第2話✿アウラ領に着きました
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アウラ領に着きました!
馬車でゆっくりペースの旅でしたがとても楽しかったです。
主な街道沿いには馬車を停めて休憩したり、乗客の天幕を張って宿泊する為の駐車場が一定間隔で設けられております。
入り口にはちゃんと詰め所があり、中には兵士さんが2~3人ほど常駐してくれているので、盗賊が襲ってきたりドラブルがあれば即時対応してくれます。
また、魔物なんかは駐車場の敷地全体に魔物が忌避する魔法陣が随所に埋め込まれてるので、安心して眠ることができました。
休憩の度にルルさんが気を使ってくれたり、同じくアウラ領に行く行商人さんとお食事をしてお話を聞いたりしてました。
ここ近年、アウラ領は住みやすくなったという話ですので、私が住んでアルバイトが出来る可能性も大きそうです。
私、アルバイトには自信があるのです。
「ルルさん、ありがとうございます。まずは領主様の所へご挨拶に行かねばならないのです。そこでアルバイト先を斡旋して頂ければ大丈夫そうです」
この二日間、お世話になったルルさんと馬のインスさん、ヤンガーさんに別れのご挨拶をいたしました。
白と黒のお馬さんたちには角砂糖も。
「エル、気を付けるんだよ。あたしは定期的ではないけれど、少なくとも週に1度はここまで来る。だから、何かあれば停留所にある案内所にあたし宛にメモを預けておくれ。行きたい所への馬車を紹介するから」
「その時はお願いしますね。それ以外でも余裕があれば会いに来ます」
「いいね。その時はランチでもしよう」
「はい!」
ルルさんとはそこで別れ、私はアウラ街にある領主邸まで歩いていきます。
幸い、小さな鞄一つですので歩くのは楽ちんでした。
「領主邸かい? あの大きな赤葡萄色の屋根だよ」
「ありがとうございます」
ふと、領主邸がどこにあるのか解らないことが解りましたので、果物屋の露店の女将さんに質問したら、快く教えて下さいました。
「こちらのスリムアプリルを三つほど頂けますか?」
「なんだい? お礼なら気にしなくていいのに」
「いえ、こちらのスリムタイプのアプリルはアウラ領の特産品ですよね。食べたことがないので……」
「そうかい、オマケしようかね。あとこっちのなんだけれど運ぶ途中でぶつかってしまったのを二個でどうだい?」
「本当ですか? 嬉しいです!」
スリムアプリルはその名前の通り、私の手の平位の小さくて縦に長いアプリルです。
酸味が少なくて果汁が多く、酸味と甘未は少ないのでタルトやコンポート、果実水の香りづけにも丁度いいアウラ領の特産品の一つです。
アウラ領は果樹園が多く、他にもこの土地で品種改良されたものが多いのが特徴ですね。
女将さんから合計五つのアプリルをもらい、お金を払うと鞄の中にしまい込みます。
一つだけ出して食べ歩こうかなと思いましたけれど、お昼ご飯がまだでしたのでこちらは後程の楽しみにとっておきましょう。
「ご飯屋さんは……と」
うっかりです。
先ほどの女将さんに聞いておけばよかったですね。
でも周りを見渡せば食堂の看板くらいはあるはずです。
「ありましたね」
少し行った場所に食堂の看板がありました。
識字率が低いえいもあり、店名の文字よりも絵が目立っているのですぐわかりました。
ナイフとフォークにプラスして骨付き肉とパンを象った看板が店の軒下にぶら下がっています。
「こんにちわ、食事を頂きたいのですが席は空いておりますでしょうか?」
「おや、なんだい。良い所のお嬢さんがこんなところに。席は空いているけれどここでいいのかい?」
「ええ、ここがいいのです。お勧めを一人分、お願いします」
良い所のお嬢さん、だなんて言われたのは初めてですね。
ちょっとびっくりです。
「ならここにどうぞ。ウチのお勧めは大雉の香草グリルだよ。スープとパン、果実水1杯付で銅貨5枚だ」
「ではそれを。こちらがお代になります」
この世界では食事は先払いが基本です。
注文取りの伝票などありませんからね。
程なくして出てきたそれは、香草が効いていてとてもおいしかったです。
カナリアも雉の料理が得意でしたね。
たった二日前の出来事なのに、なんだか懐かしいです。
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「え? 本当に一人で来たの?? 護衛は? 送ってくれた人は???」
アウラ領主、カルセドニー・リトス・サードニクス様はとても驚いておりました。
はい、名前から察します通り、お父様の弟の息子さん……つまり、私とは従兄です。
「いいえ、きちんと一人で参りましたよ。王城でこの領へと言われたので戻ってすぐ荷物をまとめて乗合馬車で参りました」
「一人でってお前ね……。女の子の一人旅とか良くアレキサンドライト様が許したね」
「いいえ?お会いしてませんでしたので、許可もなにも……?」
はて、なぜアレキサンドライト様のお名前が挙がったのでしょう?
