Fランクダンジョン

 あの後、再出現リポップしたハイオークを【捕捉】スキルを使ってボス部屋の外からペチペチ【魔法矢】を射ち続けて一方的に倒した俺は死体を換金してきて誰もいない家に帰ってきた。


「ふぅ〜疲れた〜」


 家に入ってすぐにリビングのソファーに行きソファーに転がる。


 今日はなんか色々ありすぎて身体も頭もくたくただ。

 正直このまま寝ちゃいたい。


「だけどまだやりたい事があるんだよな」


 そう呟いてから【アイテムボックス】からスマホを取り出す。


 調べるのはFランクのダンジョン。

 そして出てくる複数のランクのFダンジョンについての情報と動画サイトのPoutubeに投稿されているFランクダンジョンの攻略!やモンスターの倒しかた!といったタイトルの動画だ。


 この二つは俺が強くなるために必要な知識であり、情報でもある。

 特にモンスターの倒し方に関してはソロで戦う上で一番重要なことだからな。


「……さて、どのダンジョンにするかな」


 こうして俺がさっきまで潜ってた巌窟のダンジョンみたいなEランクのダンジョンじゃなくてFランクのダンジョンについて調べているのにももちろん理由がある。


「ステータス」


 ------


 天宮楓

 レベル84

 HP:860/860 MP:440/440

 攻撃力:156(+52)

 防御力:106(+12)

 俊 敏:156(+57)

 器 用:256(+147)

 精神力:241(+152)

 幸 運:50

 BP:0

 SP:30

 スキル:【魔法矢Lv.10】【弓術Lv.5】【鷹の目Lv.2】【アイテムボックスLv.1】【捕捉Lv.1】


 ------


 開いたステータスを確認する。

 確認する項目はMP。


 俺の現在のMPが440。


 そして【魔法矢】で一回に使うMPは20。だからMPを全部使うとしても二十二回【魔法矢】を使う事ができる。

 対して、一体のハイオークに使う【魔法矢】を使う回数が約十回。


 これは後頭部や首、心臓のある左胸なんかのハイオークの弱点に当たればダメージが増えるから変わるけどそれでも一回変わるか?といった感じだ。

 つまり何が言いたいかというと。


「いくら一方的にハイオークを倒せるとは言え二体だけじゃあなぁ」


 という事だ。


 ……圧倒的にMPが足りない!


 いくら防御力と体力のステータスが高いハイオークとはいえ【魔法矢】を十回当てないと倒せないなんて流石に効率が悪すぎる。

 MPも一時間で60ぐらいしか回復しないから一回MPが尽きたら約四時間経たないとハイオークを倒せない。


 それだと一日ダンジョンにいるとしてもだいたい五匹ぐらいしか倒せない計算になる。


 それは流石に勘弁してほしいから確実に防御力がEランクのダンジョンより低いだろう一つランクを落としたFランクのダンジョンに行こうと思ったわけだ。


 そんなことでしばらくスマホの画面をスクロールして良さそうなダンジョンを探していく。


 ……お、このダンジョン良さそうだな。


「……よし!決めた!」


 ***


 翌日。


「ここが湿地のダンジョンか」


 俺は家から電車で三駅ほど離れた所にある湿地のダンジョンに来ていた。


 このダンジョンは俺が今まで行ったことのある巌窟のダンジョンのような洞窟型のダンジョンではなく、ダンジョンの名前通り湿地が広がっているダンジョンだ。

 そして、湿地なのと出てくるモンスターもあってかなり不人気のダンジョンになっている。


 その証拠として日曜日の十時という一番ダンジョンに人が来る時間のはずなのに人が一人も見当たらない。


「まぁそんなことはどうでもいいや。俺としては好都合だからな」


 周りに人がいないって事は俺が変なことしてもバレないって事だし。

 これならボスをしばらく占領しても文句を言う奴はいないだろう。


「よーし!そうと決まれば早速行くぞ!」


 俺は意気揚々とダンジョンの中に入る。


 ちなみに装備は昨日と同じ物で、武器はその辺に売っている木製の弓。それに左胸を守る革鎧。

 こんな感じだ。


 後は革の籠手と脚甲があるけどあいつらはここでの戦いについてこれそうにないから置いてきた。

 まあ、あっても今回のモンスターには一切役に立たなそうだっただけなんだけどな。


 そんなこんなで湿地のダンジョン一階層ーー


「え~っとボス部屋は確か……」


 ーーは無視!


 ボス部屋にたどり着くまでに出てくるモンスターは全てスルーだ!


 今回の目的はボスだからボス部屋を見つけたらそこで【捕捉】を使ってハイオークと同じようにボスだけをペチペチ射つだけでいいんだからわざわざボス以外と戦う必要は無い。

 というかこのダンジョンはモンスターと戦う意味が無かったりする。


「ボス部屋までのルートはPoutubeで調べてきてあるしな」


 一応昨日のうちに湿地のダンジョンのボス部屋までのルートは調べておいたからボス部屋まで迷わず進める。

 流石にダンジョンの中まで電波は飛んでないからスマホは使えないからルートの再確認は出来ないけど大丈夫でしょ。

 ……大丈夫でしょ!






