第4話 少女の過去



カラカラと態(わざ)とらしく骨を鳴らし、少女がでてくる。少年は今にもその場から逃げ出したかったが、足が震え、動くことはできなかった。

「おはよう、もう、おきた、のね」

少女は少年を見つけ、声をかける。

少年は愕然(がくぜん)としたままコクコクと首を動かすことしかできなかった。

「なら、朝ごはんに、しよ」

そう提案した少女は村までの道を歩いていった。少年はしばらく動けず、少女が出てきた洞穴を眺めていた。

少年が村に戻ると少女はもう朝ごはんを作り終えていた。

「はやく、たべよ」

少女に催促(さいそく)され少年は席につき、ご飯を食べ始めた。

「あのさ、一つ聞いても良いかな」

少年は勇気振り絞って、その問いを少女に投げる。

「いいよ、何でも、聞いて」

少年と話せることが嬉しかった少女は今か今かと少年の問いに耳を傾ける。

「今日、君が出てきた洞穴のことなんだけど…」

少年の言葉をきいた少女は少し間を開けてから語り出す。

「あそこは、わたしの、たいせつなものが、あるところ。」

「あの骨がぶら下がってるのは?」

「村に、古くから、ある、言い伝え。魔除け、だよ。ほんとは、ナージって、鳥の、骨をつかう、けど、わたしには、捕れないから、他の骨、使ってるの」

あまりよく分からなかったが少年は、あそこには少女のたいせつなものがあるんだろうと、納得した。

「君のたいせつなものって何?」

「ご飯、食べたら、見せて、あげるよ」

少年と少女はご飯を食べ終え、洞穴に続く荒れた道を歩いていった。

少女は洞穴の前でカラカラと骨を鳴らし中に入っていく。少年は気味悪かったが、少女と同じように骨を鳴らし、ついて行った。

少し暗闇を進むと、ぼんやりと明かりが見えてきた。至る所に蝋燭(ろうそく)が立っている。それが永遠と続いている。突き当たりがあるのかすら分からないほどだ。

「これ、だよ。わたしの、たいせつなもの」

そう言いながら壁に近く。それは壁ではなく大量の本だった。全ての本に題名は付いていない。

「読んでみてもいい?」

少女は少し考えたあと、小さく頷いた。

少年は一番端にある本を手に取り、飛ばし飛ばし読んでいった。


-久しぶりに人に会うことができた。とても嬉しい。村の人が居なくなってから誰とも会えなかったから。-

-彼はどんどん成長していくなぁ。私だけ置いていかれてるみたい。可愛いって言われるのは嬉しいけど、私も大人になりたい。-

-彼は随分年老いてしまったよ。やっぱり私は変わらないまま。彼が死んだら私はまた。ひとりぼっちかな。-


読んでいても話の内容がよく分からなかった。少女は歳を取らないのに、彼は年老いていくのか。それが本当なら少女は一体どれくらい長く生きているのか。目の前にいる少女は実は幻影なのではないか。そう思うほどに少年はこの本の内容が理解できなかった。

本をしまい、下段の本を取り出す。


-彼は何人目かしら。もう数えるのはやめてしまったよ。少し気難しい人みたい。あんまり話てくれない。ちょっと寂しいな。-

-身長がものすごく伸びた。私じゃないよ。彼のこと。私は相変わらずだから。あとね、彼は気難しいではなくて、無口なだけだった。たまに見せる甘い笑顔が好き-

-やっぱり彼も私を置いていくのね。なんで私は変わらないままなのかな。置いてかないで。一人にしないで。-


これは少女の日記みたいなものなのだろうか。一冊で一人の人との生活が書かれている。しかし、本は先が見えないほど奥まで並んでいるのだ。少女がそんなにも長く生きているはずがない。きっと少女の創作だろう。少年は自分にそう納得させた。

「君、文章書くの上手いね。とっても面白いよ」

「そう?ありがとう。これは、わたしの、たいせな、記憶、物語なの」

「また、読んで良いかな」

少女はコクっと頷(うなず)き出口の方へ向かっていった。

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