この国の第一王子様が私と何の関りが……?
「あー、いや。うん。……とりあえず、ここに住みなさい、エル。これからは苦労しなくていいんだからね?」
「いえ、おにー様。私はこの領でアルバイトをして生計を立てていきますので、問題なく」
年上のオニキスお兄様なのでおにー様、です。
我ながらよい呼び方です。
「……ならこの屋敷で、ただのエルとしてアルバイトしてはどうかな? いつも通り他のアルバイト優先でいいよ?」
「……でも、それでは他の皆様に申し訳ないのでは……」
「いいんだよ。うちは通いもいるし、時間帯や曜日で雇っているのも多い。それに、エルは私の仕事の補助として予め他の仕事で急に呼び出されることがある、としておけばいいさ。メイド長のアマランサスは覚えているだろう? アマラにも協力してもらうでいいね」
「はい、アマラおば様ですね」
この家のメイド長であるアマランサスおば様は、仕事に一切の妥協を許さない厳格な人なのですが、お母様を慕っていて娘である私に毎年の誕生日にお手紙とお菓子を贈ってくれていました。
事あるごとに、おにー様に『この家で花嫁修業を!』と具申していたのですが、王都では私はアルバイトをしていたのでお断りしていたのです。
「ではそういうことで。アマラには伝えておくから、今日はもう客間に行って休んでなさい。夕食には呼ぶのでそれまで自由にしてていいよ。お風呂や着替えは一人でできるね?」
「はい。いつも一人でやってましたから」
「……背中のアレは誰にも見せないように」
「わかってます。おにー様……いえ、オニキス様」
「……うん。では下がっていいよ。クレメオ、エルを仕事用の部屋に案内して」
「かしこまりました、オニキス様」
こうして、私はオニキス様の専属となりました。
アルバイトも続けていいとのことなので、ありがたい話です。
執事のクレメオさんにお部屋に案内してもらいました。
おにー様の仕事用専属、ということで執務室に近い、机と本棚がある従業員用のお部屋を頂きました。
寝室と繋がっている二部屋続きで、王都の私のお部屋よりも豪華で広くなりました。
こんな良い部屋を使ってしまって、いいのでしょうか?
「エーデルシュタインお嬢様はオニキス様の大切なご親類というのもありますが、あの方の専属、という区別をしなければなりません。その為なので大丈夫ですよ」
「クレメオおじ様。ここではただのエルですので、宜しくお願い致します」
「これは失礼いたしました。ではエル。明日から宜しくお願い致します。朝と夕はオニキス様とご一緒のお食事となります。詳しくは明日、アマラからお聞きください。それ以外は基本一人で、となります」
「かしこまりました。クレメオさん」
クレメオさんはアマラさんのお兄様です。
なので小さい頃から面識もあり、私やお母様の事をよく知っておりました。
うん、頑張りましょう。私。
ここでもアルバイトの成果が生かせるように!
えいえいおー!なのです。
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