【書籍化・8月30日1巻発売予定】必中のダンジョン探索~必中なので安全圏からペチペチ矢を射ってレベルアップ~

からから米

第一章

新しい力

 この世界にゲームみたいなダンジョンが出来るようになってから二十年。


 ダンジョンが出来てから、最初は混乱に混乱を極めて、世界のいろんな機関がてんやわんやだったらしい。


 だけど、人は順応する生き物であり、頑張ればなんとかなる生き物で俺が一歳になった十九年前。


 つまり一年で世界ダンジョン条約なんてものが出来てたり、俺の住んでる日本でも法令ができたりなんかした。


 そして、一般人もステータスとスキルを手に入れられ、ダンジョンに入れるようになったことで小さな魔石一個が当時の値段で百万を超える事から、一攫千金の夢を見た人が溢れかえった。


 だけど、それもダンジョンの中で命を落とす人が増えた事で落ち着いたけど。


 まあ、それでも毎年何万人という新規の探索者がダンジョンに入っては新規じゃない探索者も含めてちょくちょく死んでいってるんだけどダンジョンに潜る探索者が減る事はない。


 それが今のダンジョン。


 それが今の世界だ。


 ***


「……」


 集中する。


 だいたい20メートル先のオークの頭を狙って弓に透明な矢をつがえる。


「フッ!」


 俺は弓につがえた透明な矢を射ち放つ。


 放たれた矢はぐんぐんと飛んでいき、遠く離れたオークの頭に突き刺さってオークは体液を流しながら膝から崩れ落ちる。


『レベルが1上がりました』


「……ふぅ」


 脳内にレベルが上がった事を知らせるシステム音が聞こえたのを確認してから一息ついて弓を下ろす。


 倒した魔物の数はさっきのでようやく三十匹目。


 一応これで今日の目標のノルマは達成かな?


「ステータス」


 倒したオークから魔石を取り出す前にレベルが上がった事で上がったであろうステータスを確認するためにステータスを開く。


 ------


 天宮あまみやかえで

 レベル78

 HP:780/800 MP:125/410

 攻撃力:150(+52)

 防御力:100(+12)

 俊 敏:150(+57)

 器 用:250(+147)

 精神力:200(+117)

 幸 運:50

 BP:5

 SP:50

 スキル:【魔法矢マナ・ボルトLv.9】【弓術Lv.5】【鷹の目Lv.2】【アイテムボックスLv.1】


 ------


 よし、ちゃんとステータスは上がってるな。


 基本的にステータスは1レベル上がるごとにHPが10とMPが5、それに幸運を除いた各ステータスが1ずつ上昇していく。

 上昇量は微妙だけど、俺達みたいなダンジョンに潜ってる探索者からしたらかなり重要な事だ。


 ……それにしても。


「レベルが上がりにくくなってきたな……一年もかけてまだ78か……」


 既にダンジョンに潜って一年。

 十八歳の誕生日にステータスを確認出来るようになって目にしたのは、【魔法矢マナ・ボルト】という調べてもまったく情報のなかったいわゆるユニークスキルと呼ばれていたスキル。


 これに興奮した俺は高校在学中に二ヶ月の講習を受けて探索者の資格を得た後、すぐにダンジョンに入った。


 ユニークスキル持ちってことでめちゃくちゃ期待されてたし、俺も世界トップレベルの万込えのレベルに到達できるんじゃないかって期待していた……けど、そんな簡単にはいかない。


 まず、俺のユニークスキル【魔法矢マナ・ボルト】は現時点でこんな感じだ。



魔法矢マナ・ボルトLv.9】

 ・消費MP:20

 ・魔力を消費して魔法の矢を生成する。

 ・矢自体の強度、攻撃力は精神力のステータス×0.5。



 俺の【魔法矢マナ・ボルト】は説明の通り、魔力を消費して魔法の矢を作るだけ・・のスキルだ。


 ……そう、だけなんだよ……


 特に、勝手にモンスターに飛んでいったりしない。

 その辺は勝手に飛んでいかないから【魔法矢マナ・ボルト】で作った透明な矢を弓につがえ撃つ。

 これじゃあ普通の弓矢と同じだ。


 飛距離だって伸ばすには攻撃力のステータスが必要だし、当てるには【弓術】のスキルや技術のステータスが必要になってくる。


 それなら探索者協会を経由して国に許可を取って近距離でショットガンを撃ってる方が強いし、倒すのも早い。


 それに、ステータスを上昇させるBPも他の人みたいに攻撃力と俊敏のステータスに振ったり、防御力と技術のステータスに振ってダメージディーラーになったりタンクになったりといった特化した強化ができない。


