に発達しているモンスターのこと。

 特徴としては白い体色ですぐに通常のモンスターと見比べると見分けがつきやすい。


 それと一番の違いはその強さ。

 強化されたステータスはその元となったモンスターのランクを一つ押し上げるぐらいだ。

 つまり今のあのコボルトはCランク相当のモンスターになっている。


 ランクだけ見たらハイコボルトと同じだけど、ハイコボルトよりも小さいから厄介な相手だ。


 そんな相手に子供達を庇いながら戦う?

 かなり難しいな。だけどやるしかない。


 そうとなると……


「拓人くん、他子二人も絶対に俺の後ろから離れるなよ」


「う、うん……」


 他の二人も返事はしなかったけど俺の後ろから動かない。

 いや、これは動けないだけか?

 まあ、俺の後ろから動かないならなんでも良い。


 幸いここは一直線になってるから前の白いコボルトだけに注意すればいい。


「グルルルル……」


「……」


 コボルトが喉を鳴らしながらこっちを睨みつけてくる。


 意識を逸らすな。集中しろ。

 今は白いコボルトを倒すことだけを考えろ。


 白いコボルトはいつでも突っ込んでこれるように姿勢を低くして、俺は【魔法矢】で作った矢をいつでも射ち出せるように弓を構える。

 そのままの状態でしばらく俺と白いコボルトのにらみ合いが続く。


「グルルゥッ!!」


 先に動いたのは白いコボルトだった。

 白いコボルトは一気に地面を蹴って距離を詰めるために低い体勢のまま突っ込んでくる。


「シッ!」


 それを俺は白いコボルト目掛けて【捕捉】を使ってから【魔法矢】で作った矢を射つ。


「ガルルァッ!」


 一直線に白いコボルトに向かって矢をは飛んでいくけどコボルトが吠えると同時に異常発達した左の爪に防がれてしまう。


「嘘だろ!?」


 確かに当たってるといえば当たってるから必中なんだろうけど今までの経験からして絶対に当たるとわかっていたからこそ驚きが大きい。


 さらに、白いコボルトは近づいてきて左の爪を振り下ろそうとしてくる。


「シッ!」


 だけど俺も黙ってやられるつもりはないからすぐにまた二本、矢を作り出して同時に白いコボルトに射ち出す。


「ガアッ!?」


 今度はさっきのように防ぐことはできないのか一本は爪で防いだけどあと一本は白いコボルトの右肩に突き刺さる。


 よし!今度は当たったな。


「グルアァ!!」


「くっ!」


 しかし、白いコボルトは痛みを感じていないかのように右足で蹴りを放ってきた。

 なんとか弓を持ってない方の左腕でガードしたけど凄まじい衝撃が左腕に伝わる。


「いってぇ……」


 ステータスはハイコボルトよりも劣ってる気はする。


 だけどその体の小ささが問題で、【捕捉】スキルの必中がなかったら高い俊敏ステータスもあって矢は一切当たってないだろう。

 しかもそれだけじゃなくて攻撃力もある。


 イメージ的には白いコボルトは俺がこれから振り分けようとしていたステータスのような感じのステータスだろう。

 素早い動きで攻撃を避けて高い攻撃力で相手を圧倒できるタイプ。


 厄介なことこの上ないな。


「グウゥッ!」


「うおっ!?」


 白いコボルトが今度は右手で殴りかかってくる。

 弓を手放すわけにはいかない……けど左手は右足を……!?

 くっそ!

 咄嵯に弓を持っている右腕でガードするけどやっぱり凄まじい威力で腕が痺れる。


「グルァッ!」


「ぐぁっ……!」


 白いコボルトは俺のそんな隙を逃さず、左手を大きく振りかぶった状態で飛び込んできた。

 まずいと思った時にはもう遅く、鋭い爪が俺の右肩に食い込む。

 さらに白いコボルトはそのまま地面に着地すると爪を引き抜いて俺の体を投げ飛ばす。


「ガハッ……」


 投げ飛ばされた俺は受け身を取ることもできずに壁に背中を強く打ち付ける。


「兄ちゃん!」


 拓人くんが心配そうな声を上げる。

 大丈夫だよと安心させたくて口を開こうとするけど上手く言葉にならない。


「がはっ……ごほっ……」


 肩を見ると肉がえぐれていて血が流れ出している。骨は折れてはいないみたいだけどそれでもかなりの重傷だ。

 ガードに使った両腕も感覚的に折れてはいないだろうけどかなりの激痛が走っている。

 だけど骨まで折れてないってことが不幸中の幸いか。


「グルルル……」


 白いコボルトは俺がもう動けないと判断したのか子供達に近づいていく。

 こうなってしまったら逃げてほしいけど子供達は恐怖で動けないのかただ震えているだけだ。


「やめ……ろ……」


 必死に口を動かそうとするけど掠れたような声しか出ない。


 このままだと俺だけじゃなくてあの子達の命も危ない。


 なんとかしないと。でも体が動かない。


「グルォウッ!!」


「きゃあっ!」


「うわあああ!」


 白いコボルトが拓人くんに爪を振り上げて襲い掛かる。


 ……なんで俺は動けない。


 動けよ!俺ならあの子達を助けられるんだぞ!?


「グルオオッ!!」


「やめて!!来ないで!!」


「あ……あ……」


 白いコボルトの爪がどんどん子供達に近付いていく。


 その光景を俺はまるでスローモーション映像を見るように眺めていた。


 動け……!

 確かに体は限界だ。

 だけど俺はまだ負けてない……!


 遠距離攻撃しか出来ない?近接は出来ない?

 だからなんだ。

 誰がそんなことを言った……!


 俺は自分の力を信じてここまで来たはずだろ……!

 ここで諦めたら今までの努力は何だったんだよ……!


 お前のユニークスキルはお前が強くなるには弱すぎると周りに馬鹿にされた。

 その時諦めたか?

 いや、諦めなかった!


 限界を超えて今俺はここにいる。


 じゃああとは簡単だ。




 もう一度限界を超えるだけだ……!!!


「うぉぉぉぉおおお!!!」


 気合いを入れるために雄叫びを上げながら立ち上がって弓を盾にして子供達を庇う。

 そしてそのまま白いコボルトの爪による攻撃を受け止める。


「ぐぅ……!うぉぉおおっ!!」


 肩の痛みに膝を屈してしまいそうになるけど雄叫びを上げ、気合いを入れて耐える。


 それに驚いた白いコボルトは一瞬動きを止めるも、すぐに爪を横に薙ぎ払ってきた。

 ……前に技術なんてない。ただ力任せに……蹴り飛ばす!!!


「喰らえ!」


 俺の蹴りは白いコボルトの胴体に直撃して白いコボルトは吹き飛ぶ。


 やっぱりレベルアップって大切だな。

 レベルを上げる前の俺だったらあそこまで吹き飛ばせてないしそもそもここまで戦えてなかっただろう。


 ただその代わり、盾に使った弓は真っ二つになってしまった。

 一年間ずっと使い続けてた弓だから悲しくもあるけど仕方がない。


 今はそれよりも目の前にいる敵を倒すことに集中しよう。

 それに弓がなくなってもまだ戦う方法はある!


「かかってこい!まだ俺は戦えるぞ!」

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