貧乏令嬢は領地でアルバイトをする事にした

葎璃蓮

第1話‪✿‬領地でアルバイト

 ❁✿✾*✾✿❁︎



「本日を以て、エーデルシュタイン・リトス・サードニクスをアウラ領地に送る。皆もそのつもりで準備を!」


 と、国王様がおっしゃいました。

 そうですね、没落寸前の貧乏貴族などお国に取っては赤字垂れ流しの不良在庫ですものね。


 先月お父様が亡くなりましたので爵位をどうするか、これからどうすれば良いのかと友人に相談したところ、あれよあれよと国王様との面談となりました。

 国王様は私の話をじっと聞いてくださってから、二、三質問を致しました。

 それに正直に答えていましたら、どうしてだか頭を抱え始め、先程のお言葉を賜りました。

 お母様は私を産んですぐに、お父様も先月亡くなりまして天涯孤独となりましたのである意味では身軽だからでしょうか。

 そもそも、家は貴族と言えど領地もなく、お国に貢献していない寄生貴族と後ろ指刺されてましたので、私の話はちょうどよい厄介払いなのでしょう。

 それも運命ですから受け入れますとも。


「ではエーデルワイス嬢、下がって良い」

「かしこまりました、陛下。お時間を割いていただきましたこと、感謝致します」


 ちょん、とお辞儀をしてから退室致しました。

 私の名前、エーデルシュタインなのですが、国王様にとってはそれも些事なのでしょう。


 さてと、気を取り直して屋敷に戻って参りました。

 屋敷と言ってもお国から貸与されたこじんまりとしたお家なので、自分たちで購入したもの以外はお国の物。

 屋敷で働いてくれている使用人さんや、着るもの、食べるものすらお国からのお金で賄っておりましたので、本当に身一つと僅かな荷物しかありません。

 まずはと魔法鞄と連動した空間収納に自分の物、お父様の物を全て保管。

 この魔法鞄の良いところは魔法鞄としてでも普通の鞄としてでも使えるツーウェイタイプなのが良いですね。

 意識して開け閉めすれば魔法鞄と普通の鞄とオンオフ可能なのです。

 そして、普通の方にお父様が残してくれた幾ばくかの現金と小さな宝石をお財布に入れ、ハンカチ2枚とお気に入りの飴玉を1袋いれて準備は終わりました。


「カナリア、お世話になりました」

「いえ、お世話になりましたのはこちらの方です、エルお嬢様」


 年老いた使用人のカナリアはお母様の出産にも立ち会った、言わば第2のお母様のような人でした。

 もう傍に居られないのは悲しいのですが、私はもう領地へ行かなければならない身。

 カナリアや他の使用人にご挨拶をして、この家を綺麗に掃除してからお国に返してください、とお願いした。


 家の門を出て、寄り合い馬車の乗り場がある城門前まで歩いていく。

 途中、何枚かのクッキーとお気に入りの飴玉の袋を3つずつ買った。

 ご飯は厨房係のハンスさんが日持ちする物をこれでもかとくれたので、当面は大丈夫でしょう。


「アウラ領地行き!2泊3日コース。駐車場で2泊、各日休憩3回、朝夕食付き明後日の昼には到着予定!護衛1人付き」


 と書かれた看板を見つけてお値段を聞いてみた。


「のんびりコースなので割安だよ。1人金貨1枚だ!」


 と、指を1本立てて御者さんは言う。

 褐色の肌に黒い髪、猫耳猫しっぽの亜種族さんでした。

 見れば歳も同じぐらいなので、なんだか勝手に親近感が湧いて来てしまい、金貨1枚をお支払い致しました。


「えっと、言っておいてなんだけど、良いのかい?あたしは獣人なんだけど……」

「はい、可愛らしいお耳としっぽですね。黒髪も獅子のようでかっこいいです」

「へ?えっと……うん、あんたがいいならいいけどさ……。普通は獣人のあたしみたいな小娘がー、とか言うのに」


 御者さんはモジモジしながらそう仰いました。


「でも貴女は御者をして生計を立てているのでしょう?立派じゃないですか」


 少なくとも、後ろ指刺されていた家よりは。


「まぁね!獣人にたまにあるスキルなんだけど、動物言語があるから馬の機嫌と状態位は解るんだよ。だからゆっくりコースしかやれないんだけどね」

「快速ですと、途中の街でお馬さんを替えながらですからね、それに、お馬さんの限界ギリギリまで走らせてしまうのは可哀想です」

「そうそれ。何回か限界ギリギリまで走らせた馬の世話をしたけどさ、人間不信になりやすくなるんだよ。それが嫌でねぇ」

「そうなんですね……。あの、お馬さんに角砂糖をあげても?」

「え?良いのかい?こっちは有難いけれど、高級品じゃん?」

「訳あってアウラ領地まで行く身ですので、多少は用意してましたの」


 そう言って私は御者さんに角砂糖を2つ、お渡ししました。


「ありがとうよ、お嬢さん。あたしはルルカラ。ルルって呼んで!あとこっちの白い馬はインス、あっちの黒い馬はヤンリーだ」

「ルルさん、インスさん、ヤンリーさん。エルと申します。アウラ領地までよろしくお願いしますね」


 こうして、のんびりとアウラ領地まで行くことが出来そうです。

 良かった良かった。


「所でエルはアウラ領地になにしに?」

「アルバイトをしに!」

「えっ?」



 ❁✿✾*✾✿❁︎



 2日後。


「は?もうアウラ領地に旅立った……?」

「はい、王城から戻られて直ぐに」

「えーーー?!」


 まってまってまって?!

 なんで沙汰を待たないで直ぐに行動するのかな、あの娘は!!

 あーでも、昔から変に行動力と度胸だけはあったんだよなぁ。

 あと父上もほんと、気が動転してたとはいえ、説明不足にも程があるよね!

 普通は後で迎えを出すとか、支度金云々の話をするだろうに、全く!

 その尻拭いを私がする事になったので、エルの屋敷に来てみればこれだ。

 この家を売れば大金だったのに国に返上するとか言ってたらしいし!

 え?この家がお国からの貸与だと思ってた?は?ありえないんですけど??

 この家、エルとそのお父君へのお礼として授与されたんですけど?

 いやもうほんとありえない。

 あーもう、腹を括りますかね!


「1度城に戻り、準備をしてから追いかけるよ……」

「そうなさいまし、アレキサンドライト殿下」

「昔みたいにアレクでいいよ、カナリア」

「……アレク様。をよろしくお願いします。あの娘はどうにも、ふわふわしてますから……」

「うん。カナリア、今までありがとう。エルの事を黙っていてくれて」

「いえ、あのお方……様に任されましたので……」


 カナリアと別れて直ぐに城に戻った。

 あの娘の秘密は守らねばならない。


 何せこの世でもう、たった1人しかいない【   】なのだから……。

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