第4話 チョロいと噂のパーティ勧誘方法

 

 思い立ったら即実行。

 私達はその日のうちに、バロワー家に潜入することに決めた。だってさっき倒した男が目覚めたら面倒なことになるものね。


「どうぞ、こちらです」

「ありがとう。こんな抜け道があったんだ」


 そんなこんなで私達はクレハちゃんに案内されながら、屋敷に続く地下通路を慎重に進んでいた。


「失礼ですけど、ノノアさん」

「ん、何?」

「本っっ当に魔物討伐するんですか?」


 ルカちゃんは青ざめた顔で私に尋ねた。

 で、私はあっさり返す。


「そうだよ」

「そうだよって……相手の敵は言わば、この街を裏で牛耳って、おまけに勇者様の討伐も上手くやり過ごした狡猾な魔物なんですよ?」

「そうだね」

「ちょっと無理じゃないですか? 聖女一人の力では太刀打ち出来ないかと……ましてや邪龍討伐も視野に入れるなんて……」

「あー……うん」


 ルカちゃんからの不安の声。

 やっぱりいきなり邪龍討伐目指してるって言っちゃったのは刺激が強かったか。ルカちゃん、私の発言を聞いて以降、見るからに表情曇っちゃったもんな。


 だからって、私は諦める気なんて全然ないんだけど。


「そう……そうだよね」


 私はわざとらしく俯いた。


「! 分かってくれましたか」


 それを見て、ルカちゃんは子犬のように目を輝かせる。

 そんなに嫌なのか、邪龍討伐。


「じゃあここは一度、目標を下方修正して」

「確かに私一人だったら無理な話かもしれない……でも!」


 私は両手でルカちゃんの手を包み込むように握った。


「え? え?」

「今の私には、ルカちゃんがいる。そうでしょ?」

「えっ…………え?」

「ルカちゃんと二人で戦えるなら、きっと私は負けないと思う」

「や、あの、でも僕、戦闘は」


「ね? ルカちゃん」


 相手を見つめにっこりと微笑む。


 ちなみにこれは、勇者アルスが仲間を勧誘する時にやっていた、その真似だ。

 これをやると彼女達は、何故か割と簡単に仲間になってくれるのだ。確かチョロいとか言うらしい。


 だから多分上手く行くはず!


「う、はい……分かりま、した……はぁ……」


 ルカちゃんは渋々といった様子で承諾した。


「……?」

「もう何も言いませ……ん、あれ? ノノアさん、どうかしました?」


 おかしいな。

 アルスが勧誘してた時は、大体みんな照れたような表情浮かべてたんだけどな。ルカちゃんの今の表情からは、それが一つも読み取れなかったぞ。

 うーん。やっぱり勇者じゃないと、この技は難しいのかもしれない。


 ま、ルカちゃんは分かってくれたようだしそれでいっか。


「ううん、なんでもない。それじゃよろしく」

「はい」


 こうして私達は、その後何のトラブルも無く、地下通路を抜けて遂にバロワー家のお屋敷まで辿り着いたのであった。


===


「こっち。この先がお父様達が捕まっている場所」


 屋敷についたのも束の間、私達はクレハちゃんの案内で、別の入り口から屋敷の地下へと向かう。


「えっ、ちょっと待って下さい。なんでまた地下?」


 なんの迷いも無く地下へ潜ろうとする私とクレハちゃんを見て、ルカちゃんが疑問を口にする。


「だってクレハちゃんのご両親助けないと」

「で、でも、この屋敷の魔物、倒すんですよね?」

「倒すよ?」

「じゃあわざわざご両親の救援を急がないで、魔物を倒してからゆっくりと助けた方がいいんじゃないですか? その、下手に屋敷をうろついて、戦闘に巻き込まれるかもしれませんし」

