第2話 少女と少年



春は花が咲き乱れ、夏は深緑が木陰を作り、秋は落葉の雨が降り注ぎ、冬は銀花が白く染める。

季節の移ろいが分かりやすい、そんな森林に一人の少女が住んでいた。

天使のような顔立ち、透き通るような白い肌、銀糸を束ねた様な髪、鮮黄色(せんきいろ)の右眼と瑠璃色(るりいろ)の左眼を生まれつき持っていた。一目見れば誰もが心を奪われる、そんな容姿だが少女の周りに人は居なかった。長い間少女は一人でこの森で暮らしていた。

夜明けと共に目覚め、森を散歩する。他にやる事が無いため少女はこれを毎日繰り返す。自然が織り成す風景は日々変化し、少女を飽きさせることは無かった。ただ、一人の寂しさだけは拭うことが出来なかった。

季節は春。春風が鼻をくすぐる。先般(せんぱん)まで、吐息すら凍りつかせそうだった一帯を、今はただ、日照に心躍らせる春の陽気が包んだ。少女は緋色(ひいろ)の花を手に取るとふっと微笑んだ。

いつもの道を歩いていると少女はすぐに異変に気が付いた。花が踏み潰されている。その先にも足跡が続いていることから意図的ではないと分かったが少女は悲しくなった。

「久しぶりに、人に、会える?」

その喜びが勝り、少女は足跡が続く先へ向かった。足跡の歩幅は少女と同じか少し広い、少女と同じような年齢なのだろうか。少女は期待を膨らませながら小走りで足跡を追った。

半時ほど歩くと巨木の元で蹲(うずくま)る少年を見つけた。



少年はまた、何かに見られている気がして目を覚ました。一人の少女が物珍しそうに少年を見ている。

「うわぁあああ」

少年は飛び起き、木の根に引っかかりその場で盛大に転けた。少女はそんな少年をそのまま見ていた。少年は恐る恐る少女に話しかける。

「君は誰?ここは何処?」

「わたし、なまえは、無い」

首を傾げ少女が答える。

「ここは、森の中」

途切れ途切れの声で分かりきったことを言う。

「どこに行けば森から出られる?近くに街があれば良いんだけど」

少年が問うと少女は困った顔をした。

「森のことは、何でも知ってる、けど、外は、知らない」

「じゃあ、君の住んでる所に連れてってよ」

少女はこくっと頷き歩き出した。少年は慌てて後を追い、隣に並んだ。

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