第3話 少女の村



少女の住む村は森を流れる小川の上流にある小さな村だった。河原に開いたわずかな平地と、傾斜地(けいしゃち)を刮(こそ)げるようにして開いた段々畑で、雑穀と野菜を作り三十人程の人々が住んでいた。そこら中にあるお椀(おわん)を伏せたようなものは彼らの泥壁でできた家だった。しかしこれは、遠い昔の話である。その家の殆どは半壊、全壊し、ただの泥の塊と化していた。作物を植えていた場所には雑草が生い茂り、かつての面影は何処にもなかった。廃村。この言葉が良く似合う、そんな有様だった。

そこに一つだけ手入れされ、綺麗な状態を保った家があった。それは少女が住む家だった。少女は少年を家に招き入れた。

「ここが、わたしの、家。ちょっと、狭いけど、我慢してね」

「家に入れてくれてありがとう。ところで他の人達は?」

何気なく少年は少女にそう聞いた。少女は首を傾げたまま何も言わない。

「他の人達は何処にいるの?」

少年は少女に聞き直した。少女は困った顔をして答える。

「貴方は、一人だった、よね?」

話が噛み合わない。少年はもっと分かりやすく、少女に問いかけた。

「君の両親は?他の家に住んでる人達は?まるで気配がなかったけど…」

少女はキョトンとした顔をしたまま答えた。

「私は、ずっと、一人だよ。もう、長い間、ずっと。」

少年は困惑した。少女はこんな森の中でずっと一人で生きているというのか。一体いつから。どうして。少女は嘘をついているのか。様々な考えが浮かんだが、荒れ果てた村の有り様から少女の言っていることを信じざるを得なかった。

「君が良ければしばらくここに住んでも良いかな」

そう少年が言うと少女は花を咲かせた様な笑顔で頷いた。

その日はもう日が傾きかけていたため二人はすぐに眠りについた。


朝、目を覚ますと、泥の壁が少年の目の前に迫っていた。ただ、それは動かない。少女の家で寝たんだと少年は思い出す。少女の姿を探すが見当たらなかった。きっともっと早く起きて外にいるんだろう。そう思い、少年は外へでた。

荒れた小道を進み、川へ行き、顔を洗った。眠気は一気に吹っ飛び、春風が気持ちよく頬を触った。小川の先に道が続いいたため少年はその先に行くことにした。

そこには洞穴があった。入口には丸太の棒が立っていて、その間には、鳥や動物の骨がぶら下げられていた。中から足音が聞こえ、少年の身の毛がよだつ。しかし、出てきたのは少女だった。

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