 飛距離を伸ばすために攻撃力、矢を当てるために技術、【魔法矢マナ・ボルト】の強度と威力を上げるための精神力。

 そんな感じで俺の場合複数のステータスを上げなきゃいけないからいわゆる器用貧乏になってしまう。


 それでも【魔法矢マナ・ボルト】自体に攻撃力があるからまだ普通の弓よりは攻撃力が高い。

 まあ、その普通の弓も弓を使うぐらいなら銃を使った方が強いから俺以外弓を使ってる人を見たこともないけど。


「だからと言って今さら変えるわけにもいかないしな~……」


 だけどこのまま俺が資格を取った時の同期との差は開くばかりだし……

 俺の【魔法矢マナ・ボルト】が使えないってわかった瞬間みんな離れていったし、器用貧乏なステータスのせいで同期と組んだパーティーについて行けなくてクビにもなった。


 その時はめちゃくちゃ悔しくて、めちゃくちゃ悲しくて、めちゃくちゃ泣いて枕を濡らしてしまったけど、今ではもう気にしてない。

 なんか泣きすぎて溜まっていたものを全部だしたからか特に気にせず次の日からダンジョンに潜れたし。


 だけど、やっぱりパーティーの方が色々と効率がいいのもあってその後も何回か新しく探索者になったパーティーに入れてもらったりした。


 だけどやっぱりBPの割り振りが中途半端だとやっぱりついていけなくなってF~SランクまであるDランクまでしかついて行けなくて、そこからはこのEランクダンジョンでソロで活動してる。

 しばらく時間が経つと、Eランクダンジョンに一人で入った方が新しく探索者になったパーティーに入るよりも効率が良かったのもあった。


 それでもちょくちょく初心者パーティーにFランクダンジョンでダンジョンについての注意事項なんかも教えたりしてたんだけど……


「それでついたあだ名が案内役ナビゲーターって?……笑えないな……」


 本当に笑えない。

 このあだ名のせいでレベルが上がってDランクダンジョンのボスに通用するようなステータスになってから、ボスに挑戦するために俺をパーティーに入れてくれるパーティーを探しても見つからないし。

 まあ、探索者協会の人達には信用してもらってるからそこは良いのか?


「まあ、いいさ!このまま俺は俺なりに強くなってやる!」


 どうせ俺が強くなるためにはダンジョンに潜り続けるしかないんだから。

 高卒で社会に出ずにダンジョンに潜り始めたから俺が入れる会社だと今の俺より低い給料だし、高くても調べたらしっかりブラックだったりするしな!


「よしっ!じゃあせっかくここまでSPを貯めたんだ!【魔法矢マナ・ボルト】のスキルレベルを上げよう!」


 俺は気を取り直してからステータスにある【魔法矢マナ・ボルト】にSPを割り振ってレベルを上げる。


魔法矢マナ・ボルトのスキルレベルが上がりました』


 よし……これで貯めてきた10レベル分のSPがすっからかんだけど【魔法矢マナ・ボルト】のスキルレベルが10になる。


 今までのレベルアップでは同時に作れる数が増えたり、消費MPが減ったり矢の強度と攻撃力の倍率が上がったりしただけだったけど今回は違うはずだ。

 総じてユニークスキルというのはスキルレベルが10、20、30、40、50といったように10の倍数で新しく効果が増えることが多い。


 そして今レベルが上がった【魔法矢マナ・ボルト】はスキルレベルが10。きっとスキルに新しい効果が増えてるはず。


「……さて……どうなっているか……」


 これの結果によって俺のこれからが決まってくる。

 これからのダンジョンに潜るのが楽になるのか、それとも言っちゃ悪いけど使えないような効果が増えるのか……


 今までの苦労が吹き飛ばされるような効果が付いてたら良いけど。

 というかここまで頑張って何も無かったら泣く。

 大人一歩手前の男が恥も外聞も気にせず泣くぞ?


 俺は恐る恐る【魔法矢マナ・ボルト】の説明を確認する。


「…………おー!新しい効果が……うん?」


 ------


魔法矢マナ・ボルトLv.10】

 ・消費MP:20

 ・魔力を消費して魔法の矢を生成する。

 ・矢自体の強度、攻撃力は精神力のステータス×0.5。

 ・【捕捉ロックオン】スキル強制取得。


 ------


 ……これだけ?

 まあ、ユニークスキルがレベルアップしてスキルを新しく手に入れられるなんて聞いたことないけど?


 えっと、詳細は……


 ------


【捕捉Lv.1】

 ・視認した対象への遠距離攻撃が必中する。


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 いや、確かにすごい効果だと思うけど……なんかショボくない?

【捕捉】の説明を見る限り、遠距離攻撃が必中らしいから俺の場合は射った矢が必ず当たるってことになるけど……

 え?本当にこれだけ?


 てか攻撃力がめちゃくちゃ強くなったりとか、消費MPが無くなったり、何か強力な効果が付いてたりするんじゃないのか!?

魔法矢マナ・ボルト】自体は何も変わってないじゃん!


魔法矢マナ・ボルトが必ず当たるようになったのは嬉しいんだけどさ……」


 でも、なんだろうこのガッカリ感は……


「はぁ……」


 まあ、でも良いや。


 これからは新しく手に入れたスキルに期待する事にしよう。なんかもう今日は疲れたわ。


 そんな期待をしながら俺はオークから魔石を取り出してからダンジョンを出るために出口に向かって歩き出すのだった。

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