ダンジョンのある村にいる少年

「くあぁぁぁ~着いた~!」


 あれから電車に乗って一時間。


 電車の中では座りながらこれから向かうDランクのダンジョンについて調べたり動画を見たりしたから退屈はしなかったけどそれでも一時間はやっぱり長かった。

 一時間座ってたから身体が固まってきて伸びをしたら腰からパキッって音が聞こえてくる。


「ここがダンジョンがある町か……」


 駅を出てすぐ見えたのは木々が生い茂った山でその麓に木造の家が建ち並んでいる小さな町。


 そして、俺が今立っている場所が駅で、少し進んだ先には大樹が中心に生えた広場が見える。


 スマホでダンジョンの場所を検索しても山の辺りにダンジョンは一つしか無いから目的地のDランクのダンジョンがある町はここで間違いないだろう。


「なるほど。ダンジョンは山の方にあるのか」


 だけどこの町を一目見てとりあえず町と言ったけど、よく見てみるとどちらかと言うと村とかそっちの方が合ってる気がする。


 駅の近くに商店もあったからそこでおにぎりを買って広場まで歩く。


 遠目に見えた普通の家なんかもあったけどどちらかというとこの村は畑の方が多くて自然が多い印象だ。


「のどかで良いところだな~」


 ここ一年間都心から離れずにずっとダンジョンで命のやり取りをしてたからかこういう田舎みたいな風景を見ると心が落ち着いてくる。


 それに、自然も多いから空気も美味しい。


 そこまで都心から離れてはないからそこまで違いはないだろうけどそう思っちゃうぐらいにはリラックス出来る環境だった。


「この広場も広いし、いい感じに中心の大樹が日陰になってくれるし最高だな」


 広場のベンチでぼーっとしながらおにぎりを食べる。


 うん。そこの商店で買ったおにぎりだけどコンビニとかで買うよりも全然うまい。


 おにぎりは三つあって具は鮭、梅干し、おかかの定番の具だけど、鮭おにぎりは鮭がよくほぐされてて塩加減も抜群だ。


 梅干しは程よい酸味があって食欲をそそられるし米の甘味とマッチしている。


 そして、おかかおにぎりは鰹節と醤油でシンプルに味付けされていて、米によく合う。


 おにぎりの具が変わり種ではなくシンプルなものだからこそのおにぎりの美味しさが口の中いっぱいに広がっていく。


「こんなことならもっと早く来てたらよかったな」


 探索者になって一年間で一気に生活が殺伐としてたし、もうちょいここの村の存在に気づいて早めに来てりゃもっと充実した生活を送ってたかもな。


 ゆっくり出来るしご飯は美味しい。いいこと尽くしだ。


「なあなあ兄ちゃん!」


 そんな感じでゆっくりとしていたら不意に声をかけられた。


 声の主を見てみるとそこには小学生には入ってないぐらいの男の子がいた。


 多分小学校にはまだぐらいだと思うけどなんだろう?


「どうした?俺に何か用か?」


「おう!あのさあのさ!俺、篠山拓人しのやまたくとって言うんだけどさ!兄ちゃんその格好、探索者だろ!?だったらさ、俺をダンジョンに連れていってくれよ!」


「……え?ダンジョンに?」


 いや、いきなりすぎて何が何やら……


 でもまあ、ダンジョンには興味があるらしいけど拓人くんはまだ子供。

 18歳には到底見えないからステータスもないだろうし同じく探索者の資格もない子をダンジョンに入れるわけにもいかない。


 というか連れてったらダンジョン法違反で俺が捕まるわ!


