第34話 男に貢ぐ系女子は恋バナが好き

  

「って感じでーララは大好きな勇者君のために、レアな武器を求めてダンジョンに潜ってるんだー」

「そ、そうなの」


 突然出会ったかつての仲間。

 私はとりあえずララの現状について訊ねていた。


 まさかアルスと一緒にいないと思ったら、こんな場所まで一人で探索しに来てたとは。

 確かに彼女は昔から、レアなアイテム発見に長けていた。珍しい武器や素材を見つけては、アルスに貢いでいたのである。

 どうしてかって?


「これで次こそアルスは私と結婚するんだから!」


 このためである。

 普段から色んなものをプレゼントしていたのは知っていたけど、この事情とアルスの浮気を見てしまった後は、より生々しい気持ちになる。


「ね、ねえララ」

「ん? なーに?」

「アルスの事なんだけど、やめた方がいいと思うよ」


 私は思い切って提案した。

 彼女は自由奔放なだけで、決して悪意はない。出来る事なら穏便に、傷が浅いうちに教えてあげたいと思った。


「え、どうして?」

「実はアルスは既婚者だから」

「きこんしゃ?」


 私の言葉にララは目を丸くした。やはり知らなかったのだろう。

 彼女を傷つけるのは忍びないが、私は更に言葉を続けた。


「しかも他の仲間の子ともいい感じになってるの。アイツは奥さんがいるにも関わらず、誰にでも手を出すような最低男なんだよ」

 

 まるで私は諭すように彼女の両肩を押さえた。

 これでもしアルスがララに嫌われても心は痛まない。

 しかしララに関していえば、厳しい現実を聞いてしまったことで、心を痛めたかもしれない。そこは本当に申し訳ないと思った。


「そっか」


 ララは俯いてぽつりと呟いた。


「でも」


 ん?


「私の愛が大きいって分かれば、きっと私の方を選んでくれるもんね!!」


 んんん???

 頭の中がフリーズした。何故? どうして? それでいいの? 浮気とか奥さんとか別にして、愛が大きければ構わないって、ララはそう思ってるの?

 うーん、これは種族による感性の違いなんだろうか……。下手なことは言うもんじゃ無いと反省したその時だった。


「ねえねえ、ところでノノアちゃんはさ」

「何?」


 ララがぴたりと身を寄せる。

 そしてささやくように、ひそりと告げた。


「ルカ君とあの神父さん、どっちが本命の人なの?」

「!?」


 思わずむせりそうになった。

 だってあまりにも想定外の質問だったから。本命ってなんですか。


「ほ、本命って……そんなの無いけど?」

「またまたぁ。女の子一人の探索に男の人がついてくる。そんなの恋が絡むに決まってるじゃん!」

「決まってないよ!?」

「えー、絶対嘘。いいなあ、私も本当ならアルスと来たかったなー。でもサプライズプレゼントだもん、仕方ないよね!」

 

 そう言って、ララは小さく気合いを入れた。

 駄目だ、感性が全っ然私と違う。

 カトりんが嘆いていたのも分かる気がする。


「じゃあ分かった。このダンジョンを抜け出す前に、ノノアちゃんの本命見つけよーっと」


 いや、たぶんそれ、仮に一生かけても見つからないと思う。


「おいノノア」

「あ、師匠」


 ちょうどタイミング良く、周辺を探りに行っていた師匠とルカちゃんが戻ってきた。ここは頭を切り替えよう。


「どうでした?」

「駄目だ、全然。どこ探っても全部壁。謎の力で完全に塞がってやがる。唯一外に出れるとしたら、やっぱりこいつしか無いかもな……」


 師匠は黙って隣を見つめる。


【この扉を開けたければ、二人の愛を証明せよ】


 扉の上にはハッキリとそう文字が記載がされていた。


「キッツイなぁ」

「この部屋作ったやつは、相当に暇人なんだろうな」

「ですね……」


 呆れる私達。

 その中で一人、イキイキとしている彼女。


「ふふふ、さっそく本命当てクイズの答えがわかっちゃうかもね」


 ララはニヤリと楽しそうに笑っていた。

 いやいや。

 私はため息をついた。


 だって今は違うでしょ。今はこの状況を楽しむ場面じゃない。それよりも、どうやって脱出するか迷う場面で……なんて、彼女に言っても無駄か。


「はあ」


 私は深く二度目のため息をついた。

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