ダンジョンの中での戦い

「ここが犬頭のダンジョンか」


 入り口に入ってすぐ目の前に広がる光景。

 そこは洞窟のような場所で、ゴツゴツとした岩肌がむき出しになっている。


 やってきたのはDランクダンジョンである犬頭のダンジョン。


 ここはボス部屋まで十五階層というFランク、Eランクのダンジョンとは比べ物にならない程の規模を誇るダンジョンだ。


 最短距離でボス部屋まで行っても二時間はかかるらしいし、ボス部屋まで行ってもボスは強化されたCランクのモンスター。

 俺にとっては初めて戦うランクのモンスターとなる。


「まあ、とりあえず進むか」


 電車の中でボス部屋までのルートを書いた手帳を片手にボス部屋に向かって歩き出す。


 Fランク、Eランクまではボス部屋までのルートが単純なのもあってメモしなくても覚えられてたけど、流石に十五階層分のルートを覚えるのは無理だ。




 そんなこんなで手帳片手に慎重に進んでいき、運良く五階層までモンスターと出会わずに来ることが出来た。


「ふぅ、ここまでは順調だな」


 手帳を持ってるせいで片手が使えないのもあって細心の注意を払いながらの道中だったが今のところ問題は起こっていない。


「にしても、本当に広いダンジョンだよな」


 犬頭ダンジョンはとにかく広くて入り組んでいる。

 ルートを書いた手帳がなかったら確実に迷子になっていたこと間違いなしだ。


「お?」


 ちょうど一直線になった通路のかなり先に二足歩行で立っているモンスターが見えた。

【鷹の目】のおかげで視力の上がっている俺の視界にはそのモンスターの姿もハッキリと捉えている。


「あれがコボルトか……」


 このダンジョンに出てくるDランクのモンスターコボルト。


 コボルトはこのダンジョンの名前にもなっている通り、犬の頭をしている二足歩行のモンスターでその強靭な肉体と鋭い爪と牙で攻撃してくる。

 更に頭が犬なのもあって嗅覚と聴覚が鋭く、奇襲が効かない厄介な敵だ。

 あと、攻撃力と俊敏のステータス高くて単純に強い。


 このダンジョンが不人気な理由もそんなコボルトに先に気づかれて不意打ちされることがよくあるからだ。


 ただ、先に俺が気づけたのもあってコボルトはまだ俺に気づいてない。


「先手必勝……【捕捉】」


 俺はすぐに手帳を【アイテムボックス】に入れて背中に背負った弓を構えて【魔法矢】で作った矢を弓につがえる。


「シッ!」


 そして気づかれる前に射つ!

 空気を切り裂く音を響かせて飛んでいった矢は狙い通りにコボルトの首筋に命中す……ることはなかった。


「嘘ぉっ!?」


 なんと、俺の攻撃に気付いたコボルトは咄嵯に身を翻して回避したのだ。


「マジかよ……」


 あの距離からの攻撃を避けられると思わなかった……


 しかも、コボルトは首への攻撃を警戒してか頭を低くしてこちらに走り出してきている。


 けど……


「俺の攻撃は避けられねえよ」


 迫ってくるコボルトの後ろからさっき外れた矢が飛んでくる。


【捕捉】スキルで必中になった俺の攻撃は絶対に外れない。


 そのことに気づいてないコボルトの死角になってる後ろから首筋に矢が突き刺さる。


「ガッ……」


 矢が突き刺さったコボルトは短く声を上げると同時に動きを止める。


 まだ倒れないらしいけど最初から一発で倒せるとは考えてない。


 動きを止めたコボルトにもう一度矢を射つ。

 矢はコボルトの額に突き刺さり、今度こそコボルトは力尽きたのか膝をついて倒れた。


 ……よし。レベルは上がらなかったけどDランクのモンスターのコボルトには対応できた。

 それに【魔法矢】二回で倒せるのがわかったし考えられる限り最高の結果だ。


「う~ん。でも、やっぱりFランクやEランクモンスターの時みたいに一撃で倒したかったな」


 まあそれでも怪我なく二回で倒せたしそれでよし!