「頼むよ!俺はダンジョンに行きたいんだ!」


「え~っとごめんな。流石に子供がダンジョンに入るのは危ないから連れては行けないんだ」


「そこをなんとか!俺はどうしてもダンジョンに入りたいんだよ!」


「……拓人くんはどうしてダンジョンに入りたいの?」


 俺がそう聞くと何故か急に押し黙ってしまう拓人くん。

 でもすぐに口を開いてこう言った。


「だって、俺が大人になったら探索者になりたいってじいちゃんと母ちゃんに言ったんだけどさ、危ない!って言って反対されてさ……」


「……」


「探索者は危ないからこれからも畑の世話をしていこって言われてさ!でも俺は探索者になりたいんだよ!」


「そっか……」


 これは今のダンジョンがある時代によくあることだった。


 ゲームみたいな世界に憧れた子供達が探索者を夢見て、それを子供達の親が子供に危険な目にあってほしくないと言って止めようとする。


 俺の母さんと親父も似たようなもんだった。

 俺が中学に上がる前に母さんと親父は事故で亡くなってしまったけど、俺に危険な目にあってほしくないと必死に説得された記憶がある。


「だからお願いだよ!俺をダンジョンに連れていってよ!」


「やっぱり拓人くんには悪いけどダンジョンには連れて行けない」


「……ッ!なんでだよ!?」


「拓人くんがまだ子供だからだ。探索者としての資格がない、それに、そもそもステータスもないというのは危険すぎる」


「それは……そうだけど……」


「それに、きっと拓人くんのお母さんもおじいさんも拓人くんのことが嫌いだから反対してるわけじゃないんだ。逆に拓人くんが大好きだから危険なダンジョンには行って欲しくないと思ってるだけなんだよ」


 俺も最初、母さんと親父に反対されてるのはダンジョンのことを知らないからだと思ってた。

 でも、実際には母さんと親父の方がダンジョンのことをよく知ってて、俺が探索者になるのを止めようとしてくれていたんだ。


 まあ、それも母さんと親父が死んで、ダンジョンに潜ってからから知ったんだけど。


「分かってあげてくれ」


「……ッ!もういい!」


 俺の言葉を聞いた拓人くんは涙を堪えながら走り去ってしまった。


「はぁ……言わなきゃいけなかったとは言えきついなぁ」


 本当はこんな風に言いたくはなかった。

 だけど、連れていくわけにもいかなかったし言わない訳にいかない。


「俺がもうちょっと有名人みたいにああやって話しかけられることになれてたらもっと上手く言えたかもしれないけどな」


 テレビにも出る探索者とか人気動画配信者とかだったら同じようなことを言われたりして慣れてそうだから良い断り方を知ってるかもしれないし。


「う~ん。今度からはそういう人達を参考にしようかな」


 なんてことを考えつつ再びおにぎりを食べる。


 うん。うまい。

 やっぱりコンビニで買ったおにぎりよりも断然うまい。


「ま、ああやって頼まれることなんてもうないだろうけどな」


 残ったおかかおにぎりを口に放り込んでプラスチックの入れ物をゴミ箱に捨ててからベンチから立ち上がる。


「さて、と。気を取り直してダンジョンに行きますか」


 拓人くんもお母さんやおじいさんだけじゃなくて探索者の俺にも止められたからきっと諦めてくれるだろう。


 それにお母さんやおじいさんもいるならこのダンジョンのある村に住んでるのもあってダンジョンの危険性は理解しているはずだ。


 だから自分で勝手にダンジョンに入らず俺に頼むなんてことをしたんだろうし。

 それに拓人くんの走っていった方向もダンジョンとは違う方向だし大丈夫だろ。


 そう考えた俺はダンジョンに向けて歩みを進める。


 広場から数分歩くだけで見えてきたダンジョンの入り口。

 ダンジョンの入り口は山を切り開いて作ったような作りで木々に囲まれていて入り口の前にも木が生えてたらわからなくなりそうなぐらいだ。


「ここがダンジョンか……よし!行くぞ!」


 初めてのソロでのDランクのダンジョンだ絶対に油断せずに行くぞ!


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天宮楓

レベル113

HP:1150/1150 MP:1085/1085

攻撃力:185(+52)

防御力:135(+12)

俊 敏:185(+57)

器 用:290(+152)

精神力:410(+292)

幸 運:50

BP:0

SP:5

スキル:【魔法矢Lv.10】【弓術Lv.5】【鷹の目Lv.2】【アイテムボックスLv.2】【捕捉Lv.5】【鑑定Lv.1】【MP増加Lv.5】


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