第3話‪✿‬アルバイト再開です!

 ❁✿✾*✾✿❁︎


 お部屋に通されたので早速手荷物を置きに寝室へ。


「まぁ……!」


 王都の御屋敷よりも広い寝室にビックリしてしまいました。

 王都の時はこの部屋だけで書斎と寝室を兼ねていたのに。

 オニキス様のお仕事はそんなにも大変なのでしょうか?

 これは気を引き締めないといけませんね。


「さて、に向けて少し寝ましょうか」


 予めクレメオさんに夕飯は要らないとお伝えしておいたので、そっとしておいて貰えるはず。

 王都の部屋よりもふかふかなベッドなんて、2度びっくりですね。

 オニキス様のお仕事、頑張らなくては!


「おやすみなさい……お父様、お母様……」


 あれからどの位過ぎたのでしょうか、辺りはもう真っ暗です。

 私は目が覚めると手探りでサイドテーブルに置いた懐中時計を手繰り寄せると、蓋を開けて時間を確認致しました。

 真っ暗なのにちゃんと文字盤も読めますよ?私、暗い所は得意なのです。


「お時間も良さそうですね……では……」


 私はドレッサーの椅子においたままの手持ち鞄の中から、1枚の羊皮紙を取り出しました。

 それを床に広げると、胸に着けていたブローチを置き、花瓶から1輪の白い花も添えました。


 その羊皮紙には魔法陣がいくつも重なって描かれていて、パッと見は黒い円にしか見えません。

 ですが魔塔の人間が見れば、であるのか解るようです。

 これを使う時は周りには注意なさい、と言われております。


 羊皮紙の前に跪き、手を組んで祈るように起動キーを告げる。


祈る祈るアクセスひとひらの花よりログイン水精の姫へパスワード交信を求めますリンクスタート


 すると魔法陣が薄緑色に光り輝き、幾重にも展開して立体型魔法陣を形成しました。

 そしてそれが部屋全体に広がり固定されますと、どこからがお声が聞こえてきました。

 鈴のようにころころとした、可愛らしい少女のお声です。


『エデンちゃん?もう大丈夫なの?』

「はい、姫様。もう大丈夫ですよ」

『そう?でも無理はしないでね。あとお父様へのお花代を振り込んでおいたので機会があればお墓に添えてあげてね?』

「いつもありがとうございます。あの、父は……」

『うん、今アルケーちゃんと一緒に保養地にいるよ。アルケーちゃん、ずっと心配してたからねぇ』

「お母様もお父様も、でお過ごし頂けているなら良かったです」

『では、【アルバイト】の再開でいいのかな?』

「はい。今後ともよろしくお願いします」

『では詳細を送るので、宜しくね』

「はい。私、頑張りますね」

『うん。無茶だけはしないでね。あと、頼まれていたもののレストアとバージョンアップもしておいたから。依頼書と共におくるね』

「ありがとうございます」


 こうして【お仕事の依頼】のお話が終わりました。

 魔法陣は展開した時と同じようにぱたぱたと羊皮紙にしまわれて行きます。

 そして残ったのは1枚の依頼書と、お願いしていたものがひと揃い。


「今回はアウラ領がメインのお仕事なのですね。姫様、私頑張ります」



 ❁✿✾*✾✿❁︎



 私のお母様はアルケーというお名前でした。

 生まれた時に死んだといいましたが、正確には連れ戻されてしまったのです。

 どこへというと、【天界】と呼ばれる異世界のひとつに。


 天国ではありませんよ、天界です。

 お母様は天界で天司のお仕事をしていて、たまたまこの世界に来た時に事故で天界と通信が取れなくなり、困っていたところをお父様に救われました。

 幸い、通信だけ出来なくなっただけなので、天司の力は現在、そのままこの世界でのお仕事に従事しておりました。

 真面目で仕事熱心な人だったそうです。


 そして、お父様との愛の結晶を身ごもった瞬間、天界からの捜索隊がきたのです。

 当然、私ごと連れ戻すつもりだったのですが、その時隊を率いていた水色の次世代神様がご自身の力で私を無かったものにしようとした瞬間、すぱーん!とハリセンが飛んでまいりました。

 突っ込んだのは次世代神様のお母様である、姫様です。

 その場で次世代神様を正座させてお説教をし、引き上げさせたあと、お父様にお母様のメンテナンスをしなければこのままでは存在自体が消滅する、と言われました。

 お父様は涙を飲んでお母様の天界帰りを承諾。

 しかし、お母様が今まで培ってきた評価やお父様への恩もあり、私は生まれてすぐ、お父様の手元へ戻る事になったのです。

 お母様のメンテナンス中は面倒を見てくれる人が居ないのもあったようです。

 居るには居るんだけどねぇ……、と姫様は言葉を濁していたので、きっとお父様の元で育った方が良かったのでしょう。

 お父様は生きてお母様に会うことは叶いませんでしたが、姫様はお父様の魂を救いあげ、お母様と居られるようにして下さいました。

 ありがたい事です。


 そして今、お母様の代わりに私がお仕事アルバイトをしているのです。

 内容は簡単。

 この世界へちょっかい掛けてくるモノを斬ればいいのです。

 そのために姫様は私に武器を下賜されました。

 神器・ハルバートのハルくんです。

 それを補助するガントレットと、靴も頂きました。


 そして、今夜。

 それを振るう時がきたのです。

 姫様、私頑張りますね!

 天界のお父様、お母様。見守っててください。

 エルはきちんと、お仕事をこなしてみせます!



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