「だから先に助けるの」

「だから先に助ける??」


 ルカちゃんが困惑している間にも、私はどんどん先へと進んでいく。

 すると少し開けた場所にたどり着いた。

 牢屋のような部屋がいくつも並んでいる。


「お父様!」


 そう言ってクレハちゃんが牢屋に向かって駆け寄っていく。


「あ、そんなに大きな声出したら見つかっちゃ……」

「大丈夫」


 慌てて呼び止めようとするルカちゃんを引き留め、私は答えた。

 

「あの子にも、さっき祈りを捧げたの。だからきっと、彼女に不幸は起こらない。それよりも、牢屋を開ける鍵がどの辺にあるか占える?」

「分かりました」


 そう言うとルカちゃんは何もない空間に手をかざし、丸い鏡のようなものを浮かび上がらせた。

 じっとそれを覗き込む。


「あそこですね」


 そこには見張り番と思わしき魔物が一人立っていた。確かに手には鍵を握っている。

 けれど彼は奇跡的にも居眠りをしていたのだった。


「じゃあここは僕が」

「待って」


 真っ先にいこうとするルカちゃんを制止して、私は彼に言った。


「私、こういうの得意だから任せて」

「そんな話初耳ですけど……分かりました」


 ルカちゃんは大人しく私の言葉に従った。


「ありがとう」


 そう告げてから私は静かに魔物の元へ向かう。

 手元にある鍵をそっと抜き取ってと……。


「う……ん?」


 あ、魔物が気付いた。


「お前、何を」


 私はにっこりと笑みを浮かべる。

 そこで魔物は自分の手元に鍵が無いことに気が付いた。


「まさか鍵を」


 手を伸ばしてきたその瞬間、私はそれを避け、自分の持っている杖で彼の腹を思い切り突いた。


「ぐはっ」


 魔物はそのまま崩れ落ちるように倒れ込み、そして気絶してしまった。


「これでゆっくりお休みできますね」


 よし、あとは鍵を開けるだけっと。

 いやあ師匠に護身術習っててよかったなあ。


「お疲れ様でした」

「ただいま」


 戻るとルカちゃんが心配そうにこちらを見つめていた。


「大丈夫でした? なんかさっき、一瞬魔物が起きたような」

「ああそれ、寝返りだったみたい。きっと爆睡してるのね、だからほら今は床に突っ伏して寝てる」

「立ったまま寝返り!? そ、そういう事もあるんですね」

「うん」


 それから私達はクレハちゃんのお父さん達の捕まっている牢屋へと向かった。


「クレハ!」

「お父様、お母様!」


 鍵を開けると、真っ先に彼女のお父さんが駆け寄ってクレハちゃんを抱きしめた。


「よかった……クレハが無事で……!」

「心配したのよ、一人だけあいつらに連れて行かれたから……酷いことはされなかった?」

「うん……今はもう、大丈夫」


 涙をぬぐいながら、クレハちゃんは笑って答えた。


「でも、あの見張りがいる状況から、一体どうやって私達を……」

「お姉ちゃん達が助けてくれたの」

「え?」


 二人は不思議そうな顔をしながら私を見る。


「ど、どうもぉ」

「聖女……様?」

「魔物を倒して助けに来ました、と言いたいところなんですが、実はまだ途中でして……」

「途中? どういうことですか?」


 クレハちゃんのお母さんが首を傾げた。


「魔物の討伐の方がまだなんです」

「なるほど……」


 二人はぽかんとしながら頷いた。

 まあそうなるよね。

 人員不足です、ごめんなさい。


「で、これから魔物の方を倒しにいくのですが、そこで一つお願いがあるんです」

「なんでしょう。お金ですか? 財宝ですか? 人材ですか? でも生憎、今はこんな状況なので大したものはお渡し出来ないのですが」

「いいえ、見返りが欲しい訳じゃないんです。えっと、その……」


 私は三人の顔を見つめた。



「みなさんのこの家、壊しちゃってもいいですか?」

 

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