第9話 『狂気』

階段を降りた先、そこには大きな机と包丁。

そして隅に積まれた大量の骨。

それだけで僕は何が起きたのか分かってしまい気分が悪くなる。

それに気づいた姉御が頭を撫でてくる、少し嬉しいがさっさと調査をする為に払い除ける。

しかし、また撫でてくる。それを払い除けようと手をやるとガッと掴まれ。


「なぁユウ、あんたはアタシの妹分。つまり妹なんだよ、姉妹だったらおねぇちゃんのが偉いよな?」


そう言う姉御の目は虚で怖い、それに固まっていると寛さんが助け舟をだしてくれた。


「巴さん、貴女はお姉さんであるならば妹さんへのお手本にならなくては。それに、ユウさんはお姉さんに良いところを見せたかったんですよね」


僕がその言葉に頷くと姉御は照れたように笑い。


「しょうがないなぁユウは。おねぇちゃんがお手本見せてやるからちゃんと見てるだぞ」


そう言って頭から手をパッと離して何かおかしい所はないか探しにいく。

僕がそれに驚いていると寛さんが理由を説明してくれた。


「巴さんはどうやら貴女に依存しているようです、短時間で強烈な体験をしてしまったからか心がやられてしまっています。その為、心の防衛反応として貴女を妹と思い込む事で自我を保っています。まぁ、一時的な物でありすぐ治ります」


成る程、確かに立て続けにこんな事が起きてる訳だし納得。

その後一緒に探索するも何も見つからず引き上げる事にした。

外はもうすっかり暗くなって満月が出ている。


「夜、ですか。少し長居し過ぎましたね、早く帰って誤解を解きに行きましょう」


そう言って扉から出て行く寛さん、私と姉御もそれについて行く。


しかしそれはすぐに止まってしまった。


「どうしました?」


僕がそう言うと寛さんは手を後ろにやり。


「逃げますよ」


と言った。その言葉が気になり寛さんの目の前にいる者を見る、そこには。


「宗弘」


件の殺人鬼が笑顔でいた。


「おお、あの時の坊主。どうしたんだこんな時間に、寝る時間だぞ」


そう言う宗弘さんの顔といい雰囲気といい、殺人をするような人には見えない。しかし、証拠もある上正体を知っている僕からすると恐怖すら感じる。

しかし、僕は宗弘さんの前に出て会話をする


「昨日ぶりですか宗弘さん」


それに対して寛さんが何か言いたそうに肩を叩いたが此方が寛さんの目を見るとすぐ僕の考えが分かったのか走って行く。

姉御は寛さんに連れられて行くが抵抗して、最後まで僕の事を心配してた。

それに対して宗弘は


「あぁ、2人は行ってしまったのか。全くなんて薄情な人達だろうか、坊主もそう思わないか?」


「いいえ、そうは思いませんよ。だって僕がそう頼んだのですから」


と返す僕に驚いたのか質問してくる。


「坊主、お前儂が怖くないのか?今の儂は銃を持っている、その上1人だ」


「怖くないよ、宗弘さんは僕を食べる為に刺し殺すか絞め殺す。さっきのだってそうだった、でしょ?」


僕がそう言うと宗弘は驚いたのか目を見開き、正解と言った。

驚いた様子を笑いながら宗弘に質問をする。


「さっきから宗弘さんばっかり質問してるから僕も聞いて良い?」


「いいぞ」


そう言うとあっさり了承してくれたので質問をする。


「はいかいいえで答えてね。あの2人を、地下に有った骨たちを殺したのは宗弘さん、貴方ですか?」


「あぁ」


宗弘は何を嘘をつくといった態度で答える。

よしここまでは良いぞ。


「じゃあ次に、人を食べましたか?それで食べたなら、美味しかったですか?」


僕がそう言うと恍惚とした表情で。


「勿論、美味しかった」

「昔は肉が食えなくてなぁ、米ばっか食ってた訳よ。肉は伝説の食材だった。しかしそんな時に肉を食べる機会が訪れる訳だ。それが坊主にも言った例の事件、村の人間が殺された話だ」

「そこで儂は目の前で人が殺されたのを見た、しかしだ。それ以上に目を奪われたんだ、その人間の肉に。綺麗な赤身でよ、その男が去った後にガツガツと食ってよ」

「あまりの美味しさに涙が出てきてよ、まぁその涙が功をせいしたのか大人が来た時によ。俺は強制されてこの人達を食べてたって事になってお咎めなし」


最高だったと話す宗弘に対して僕は続けてこう言った。


「では、その食べた人間の中に家族はいますか?」


僕がそう言うと宗弘は。


「食う訳ないだろ!儂の大切な家族だ!」


しかしその後に。


「しかし、その家族らしき骨が一塊になって置かれてましたよ?」


勿論嘘である、しかしもしかしたらと思い聞いてみた。すると宗弘は僕を怒鳴りつけ、ハッキリと自分の口で言う。


「何を言っている、骨は家の裏に埋めてある!嘘を吐いたな!」


「自分で言ってるじゃないですか」


僕がそう言うと宗弘の銃が肩からずり落ちる、足元から崩れ落ち宗弘は下を向いて独白する。


「儂は、儂は悪くない、不幸な事故だったんだ。家族でハイキングに来た時に地面が崩れて遭難したんだ、儂以外は死んでしまった」


「それで生き残る為に食ったと」


僕がその先を言うと宗弘は。


「そうだ、しょうがなかったんだ。生き残る為には食うしかなかったんだ」


と心底悲しそうな声で言った後、風向きが変わる。


「でもよぉ、その時の味が美味くてよ。その味が忘れられなくて救助された後、数年は落ち込んじまった」


そのまで言うと宗弘は顔をバッと上げ。でもよぉ、気づいちまったんだと言って銃を拾って立ち上がる。


「山は年間で何人も行方不明になる奴がいる、だったらそん中に1人や2人殺した奴が混じってもわかんねぇよな」


そこまで言い切りこちらに銃を向ける。しかし、その時宗弘は頭を後ろからぶん殴られ仰向けになって倒れる。

宗弘が倒れ、それを実行した者が見える。その者は。


「寛さん、遅かったですね」


僕がそう言うと寛さんは。


「いやぁ、ユウさんの誘導尋問が上手だったのでつい」


全く悪びれる感じもせずにそう言った。

あの時、僕は先に姉御を送り届けて助けに来て欲しい。そう考えていたのだが綺麗に伝わったようだ、なんで伝わったんだ?しかしなんとか助かった。

そう思うと僕の体は脱力し、へなへなと崩れ落ちた。


「助かった〜」




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