第5話 三つの感動

虫の鳴き声が絶えず続いている。一筋の汗が少年の頬を伝う。少年の背丈を超える夏草を掻き分け、少年は歩いていた。

「まだ着かないの?」

少年の後ろを歩く少女に問いかける。

「やっと、半分くらいかな」

出会った頃よりも流暢な声で少女は答える。

「結局どこに向かってるの?」

「秘密」

ふふふと笑いながら少女は答える。早朝に少年を起こし、少女はある所へ行こうと誘っていた。

「目的地教えてくれないなら前歩いてよ」

「やだよ、前、歩きづらいから」

少年はため息をつきながらも少女の言う方に歩いて行った。


「あ!ちょっと、止まって!」

少女に言われ、少年は足を止める。

「ここからは、目閉じて欲しいの」

「え?ちょっと怖いな。じゃあ閉じるよ」

少年はぎゅっとめを閉じた。

「はい、そのまま前進んで」

少女は少年の背中を押しながら言う。

「待って待って!めっちゃ怖いんだけど!手引いてくれるとかじゃないの?」

少年は少女に押されるのに耐えながら大声で叫ぶ。

「うるさいなぁ、男なら黙って、進め!」

「会ってから数ヶ月経ったからって扱い酷くね?」

そういう少年に対して、少女はしょうがないなぁとつぶやきながら手を取り進んだ。


日が傾き出した頃二人はやっと目的地に着いた。

「着いたよ。さあ、目を開けて」

目を開けた少年が見たのはふたつの赤い夕日だった。一つは空を赤く染める花、一つは水中を燃やす花のようだった。あまりの美しさに少年は声を失う。

「綺麗でしょ。この季節しか、ふたつは、見えないんだよ。」

あぁ、綺麗だよ。空と水に浮かぶふたつの太陽も、赤く照らされてはしゃぐ君の笑顔も。少年は夕日よりも少女に見とれていた。


その日はそこで野宿し、次の日に村へ帰った。

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