【捕捉】スキルの真価

 新しいスキルを手に入れた翌日。


 俺は早速昨日手に入れたスキルを試すために昨日と同じくオークが出てくるEランクダンジョンである巌窟がんくつのダンジョンに来ていた。


「ホッ!」


 適当にった透明な矢がオークの頭に突き刺さる。

 頭に透明な矢が突き刺さったオークは鳴き声もあげることなく膝から崩れ落ちた。


「おお、本当に狙った所に飛んでいくんだな」


【捕捉】スキルのおかげで毎回毎回、丁寧に時間をかけて狙いを付けなくても自動的に【魔法矢マナ・ボルト】で作った透明な矢がオークに向かって飛んでくれる。


「【捕捉】スキル……結構使えるな」


 今までは百発百中なんて事もなく、モンスターがどんな動きをするかもわからなかったからある程度距離を取って、動かれる前に【魔法矢マナ・ボルト】を放っていた。


 だけど【捕捉】があればその心配はない。

 常にモンスターの動きに合わせて矢が追尾してくれる。


 それに、動きながら射っても必ず当たるようになったしな。

 オークの振り回してる棍棒を避けながら射っても百発百中。


 だけど、少ししか使えてないけど【捕捉】スキルの有用性もわかった。


「これならいけるか?ボスのソロ討伐」


 俺は顎に手を当てて考えていく。

 今俺がいるのはEランクダンジョンだが、ダンジョンのボスというのはどのダンジョンでもそのダンジョンのランクの一つ上のランクのモンスターになっている。


 だからこの巌窟のダンジョンだと、EランクのダンジョンだからDランクのモンスターであるハイオークがボスだ。


 ハイオークはオークをもっと獣感を増して一回り大きくしたようなモンスターで防御力とHPがとんでもないことになってるボスモンスターだ。


 だけど同じDランクのモンスターでもボスだけあってか経験値もボスの方が断然多かったりする。

 勿論強さも普通のDランクのモンスターよりステータスが強化されてるから強い。


 というかあんな化け物耐久のモンスターが同じランクのダンジョンにうようよいてたまるか。


 そんな強化されたDランクのモンスターのボスがいる限られた空間で戦うにはソロだと、俺がずっと狙われるというのもあって矢を正確に当てられなかったから今まで断念してた。


「それでも今ならハイオークぐらいの攻撃なら避けられるし確実に俺の攻撃は当たるんだ。いけそうだよな……よし!そうと決まれば!」


 オークを倒した場所から歩みを進めてボス部屋を目指す。

魔法矢マナ・ボルト】を作る魔力を残すために一切戦闘せずにオークを見かけたら近づかずにハイオークのいるボス部屋まで一気に駆け抜ける。


「よしっ!着いた!」


 扉は……開いてるな。


 ここで扉が閉まってたら誰かがボスに挑んでるか戦闘の途中でボス部屋から離脱してボスが受けたダメージを回復してる最中、またはボスが倒されて1分経っていなくてまだ再出現リポップされていないという事になる。


 まあ、開いてるなら好都合。


「よーし……行くぞ!」


 俺は勢いよく部屋に飛び込み、後ろで扉が閉まる音を聞きながらすぐに【魔法矢マナ・ボルト】を構える。

 ハイオークはオークに長い毛が生えて、牙が大きく、長くなったようなモンスターだ。

 その大きさはだいたい5メートルぐらいでHP、攻撃力、防御力のステータスが高いTHE・脳筋といったようなモンスターになっている。


「シッ!」


 そして、ハイオークを視界に捉えてからすぐに【捕捉】スキルを使って【魔法矢マナ・ボルト】で作り出した透明な矢を弓につがえてハイオークに向けて射つ。


「ブモォオオオ!!」


 矢は真っ直ぐにハイオークの顔面めがけて飛んでいき、直撃した。


 だけど、油断しないでそのまま移動し続けて矢を射ち続ける。


 ただ、普通のDランクのモンスターならまだしも、ボスになってステータスが強化されてるハイオークは数撃与えただけでは倒れてくれなかった。


「ブモァァァアアッ!」


「まあ……そうだよな……」


 俺が攻撃している間にハイオークも反撃しようと棍棒を振り回してきたり、腕を振るったりしてくるがそれをこれまでのソロとしての活動を存分に活かして避けながら矢を射っていく。

 射った矢が刺さることはないけど、それでも十分ダメージを与えていきハイオークに傷をつける。


「……ッ!」


 そうやって避けながら矢を射って九回目。

 ようやくハイオークの身体に異変が現れた。


「ふぅ……やっとか」


 やっとハイオークの身体に大きな傷が目立ち始めて息も切れ始めた。


 やっぱり今までのEランクのモンスターとは文字通り格が違うな……


「ブモァァァアアッ!」


 すると、ハイオークは雄叫びを上げながらさっきよりも大きく棍棒をめちゃくちゃに振り回しながら俺に向かって突進してくる。


「おっと」


 それを避けるために弓に透明な矢をつがえながらバックステップで距離を取る。


「……あっ……」


 だけどこの時俺は失敗を悟る。


 まず、俺は突進してきたハイオークから距離を取るためにかなり力を入れてバックステップをした。

 そして、俺がバックステップした場所は扉の近くだったわけで……


 Q.扉の近くで思いっきり後ろに下がったらどうなるでしょう?