「……って言ってるとうまくいかないもんだよねぇ……」


 俺は階段の前にいるスライムを見てため息をつく。


 今俺がいるのは二階層。

 そして、ボス部屋のある三階層に降りるための階段の前。

 その階段を通さんと言わんばかりにスライムがプルプルしながら階段の前に陣取っていた。


 スライムには自我はないらしいから本当に偶然なんだろうけど。


「まあいいや。さっさと倒すか」


 Poutubeやネットで調べた通りだったらスライムは核になってる魔石があるはずなんだけど……


「あ、あれか」


 お腹辺り?かな。そこをよく見ると丸い球体があった。


 あれが魔石だな。あれを壊せばそれだけでスライムは倒せるはずだ。


「それじゃあ遠慮なく」


 そうして俺は【魔法矢】で透明な矢を作って弓を構える。


「【捕捉】」


 狙うのはあの丸い球体。


「シッ!」


 短く鋭く声を出して矢を放つ。


 矢は真っ直ぐに球体に向かっていき、球体に命中した。

 矢が命中した球体が砕けると、スライムもプルプルとした形を崩してただの液体になる。

 そしてそのまま地面に液体が広がって湿地の水と混ざっていく。


「おお……こうなるのか」


 魔石である核を破壊して倒したから魔石は回収できない。回収できるのはこの液体だけだ。

 まあ、湿地の水と混ざっちゃったから回収も糞もないな。


「まあ、今回は回収する必要はないからいいか」


 これがスライムの死体を集める依頼クエストだったらブチギレる自信があるけどな。


 そしてそのまま俺は次の階に行くために階段を降りていく。


 次の階層は三階層。

 情報通りならこの階層がボス部屋のはずなんだけど……


「お、あったあった」


 階段から少し歩くと大きな扉があった。

 ここは二階層までの湿地じゃなくて洞窟型のダンジョンと同じように洞窟のような感じになってる。


 うん、間違いなさそうだ。

 他のダンジョンと同じような扉があるしここがボス部屋だな。


 よし。さっきのスライムみたいに俺の侵入を阻むようなモンスターはいないしサクッと入りますかね。


 俺はゆっくりと扉の開いているボス部屋に入る。


 中に入るとそこはこれまでと同じように湿地になっていて空気はじめじめしていて地面は水浸し。

 あちこちに水溜まりがあって沼もいくつかある。


 だけどボス部屋だというのにどこにもボスの姿は見えない。


「知ってはいたけど確かにこれは不人気になるわ」


 俺は今回不人気のダンジョンを選んだけど、このダンジョンが不人気な理由がまさにこれだ。


 この湿地のダンジョンはその名の通り湿地のような環境になっているから足下が悪く空気もじめじめしている。

 それに加えてちょくちょくスライムが水溜まりや沼から襲いかかってくるかららしい。


 それでスライムには自我がないっていうんだからおかしいだろ……絶対狙ってる。


 それはこの湿地のダンジョンのボスであるメガスライムも例外ではないらしいけど……


「ま、俺には通用しないんだけどな【捕捉】」


 確かに今はメガスライムの姿が見えないけど俺の【捕捉】からは逃れられない。


「見つけた!」


 俺の視線が自然と右斜め方向の沼に向く。


 距離は目測で50メートルぐらいか?

【捕捉】スキルを手に入れる前の俺なら外すこともあっただろうけど今の俺なら十分当てられる距離だな。


「シッ!」


 俺はまた短く鋭く声を出しながら矢を射つ。

 射たれた矢は一直線に沼に向かい、沼に沈んでいく。


 これでメガスライムの核に当たってくれてたら楽なんだけど。


「……まあ、そんな簡単にはいかないか」


 俺がそう呟いた瞬間。


 ボコォン! と音を立てて水面が盛り上がった。

 盛り上がってきたのはもちろん俺の矢が沼に沈んでいった場所。


「でっか……」


 そこにはスライムがそのまま大きくなったかのような巨大なスライムがいた。

 実際には初めてみるけど大きさはだいたい5メートルぐらいはあるか。


「【捕捉】……よし。それじゃあ……逃げるんだよぉ!」


 俺はそう叫ぶと同時にその場から全力で走り出す。

 正面からやりあっても負けないだろうけど、やっぱり安全圏で攻撃できるならそれに越したことはない。

 もうメガスライムの核は確認したし逃げても問題なし!

 ボス部屋の外に出れれば俺の無条件勝利だ。


 まあ俺の俊敏ステータスに対してメガスライムはそこまで移動速度が速いわけじゃないからそのまま扉まで行ってボス部屋から脱出する。


 俺が出るとすぐに開いていた扉は俺の射った【魔法矢】一回分のダメージを回復させるために扉は閉まった。


「よし!作戦成功!」


 ボス部屋から逃げ出せればこっちのものだ。

 俺はまた【魔法矢】で透明な矢を作り出して弓につがえる。


 後は扉の方を狙ってーー


「シッ!」


 ーー射つ!


 ヒュンという風切り音を鳴らしながら飛んで行った矢は狙い通りに扉に向かう。

 そしてそのまま矢は扉をすり抜けてボス部屋の中に入っていく。


『レベルが1上がりました』


「……よし!」


 レベルアップの通知音が聞こえてきたってことはしっかりスライムの核に矢が当たったか。


 それにしてもやっぱり細かいところも狙えるのか。

 逃げる前に核を【捕捉】しといたけど一撃だから効果はあったっぽいな。


 そして、レベルアップの通知音と共にボス部屋の扉が開いていく。


 まあ今回、魔石は核になってて破壊しちゃったから回収は出来ないし、死体はあの液体だし必要ないからまた再出現リポップするまでボス部屋には入らないんだけど。


「それにしても二回か」


 メガスライム一体につき【魔法矢】を使ったのは二回。

 誘き出すのに一回、仕留めるのに一回使っただけ。


 つまり、今の俺なら後二十二回メガスライムを倒せるな。

 いや、自然回復するMPを考えるともうちょっといけるか?


「これならレベルはどのぐらいあがるかな」


 そんなことを期待しながら俺はまた扉の開いたボス部屋に入ってボスに挑むのだった。

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