第36話 「ついでに俺も忠誠誓わせてくれ。今度ギャンブル行くときあたりで」
「次の道は右! その二つ先の角は左です! そのスイッチは押さないで下さい」
ルカちゃんの声が洞窟内に響く。
「うっ、うん」
「わ、分かった~」
私達は素直に彼の言葉に従っていた。
ご覧の通り例の部屋を出た後も、ルカちゃんの無敵モードは続いていた。
まるで千里眼でもあるかのようなテキパキとした指示。
おかげで私達は次々と先を進んでいく。師匠があれだけ注意しろと言っていた罠に遭遇することは全く無かった。
「ねー、ノノアちゃん」
背後から服の裾が軽く引かれる。
振り向くと、ララがひそひそと私の耳元で囁いた。
「ルカちゃんの占いって、いつもこんな感じだったっけ?」
「いや……ここまで凄くはなかったような」
「明らかにパワーアップしてるよね」
「してるね」
私は再び前を見つめた。
ルカちゃんの頼もしい後ろ姿がどんどん遠ざかっていく。やっぱり迷いが一つも無い。
「なんでかな?」
「さあ? 私に聞かれても分からないよ」
「やっぱり愛の力?」
「いや、愛の力って」
なんでそうなる。
扉の開錠ならともかく、それのおかげで力がパワーアップなんて話、聞いた事がない。
得意げに結論を出した彼女の顔を見ながら、私は淡々と答えた。
「さすがに違うと思うよ」
「そうかなぁ」
「そうそう」
大体、愛でパワーアップできるなら、辛い練習とか修行がいらなくなっちゃうだろうに。そんなの知ってれば、私が真っ先に飛びつく。
「ね。そうですよね、師匠?」
私は同意を求め、少しだけ前を歩いている男に問いかけた。ちなみに彼こそが、私に辛い修行を課した張本人であることは言うまでも無い。
「……」
「……あれ、師匠?」
期待とは裏腹、すぐに師匠から返事が来ることはなかった。
「んん? もーしもーし?」
師匠の目の前で手を二、三度振りかざしてみる。
「……愛の力って表現すんのかは知らねーけど」
「あ、やっと返ってきた」
ようやく返ってきた反応に、私は少しだけ安堵した。
とはいえ随分煮え切らない答えである。
けどってなんだ、けどって。
「アイツがパワーアップしたのは、十中八九お前が原因だろうな」
「え……?」
私のせい?
私、何もしてないけど。
「思い出せ。アイツはお前に何をした?」
「何をしたって、そりゃあ……ちゅ」
「チューした!」
「……」
「え~ん、ノノアちゃんにスルーされたぁー!」
スルーしますよ、そりゃ。
「……忠誠、ですかね?」
私はあの出来事に位置付けるのに相応しいと思われる名前を答えた。その言葉に師匠も頷く。
「そう、言うなれば忠誠。しかも相手は仮にも聖女だ。つまりさ、アイツはいつも以上の奇跡的な加護が得られてもおかしくないんだよ」
「へぇーなるほど…………何それ、怖い」
そんな現象、今の今まで知らなかったんだけど。
びっくりするから、後付け設定とかやめてほしい。
「そう言うなって。おかげでこんなにサクサク探索進んでるんだから」
「それはそうかもしれませんが」
なんだろう、この未知の力に遭遇してしまったモヤモヤ感は。
「ふーん、でもルカちゃんはその事を知らないで忠誠を誓ったわけだよね?」
「ま、そうだね」
「扉を開けるためにサッとあんな行動出来ちゃうの、意外性があってカッコいいかも!」
ララが目を輝かせて言った。
まあ、意外性はあったよね。
「それにノノアちゃんも凄かったんだね!」
「私?」
「うん。だって一緒に旅してた時は、そんな力知らなかったもん。ずっとにこにこお祈りだけする子なんだと思ってた!」
その認識は合ってる。
あの頃の私は、形だけお祈りして当たり障りなく旅していたから。
「私、今の二人の方が一緒にいて楽しいな!」
それは飾り気の無い本当に真っ直ぐな言葉だった。
「ねえノノアちゃん」
「ん?」
「私もいつか忠誠誓ってみたい!」
「別に構わないけど」
でもそれは、アルスへの愛を超えることを意味する。
今の彼女に出来るとは到底思えない。
しかし私はその言葉を口にするのはやめた。
「いいねえ」
師匠が便乗する。
「ついでに俺も忠誠誓わせてくれ。今度ギャンブル行くときあたりで」
「絶対嫌です」
私をラッキーアイテム代わりに使う人はお断りだ。
===
「……とりあえず、ルカちゃんの力は今強力になってるってことで、このまま彼を頼りにすれば、例のアイテムにたどり着けるって事でいいんですね?」
私は気を取り直して訊ねた。
「たぶんな。つーかあれだ、もう着いたみたいだぞ」
「えっ、どうして分かっ……」
「みーなーさーんーおーそーいーでーすー」
それはルカちゃんの声だった。
先に進んだ洞窟の奥から、彼の不満そうな声とその姿が見えてくる。ずかずかと急かすように彼は私達の元へと引き返してきた。
「もしかして例の物が……」
「はい、ありました。間違いありません、僕の占いによるとアレがノノアさんの新しい武器、聖なる杖のはずです」
いつの間にかしっかりそれっぽい名前まで付いてる。
「案内しますから、こっちに一緒に来てください」
「あ、うん」
私達は彼に誘導されるまま、目的の場所へと足を踏み入れたのだった。
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