 A.扉が開いてボス部屋の外に出ます。


「……嘘だろぉぉぉおお!!?ぐへぇっ!」


 扉が開いて、バックステップをした勢いのまま俺の身体はボス部屋の外に転がっていく。


 待って!ボス部屋から出るのはまずい!


 ボス部屋から出た瞬間にボスは倒したものとしてカウントされず、ボスのHPが回復するまで扉が閉まって開かなくなってしまう。

 そうなるとまた一からやり直しになってしまう。


 それだけは絶対に嫌だ!!


「くそっ!」


 俺は慌てて体勢を立て直してゆっくりと閉まっていっている扉に急いで入ろうとする。


 しかし、時すでに遅し。


 扉は無情にも完全に閉まりきってしまった。


「やらかしたぁ……」


 せっかくあそこまで戦えてたのに……

 初めてのボスソロ討伐の挑戦だったから慎重に行き過ぎたのか。


 ステータスを開いてMPを確認すると消費していたMPは180。

 つまり九回ハイオークに【魔法矢マナ・ボルト】を当ててたことになる。


 それであれだけボロボロだったってことは……


「本当にあと一回、二回ぐらい当ててれば倒せてたんだなぁ」


 まあ、やらかしてしまった事は仕方がない。


「ここは一旦休んでもう一回……うん?なんだこれ?」


 なにか視界と感覚がおかしい。

 視界は意識してないのに自然と扉に向けられるし、扉の向こうに何か繋がってるような感じもする。


 本当になんだこれ?

 こんな感覚今までの探索者生活で初めてのことだ。


「……初めて?もしかして!」


 俺はその不思議な感覚を確かめるためにその辺に落ちていたただの石を手に取り扉に向かって投げる。


 普通だったらただ投げただけだから扉に当たって地面に落ちる筈だ。

 だけど俺の予想が正しかったら……


「ッ!やっぱり!」


 俺の予想通り投げた石は地面に落ちることなく扉に向かってまるで磁石を使ってるかのように扉にくっついて、物理法則を無視している。


「そうか!ここでも【捕捉】の必中効果が発揮されてるんだ!」


 今投げた石も俺がハイオークに遠距離攻撃をしたって判定になってて必中だけど扉に遮られて物理的にそれ以上進めないから扉にくっついているのか!


 だけどそういうことなら!


 俺は思い付いた事を試すために【魔法矢マナ・ボルト】で透明な矢を作り出して弓につがえる。


 俺のユニークスキル【魔法矢マナ・ボルト】は魔法のように火や風に変換しないでそのままのMP、つまりダンジョンの空気中を漂っている魔素と同じものを使って矢を作り出すことができるものだ。

 その性質もあって【魔法矢マナ・ボルト】で作り出した矢は実体を持たない。


 これは以前オークが防御に使った棍棒をすり抜けてオークに当たった事があって、そこで確認済みだ。

 当たるなと念じたら生物は無理でも無機物はすり抜けてくれるんだからありがたいよ。


「よし……シッ!」


 そして扉に向かって透明な矢を射つ。

 俺の射った矢は扉をすり抜けてボス部屋の中に飛んでいく。


「……どうだ……」


『レベルが3上がりました』


「……!」


 レベルが上がったシステム音が聞こえてきたのを確認してさっきまで扉についていた石が地面に落ちたことも確認する。

 そして、少し緊張しながら扉を見つめていると扉がゆっくりと開き始める。


「やった!成功だ!」


 ボス部屋の中を覗くと透明な矢が胸に突き刺さっているハイオークの死体がそこにあった。


「……!よっしゃぁああ!」


 俺は力強くガッツポーズをする。


 初めてだ!初めてボスをソロ討伐したんだ!

 案内人ってバカにされてた俺が!

 しかも絶対に他の人には出来ないような方法で!


 それにソロ討伐だったから経験値もうまい!レベルが一気に3も上がった!


「これはもしかしたらもっと上のランクのダンジョンでも通用するんじゃないのか!?」


 ヤバい!夢が膨らんでくるぞ!


 だけど普通の人よりも安全に早く強くなれるのは間違いなさそうだ。

 MPを考えるとあともう一回挑戦できそうだな。


「じゃあ死体を回収して……と」


 ハイオークの死体を【アイテムボックス】で回収してボス部屋から出る。


「よーし!さっきのを利用してもう一回だ!」


 俺は気合いを入れ直してもう一度ハイオークに挑む為に一分待ってから扉の開いたボス部屋に入るのだった。

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