 俺はコボルトの魔石を回収してからまたボス部屋まで歩み出す。


 コボルトと遭遇したらまた同じ方法で倒して、消耗は最小限にしてボス部屋に辿り着いた。


「やっとついた……」


 ルート通りの最短距離だったけど、十五階層なだけあって結構時間がかかってしまった。


 だけど扉は開いてるしボス部屋の中には誰もいないな。

 まあ、不人気のところを選んでるんだからそうでないと困るんだけど。


 ……ふぅ……緊張するな。


 初めてのDランクダンジョンのボス討伐。

 しかもステータスが強化されたCランクのモンスター。


 正直、正面から戦ったら勝てないと思うけど俺の勝利条件は【捕捉】スキルを使ってからボス部屋から出ること。


「……よし!行くぞ!」


 自分に言い聞かせるようにそう言ってからボス部屋の中に足を踏み入れる。


 ボス部屋に入るといつも通り扉が勝手に閉まる。

 そしてそのまま先に進まず、今回はすぐにでもボス部屋の外に出られるように扉の近くに待機しておく。


 ボス部屋の中は巌窟のダンジョンと同じような広い空間が広がっている。

 違う点といえば明るさが自然な光じゃなくて壁に松明が掛けられて明るさが確保されているところぐらいか。


 そして、この犬頭のダンジョンのボスはハイコボルト。

 見た目はコボルトのままだけど、大きさはハイオークの半分ぐらいしかない。

 だけど、その分小回りが利いて素早い攻撃をしてくるモンスターだ。


 ボスとしてステータスも強化されてるからさらに手がつけられなくなっている。


「グォォォオオッ!」


「【鑑定】!【捕捉】!」


 ハイコボルトが雄叫びを響かせると同時、俺はすぐさま【捕捉】を発動して姿を捉える。


【鑑定】でHPを確認した結果も事前に調べた通りHPは1500だった。

 これで準備完了だ。


「シッ!」


 扉に下がりながら【魔法矢】で作った矢をハイコボルトに射つ。


 ハイコボルトはコボルトよりランクが高いだけあってスピードも速く、距離もあったから矢は当たらず一度は避けられるがまた戻ってきてハイコボルトの背中に突き刺さった。


 そしてハイコボルトのHPが1500から1320まで下がる。


「ダメージは180か」


【捕捉】もしたしダメージの確認もした。

 これならいけそうだ。


「ガァッ!!」


「ぐっ!?」


 しかし、ハイコボルトは俺の攻撃に怒り狂い、一瞬で距離を詰めてくると鋭い爪を振り下ろしてきた。

 それを咄嵯にバックステップで避けてそのままボス部屋の外に出る。


「……あっぶね~!」


 危なかった……今のはマジでやばかった。


 ギリギリで攻撃を避けたから良かったけど、あと少し反応が遅れていたら切り裂かれていた。


 強化されたハイコボルトの元々高い俊敏ステータス。

 それがとんでもない早さを生み出してる。


 俺もこのチートみたいなレベルアップをしてなかったら見えてなかったかもしれない。そんな相手だ。


「だけどこれで俺の勝ちだ!」


 どんなに早くても、どんなに強くてもボスである限り魔物暴走スタンピートにならない限りボス部屋から出ることはできない。

 つまり、俺を攻撃することはできない。


「さてと、んじゃさっさと終わらせますか」


 俺はまた背中に背負った弓を構えて【魔法矢】で矢を作って弓につがえる。

 そして扉に向かって弓を構えて弦を力を入れて引く。


 ギシッ


 弓から軋む音が聞こえてくる。

 今まで聞こえたことはなかったからレベルが上がってステータスも上昇したから弓が耐えきれなくなってきてるんだろう。


 自分に見合ったレベルの武器を使え。

 まさかそれを自分のレベルが足りないからじゃなくて武器の方が耐えられなくなりそうになって実感するとは思わなかった。


 まあ、すぐに対処できることでもないし気をつけながら使うとしよう。


「狙い良し……シッ!」


 狙う先は当然扉。

 扉の向こうにいるボスに向けて矢を射つ。


 射った矢は扉をすり抜けてボス部屋に入っていく。

 一回180ダメージなのを考えたらHPが1500のハイコボルトを倒すのにはそれではまだ足りない。


 そのまま続けて矢を射っていく。


 一回、二回、三回と休みなく射ち続ける。

 そして九回目。

 計算上これで終わり!


『レベルが15上がりました』

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